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第18話 触れ合う肩と微かな希望

「そ、それじゃあ、今日もよろしくお願いします」


「任せて、ゆりちゃん!」


 そしてまた別の日、私は放課後にあおいちゃんを私の部屋に招いていた。


 今日は前回に引き続き、あおいちゃんに女子特有のコミュニケーションという物を教えてもらうことになった。

 あおいちゃん曰く、急に会得するのは難しいらしく、しばらくは女子特有のコミュニケーションの練習をした方がいいとのことだ。

 あおいちゃんに迷惑をかけてばかりでは悪いし、早く女子特有のコミュニケーションに慣れないと。


 さすがに、食べ物の交換をしただけで赤面してしまっていては、香織ちゃんとか美香ちゃんによからぬ誤解を生んでしまう可能性がある。

 ……いや、あの二人相手ならそこまで気にしたりもしない気がするかも。


「じゃあ、今回はもっと日常的なシチュエーションを練習してみようか!」


「う、うん! うん?」


 私はあおいちゃんの言葉に力強く頷いてから、「あれ?」と首を傾げる。

 まるで、この前のあーんは日常的じゃないような言い方な気がする。


「とりあえず、ゆりちゃんはいつもみたいにスマホいじってみて」


「スマホ?」


「うん、どこかに座ってくれるといいかな」


 あおいちゃんはそう言って、ちらっとベッドの方を一瞬見た。


 ベッドに座った方がいいのかな?


 私はそう考えていつも通りスマホを片手にベッドに腰かける。

 何かしていた方がいいのかなと思って、ちらっと視線を上げるとあおいちゃんがすぐ目の前にいた。


「ゆりちゃん、何見てるの?」


 そして、あおいちゃんは演技がかった言葉でそう言うと、私のすぐ隣に腰かけてきた。

 ピタリと肩と肩が触れ合った瞬間、鼓動が大きく跳ねたのを感じた。

 いつもとは違うベッドの上という状況で二人きり。

 制服が夏服になったということもあり、ワイシャツ越しに伝わってくる熱が妙に生々しく感じた。


「あ、ああ、あおいちゃん」


「こ、こういうことも普通にあるから、そんなに驚かないの」


「そ、そうなの?」


 微かにあおいちゃんの声が裏返ったような気がしてしまい、いよいよあおいちゃんのことを見れなくなってしまう。

 偶然裏返っただけなのだろうけど、変に意識してしまう!


 じんわりと私の体温があおいちゃんの体温と混じり合っていき、私の鼓動をいたずらにかき乱す。

 あおいちゃんの呼吸を体越しに感じてしまい、なんだか少しいけないことをしている気持ちになってくる。


 し、心臓の音聞こえちゃってないよね?


「ねぇ、ゆりちゃん」


「はい⁉」


「……スマホ全然動いてないんだけど。いつも通りにしてよ、いつも通りに」


 私はそこまで言われて、今が女子特有のコミュニケーションの練習中であったことを思い出した。

 そうだった。一人でドキドキしてる場合じゃないんだった。

 ていうか、失恋している相手にいつまでドキドキしてるの、私!


 私は何とか自分に喝を入れて、平常心を保とうと心掛ける。

 当然、そんな簡単に鼓動が落ち着くことはないわけだが、この鼓動を無視してやることくらいはできる。


 そう、平常心平常心。あくまで、いつも通りに。

 私は自分にそう言い聞かせて、スマホをいつも通りに操作した。

 パパッと手慣れた操作でいつものページを開いて、一人でいるときのように百合漫画を読み始める。


 え? 百合漫画?


