第21話 あまりにも近すぎる距離
それから、私たちはショッピングモールを手を繋いで歩くことになった。
当然、平常心など保てるはずがなく、さっきから心臓がうるさすぎる。
ただ歩いているだけなのに息切れでもしそうなほど呼吸が浅くなり、頭から煙でも出てきそうなくらいに体が熱い。
ただ女の子同士で手を繋いでいるとは言えない、そんな緊張感があるような気がした。
「ゆ、ゆりちゃん、どこか行きたいところある?」
「わ、わわ、わかんないっ」
「分かんないって……えっと、フロアマップでも見る?」
私は今の状況に対してなのか、あおいちゃんの言葉に対してなのか、そんな言葉を口にしていた。
初恋の人と手を繋いでショッピングをしているという状況。平常心なんかで入れるはずがない!
私はそんなことを考えながら、繋いでいる手をちらっと見る。
なんだろう、この感覚。
自分の右手のはずなのに、あおいちゃんの体温が混ざり過ぎて、自分の手じゃない感じになってきた。
体の一部があおいちゃんの体温に溶かされて、一つになってしまったような気さえする。
それから、私はろくに落ち着くこともできないまま、あおいちゃんに手を引かれてフロアマップの前までやってきた。
「色々お店あるよ、ゆりちゃん」
「うん、い、いっぱいある」
「あと見てない所は……あ、こことかどうかな?」
あおいちゃんはそう言うと、ショッピングモールによくあるサブカルチャー色の強めの雑貨屋を指さした。
私はこの場を速く離れたかったので、こくこくっと頷く。
今、私たちがいるところは上りエスカレーター近くのフロアマップだった。
当然、エスカレーターなので多くの人が上ってくる。
なんだか、次々上がってくるお客さんの前で、手を繋いでいる所を見せてるバカップルみたいで恥ずかしくなってくる。
いや、そもそも失恋している訳だから、カップルでもないんだけどね!
私が一人悶々としながら俯いていると、あおいちゃんは私の手を引いて歩き出した。
そんなあおいちゃんの横顔ををちらっと覗き見ると、あおいちゃんは耳を赤くして、どこか恥ずかしそうにしているよう見えた。
……私が恥ずかしがり過ぎて、それがあおいちゃんに伝染してしまっているのだろう。
そう考えなければ、大きな勘違いして胸の奥の方がきゅうっとなってしまいそうな気がした。
本当に何を考えているだろ、私は。
うん、きっとただの考え過ぎだ。
私たち以外にも、女の子同士で手を繋いでいる人たちがいるはず。
そう考えて辺りを見渡してみるが、私たちのように手を繋いでいる女の子たちはいなかった。
え? あれ? もしかして、私たちだけ?
いやいや、さっき手を繋いでいた子たちもいたし、さすがに私たちがだけってことはないはず!
そう考えて辺りを見渡していると、私は見たたことのある二人組を発見して、思わず『あっ』と声を漏らす。
「ゆりちゃん、どうしたの?」
「香織ちゃんと美香ちゃんだ」
二人は私たちが向かおうとしている雑貨屋で、談笑をしながら雑貨を見ていた。
休日でも遊ぶくらい仲がいいんだなぁと思っていると、あおいちゃんが体をビクンとさせた。
「え⁉ ど、どこ⁉」
「ほら、あそこーーって、あ、あおいちゃん?」
私が雑貨屋にいる二人を指さすと、あおいちゃんが素早く私の手を引いて、大きな柱の裏に隠れた。
「あっ、あおいちゃんっ」
あおいちゃんは柱を背にする私の正面に立って、柱に手を置いて二人のことを覗き見ていた。
ちょうど壁ドンみたいな体勢になってしまい、私は一人あわあわとしてしまう。
な、何個の急展開⁉
私は顔一個分くらいしか離れていない距離に鼓動を速くさせて、ふいっと視線をあおいちゃんから逸らす。
「あおいちゃんっ。な、なんで隠れたの?」
「なんでって……な、なんでだろ」
あおいちゃんは何かを答えようとして、『あれ?』と首を傾げた。
咄嗟に隠れてしまっただけで、特に深い理由はないのだろう。
私は二人のいる方を指さす。
「い、今からでも出ていけば、大丈夫なんじゃないかな」
「だめ。完全にタイミング逃したし、今出ていったら隠れて変なことしてたって勘違いされるかもしれないじゃん」
あおいちゃんはそう言うと、私が指さしていた方の手首を掴んで、私をじっと見つめてきた。
あおいちゃんの耳の先が真っ赤なことに気づいて、私は唾を呑み込む。
「へ、変なこと……」
それから、あおいちゃんは何を考えたのか、ぐっと私との距離を詰めてきた。
熱っぽい瞳に漏れる吐息、少し強引に掴まれた手首。
あおいちゃんとの距離が近くなる中で、あおいちゃんの鞄に入っている漫画がちらっと見えた。
確か、あれはさっき買ったえっちな漫画だったはず。じゃ、じゃあ、変なことって……
私はそこまで考えて、ぎゅっと強く目を閉じた。
この選択が正しいのか分からないが、逃げようというような気にならなかった。
どくんどくんとうるさい心臓の音を聞きながら、私は小さく震えそうな肩をなんとか抑え込む。
そして、あおいちゃんはーー
「もう大丈夫みたいだね。あの二人いなくなったよ」
「……へ?」
あおいちゃんはそう言うと、私からそっと離れて安どのため息を吐いた。
私は何が起こったのか分からなくなり、間の抜けた声を漏らして目をぱちぱちとさせる。
「あおいちゃん、え? え?」
「二人が一瞬こっち見たからびっくりしたよ。でもバレなかったしよかった……って、あれ?」
私はあおいちゃんの言葉を聞いて、色々と勘違いをしていたことを察した。
あああっ! 覚悟を決めてキス待ちみたいなことをしてしまったぁ!
私は恥ずかしさと急激な緊張から解放されたことで、腰を抜かしたようにぺたんとその場に女の子座りをしてしまった。
それから、恥ずかしさのあまり泣きたくなって、両手で顔を隠して悶える。
すると、あおいちゃんが肩をちょんちょんっと叩いてきた。
「あのさ、ゆりちゃん……誰にでもそんな顔しちゃ、だめだからね?」
「か、顔? どういういみ?」
私は顔を上げてあおいちゃんを見るが、あおいちゃんはなぜか私から顔を逸らして頬を掻いていた。
今の私、どんな顔してんの?
私はあおいちゃんの言葉の意味が分からず、小さく首を傾げることしかできなかった。
私にそう言ったあおいちゃんは、なんだかいつもよりも乙女な感じがした。
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