第8話 初恋の人としても、初めての友人としても
あおいちゃんが家に遊びに来た翌日の土曜日。
私はあおいちゃんと最寄り駅で集まることになった。
集合時間の30分前。私は約束した時計台の前で何度もスマホをちらちらと見て、あおいちゃんからメッセージが来ていないかを確認する。
それから、メッセージが来ていないことを確認してから、スマホの画面に映る自分の姿を見て手櫛で髪を整える。
すると、スマホの画面に映る自分の顔が緩んでいたことに気づいた。
だ、だめだっ、どうしても表情が緩んでしまうっ。
私は気を抜くとすぐに緩んでしまう口角をぐにぐにと引っ張って、だらしない顔を引きしめる。
それでもすぐに顔が緩んでしまった頬をパンパンっと小さく叩くが、またすぐに緩んでしまった。
まぁ、喜ぶなって言う方が無理だよね。
十数年ぶりに再会した初恋の人と休日に遊びに行くのだ。そんなお出かけデートのような状況なのに、意識するなという方が無理だ。
それに、友達とこうして遠くに出かけるというのも初めての経験だ。
そんな恋心と友情、あとは少しの冒険感なんかが胸を刺激して、高揚感から自然と私の口角を上げようとする。
……そういえば、こんな服しかなかったんだけど、これおかしくないかな?
私はそう考えて、自分が来ている服に目を落す。
私が着ている服はグレーのワイドパンツに白のTシャツ、その上にカーディガンが羽織った格好をしていた。
正直、こんな感じでも一番私の中ではいい服装だった。
ただのお出かけなのに浮かれ過ぎていると思われたりしないかな?
「ゆりちゃーん!」
私がそんな心配をして着ている服に目を落していると、あおいちゃんの声が聞こえた。
私がパッと顔を上げると、こちらに小走りで向かってきているあおいちゃんがいた。
フェミニンな感じのシンプルなブラウスと、太ももが見えるシンプルな黒のミニスカート。そんなあおいちゃんのシンプルなのに女の子らしいファッションを前に、私は小さく声を漏らした。
「お、女の子だ」
「そうだけど、それはゆりちゃんもでしょ」
あおいちゃんは私のもとに来るなり、冷静にそんなツッコミをした。
いや、どう見ても私とは明らかに違う。
そう考えながらも、初めて見るあおいちゃんの私服姿を前にして、私は鼓動の音をうるさくさせていた。
「えっと、ゆりちゃんなにか良いことあった?」
「え⁉ な、なんで?」
「いつもよりも口角が上がっているから、かな?」
あおいちゃんはそう言って、笑みを浮かべて上がった両方の口角を両手で指さした。
か、可愛いな。
私はそう考えながら慌てて口元を隠すが、今さら隠したところで遅すぎた。
また無意識のうちに顔が緩んでた!
私は言い逃れできないような状況であることを察して、理由のうちの一つを口にすることにした。
「だ、だって、ずっとあおいちゃんと遊びたいと思ってたから、嬉しくて」
あおいちゃんは私の言葉を聞いて、ぱぁっと顔を明るくさせる。
「嬉しいこと言ってくれるじゃん! 私もずっと遊びたいって思ってたよ!」
それから、あおいちゃんは屈託のない笑みを私に向けてきた。しかし、あおいちゃんはすぐに何かに気づいたような声を漏らした。
「あれ? ゆりちゃん」
「え、なに?」
どうしたのだろうと思ってあおいちゃんの視線を追うと、その視線は私の着ている服に向けられていた。
あおいちゃんは少しだけ眉を下げて、視線を服から私に戻す。
「ちょっと街中の方まで行こうかなって思ってんだけど、えっと、大丈夫そう?」
「う、うん。人酔いするかもしれないけど、頑張る」
「人酔い? ……あっ、そっちか。も、もしも、人酔いしたら教えてね!」
あおいちゃんはさっきの下げた眉を誤魔化すようにそう言った。
ん? そっちじゃないって、どっち?
私はさっきのあおいちゃんの視線を思い出して、ちらっと再び着ている服に視線を戻す。
もしかして、私の服って私が思っている以上にダサい?
そんなこんなで、想い人に服をダサいと思われているかもしれない状況から、私たちの休日のお出かけはスタートしたのだった。
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