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011-男だって上裸は辛いよ。

 VRMMOというジャンルにおいて、基本的に『街』と呼ばれる施設はプレイヤーが活動の拠点として使いやすいように設計されている。

 それはこの『天骸のエストレア』でも変わることはなく、事実『角獣の街』には多くのプレイヤー達がいた。

 そう、多くの、プレイヤー達が。


「…………憂鬱だ……」


 『宿屋』と呼ばれる建物でリスポーンポイント―――死亡した際の復活地点―――を更新し、ざっと一通り街の構造を確認した後、入った門と真逆に位置する門……つまるところ、『角獣の神星骸』へと続く門から出ながら、俺は深く肩を落とし、街に入るまでの倍以上は重くなった足を引きずっていた。

 その理由? ごく単純だ。

 好奇や憐れみのような視線を全身に浴びながら街を散策したからだ。

 しかもやたら多いカップルプレイヤー達の。

 ……どうやらこの『天骸のエストレア』とかいうゲーム、全体的にビジュアルが落ち着いていて洒落ているせいか、ああいった手合いのプレイヤー層が多いらしい。

 いや、普通であれば別になにも思わない……というか、基本的にマニアクスにカップルは存在しないので、どう思えと言われても、こちらから見ても珍獣見つけたみたいな感じなのだが……。

 ああまで露骨に嘲りの視線を向けられると、流石に堪える……。


「あいつがいなくて良かったと思って誤魔化すしかない……」


 ……堪えたのだが、少なくとも最悪のケース―――こんな俺の姿を見たら『あらぁ~~~!? これは大変貴重な……文化的大発見ですわぁ~~~!! 普段くそげーしかしてらっしゃらないお方は神ゲーをプレイすると上裸になりますのね~~~!! 環境に適応できなくて衣類が弾け飛んでしまったのかしら~~~!? 仕方ありませんわよねぇ~~~! 深海魚みたいなものですものねぇ~~~!!』とか言ってきそうな月文字と出会うという最悪のケースは回避したことに、僅かな喜びを覚えることで、なんとか折れかけた心を持ち直す。

 …………。

 ……。

 いや、流石にそこまでは言わないか? 流石の月文字でも。

 言わない……。

 …………。

 ……。

 どちらかと言うと、言いそうだなぁ……。


「ハァーーー………………」


 もう溜め息しか出ない。

 そんな俺の溜め息を鋭い聴覚で聞き取ったのか、草陰からホーンウルフが2頭ほど飛び出してきて不意打ち気味に襲い掛かってきた。

 ので、片方は突進の進路上に、心臓部を直撃するように直剣を突き出して撃破。

 もう片方は流石に間に合わないので半身ずらして突進を回避した後、向けられた背へと逆手に持ち替えた直剣を突き立て、流石にこれはクリティカル扱いにならず一撃で倒せなかったため、そのまま即座に持ち替え振り返った首を刎ねる。


「盾を使う気すら起こらん……」


 真っ当な精神状態なら律義に付き合ってやったところだが、今の俺にはそんな余裕がない。

 ようは、今の俺はマニアクスを〝攻略〟する時の精神状態に近い。

 直近で例えれば『ひぐらし☆ハイスクル ~親の都合でド田舎に引っ越し憂鬱だった俺ですが平均年齢50オーバーの過疎島に現存する高校生男児は俺一人だったため自動的にJKハーレム生活を送ることとなり俺の恋愛感情は完全に有頂天になったのだが?~』でクラスメイトを殺し回って金を集めている時と同じ状態というわけだ。

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