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第29話 二度咲きの百合の花


 それから、雨で濡れた私たちは私の家に戻ってきた。

 私はほとんど濡れなかったのでタオルで頭を拭くだけで済んだのが、あおいちゃんは全身濡れてしまっていたので、シャワーと私のジャージを貸した。


「ゆりちゃん、シャワーありがとうね。後着替えも」


「う、うん」


 あおいちゃんはシャワーを浴び終えて、私の部屋に戻ってくると、座っている私の隣に座った。

 さっきは肩と肩が触れ合っていたのに、今は拳二つほどの距離がある。

 それなのに、さっきよりもあおいちゃんを隣に感じるような気がした。


「えっと、私たち恋人同士になったっていう認識でいいのかな?」


「う、うん。あおいちゃんがよければ、だけど」


「もちろん、よくないわけがないよ!」


 あおいちゃんはそう言って、はにかんだ笑みを私に向ける。

 私はそんな可愛いあおいちゃんの表情を見て、胸をときめかせてしまった。

 こんな可愛い子が私の彼女、なんだ。

 そう考えると、にへらっと変な笑い方をしてしまう。

 そんな緩んだ表情をしていると、あおいちゃんが思い出したように『あっ』と声を漏らす。


「そういえば、ゆりちゃん失恋したとか言ってたよね? もしかして、それって初めに私を意識しているって教えてくれたときのこと?」


 あおいちゃんは申し訳なさそうに眉を下げて、頬を掻いた。

 私は表情を緩めたまま首を横に振る。


「ううん。ショッピングモールでウインドウショッピングしてるとき」


「ショッピングモール? え? ショッピングモールで告白されたっけ?」


「告白はしてないよ。私が勝手に諦めたの」


 私はまったく覚えがないようなあおいちゃんを見て笑みを深めて、これまでのあおいちゃんに対する想いや失恋のことなどを伝えた。

 あおいちゃんは私の話を聞いて驚いた後、今度は私を好きになった過程について教えてくれた。

 それから、私はあおいちゃんの話を聞いて、思いもしなかった話に何度も驚かされた。


「え、じゃあ、私が失恋することを決めたとき、あおいちゃんは私のことを?」


「そうだよ。あのときの熱すぎる抱擁で、ゆりちゃんを意識するようになったんだと思う」


 私はあまりにも信じられなかったのであおいちゃんを疑うように見てしまう。

 まさか、あの場面でそんなことが起きていたとは驚きである。

 すると、あおいちゃんがくすっと笑った。


「でも、もしかしたら、気づいてないだけで、もっと昔にゆりちゃんに恋してたのかもしれないけど」


「え? い、いつ?」


 私が前のめりになって聞くと、あおいちゃんは小さく首を横に振る。


「分かんない。昔、ゆりちゃんが私のことを好きだったように、私もゆりちゃんのこと好きだったかもしれないって思うだけ。当時はそんなこと全く気にしてなかったというか、気づけなかっただけなんじゃないかなって」


「な、なるほど」


「多分、漫画とかアニメみたいに、この時この瞬間に好きになるっていうのはないと思うんだよね」


 あおいちゃんはどこか遠くを見ながらそう言った。

 私はそんなあおいちゃんの言葉に首を傾げる。


「でも、私があおいちゃんに恋してるんだって気づいたのも、あおいちゃんが私のことを意識し始めたときのも、イベントが起きたからだよね?」


 私の場合はあおいちゃんに髪を撫でられて、あおいちゃんの場合は私があおいちゃんに抱擁をして。

 そんなふうに自分の気持ちに気づいた話をした後だけに、あおいちゃんの言葉が矛盾しているような気がした。


「あくまでそれは気づいたきっかけだよ。色んな感情が蓄積して、あるきっかけで気持ちに気づいただけ。そんなに単純じゃないような気がするんだよね、女心は」


 あおいちゃんは少し大人っぽい笑みと共に、そんな言葉を口にした。

 そんな表情を見て、私はまた簡単に鼓動を速くさせてしまった。

 

 こ、こんなに簡単にどきどきしてしまって、私はこれから先やっていけるのか! し、しっかりしないと!

 私がそんな嬉しい悩みに頭を悩ませていると、あおいちゃんが思い出したように口を開く。


「そういえば、香織たちにはなんて言うか」


「あっ、そ、そっか。友達同士はお付き合いしたら報告とかするんだっけ?」


 私はあおいちゃんの言葉を聞いて、一般的に付き合うというものがどういうものなのか考える。

 多分、彼氏彼女ができるというのは、学校生活で一つのイベントだと思う。

 だから、仲の良い人たちで盛り上がったりしてりするのだろう。

 でも、私たちの場合は普通のカップルとは少し違う。


「それとも、秘密にしておく?」


「う、うん。秘密の方がいいかな」


 私がしばらく黙っていると、あおいちゃんがそんな提案をしてくれた。

 あおいちゃんは少し首を傾げて続ける。


「ちなみに、理由を聞いてもいいかな?」


「私の好きな百合が、そういう百合だからじゃダメ、かな?」


 実は百合というジャンルは幅が広く奥深いものだ。

 シリアス系もあればコメディ系のもあって、女の子同士の恋愛を一般的な恋愛として描くものもあれば、ノーマルじゃないから隠れて恋愛をするものもある。


 私は、友達とかに隠れて関係を築いていく百合が好きだ。

 悪いことをしているんじゃないかという、ちょっとした背徳感と秘密の共有。そこにロマンスを感じてしまう。

 だから、あおいちゃんと関係を築けるのなら、そんな百合漫画みたいなことをしてみたい。

 私は完全に百合漫画に毒された、どうしようもない百合オタクなのだ。


「ううん。ダメじゃないよ」


 あおいちゃんは優しくそう言って、私の肩にも垂れかかってきた。

 それから、ふふっと笑ってから嬉しそうに続ける。


「ドキドキするね」


「うん、ドキドキする」


 私はこれから過ごすあおいちゃんとの学園生活を想像して、胸をドキドキさせながら小さく笑う。

 散ったはずの百合の蕾がまた咲き始める。

 クラスの端の方でひっそりと、誰にも気づかれないように。

 

少しでも面白かった、続きが読みたいと感じてもらえたら、

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何卒宜しくお願い致しますm(__)m

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