 しかし、気づいた時にはすでに遅く、私が開いたページには電子で買っている恋愛要素多めの百合漫画が開かれてしまっていた。


「あっ」


 そして、それを見たあおいちゃんは何かに気づいたような声を漏らした。

 あおいちゃんのことを意識していると言ってしまった手前、今までなんとか隠そうとしていた恋愛要素多めの百合漫画。

 それを、ばっちりあおいちゃんに見られてしまった。


「あ、あああ! ち、違くて、これはそうじゃないくて!」


 私は慌ててホーム画面を押して漫画の画面を閉じるが、今さら消したところで遅すぎる。

 私がワタワタとしていると、あおいちゃんがスマホの画面から目を離さずに続ける。


「い、いいんじゃない。たまには漫画も」


「え?」


 私はいつもと変わらないようなあおいちゃんの言葉に首を傾げる。

 

 なんでそんなに気にしてない感じなのだろうか?

 だって、さっき私が開いた百合漫画は百合界隈でも恋愛色が強めの作品として有名な漫画だ。

 それを見ても全く反応が変わらないって……いや、そっか。

 あおいちゃんがそんなことを知るはずがないのか。


 勝手に百合色が強めな作品はあおいちゃんの視界に入らないようにしていたけど、そもそもあおいちゃんはそのセンサーの感度が弱い。

 というか、あおいちゃんは一般の人だから、センサー自体がないのかもしれない。

 だから、いつも百合アニメを観る延長で、漫画を読もうと言ってくれているのだろう。


 それなら、ここは取り乱したりしないで、何でもないふうに読んでしまう方がいいはずだ。


「そ、そうだね」


 私はそう考えて、ブラウザを開き直して百合漫画をあおいちゃんと一緒に読むことにした。


 一巻目だし、そこまで百合色強めじゃないはず!

 そんなふうに考えて読み始めてしまった私が悪かったのだろう。




 ……思いっきり一巻目から百合百合してるんだけど、これ!

 さすがに、女の子二人が寄り添いながら読む漫画ではない気がする!


「なんか、前に観たアニメと少し違うね」


「そ、そうだね。これは恋愛要素多めのだから」


 どうやら、あおいちゃんも日常系のライトな百合と違うことに気づいてしまったようだった。

 ひ、引いてないかな?

 私はそう考えながら、今さら引き返すことができず静かにスワイプして画面をめくる。


 私たちはそういう百合漫画だと分かっていながら、しばらく一緒に漫画を読んでいった。

 そして、私はとあるページにたどり着いたとき、ピタッと動きを止めた。

 そこに映し出されていたのは、ベンチで座っている二人が肩を寄せ合っているシーン。

 片方の女の子の肩に、もう片方の女の子が頭を乗せているという構図。


 そんなページを見てしまい、私は今の状況と漫画の構図が頭の中で重なってしまった。

 いやいや、何考えてるの私! 別に、肩に頭を置かれたりしてないし似てないから!


 しかし、頭でそう分かっていても、心臓の音は速くなったまま落ち着かない。胸がきゅうっとなり、体の熱を上げていく。

 そんなふうにどうしようもなくなったとき、私の肩にこてんと何かが乗ってきた。


 ふわりと運ばれてくる甘い香りと共に、柔らかい髪が垂れて私の首筋をくすぐる。

 確認するまでもなく、漫画の中の構図と今の私たちの構図が重なったことが分かった。


「あ、あおいちゃん」


「……すぅー」


「え? ね、寝てる?」


 名前を呼んでも反応しないのでおかしいなと思っていると、隣からあおいちゃんの寝息が聞こえてきた。

 私はそれに気づいて、耳の先まで一気に熱くなっていくのを感じた。


 漫画の構図と重なったせいか、もしかしたら、あおいちゃんが私のことを好きなのかと勘違いしそうになってしまった!

 本当に馬鹿だ、失恋しておいていつまでドキドキしてんの私は!


 そんなことを考えて悶えながらも、私はまだ微かな希望を心の奥底で願ってしまっている自分がいるのだと気づかされてしまったのだった。


少しでも面白かった、続きが読みたいと感じてもらえたら、

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何卒宜しくお願い致しますm(__)m

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