第15話 意識した二人、百合アニメを観る
「ゆりちゃん。また家にお邪魔しちゃってごめんね」
「う、うん。私も来てくれて嬉しいから」
ある日、ゆりちゃんが私のことをどう思っているのか知りたくなった私は、放課後にゆりちゃんの家に遊びに来ていた。
しかし、ただ遊びにいきたわけではない。
以前、ゆりちゃんは私を『意識している』と言っていた。その言葉の意味を探ってみようと思ったのだ。
意識しているという言葉は、あまりにも意味が広すぎる。
昔、私を男の子だと思っていたときに好きだったことは聞いたけど、今も好きだとは言われていない。
多分、男の子として好きだったから、今の私も少し意識しちゃってるという意味だと思う。そもそも、その気持ちも百合アニメが影響しているかもしれないわけだけど。
ということは、私に恋愛感情を向けているのかと思ったが、ゆりちゃんは私と付き合いたいとは思っていないって言っていた。
恋愛感情があれば付き合いたいと思うものだと思うが、その気持ちはない。でも、私のことを意識してしまっている。
ゆりちゃんへの気持ちを整理しているとき、私はこのゆりちゃんの回答が少しおかしいような気がした。
どこかでゆりちゃんが嘘を吐いている。そんな気がしたのだ。
無意識で嘘を吐いているのかもしれないけど、私はその気持ちを知りたいと思った。
そこで、私は今日いくつかの作戦を考えてきたのだ!
「ゆりちゃんの部屋、やっぱり本の数凄いね。また見てみてもいい?」
「う、うん。全然見てくれていいよ」
私は自然な感じで本棚の前に立って、じっと背表紙を確認する。
『作戦その一。百合漫画の傾向から、ゆりちゃんの私への気持ちを汲み取ってみよう』
以前はゆりちゃんの部屋の本棚を見ても、たくさん漫画があるんだな程度しか分からなかった。
でも、今の私は違う。百合漫画をある程度読んできた今の私なら、並んでいる百合漫画がどういうものか分かる。
あ、ゆりちゃん、これ集めているんだ。
ふーむ、なるほどなるほど。
全体的にソフトな百合系が多いな。しっかり恋愛する系の漫画はほとんどない気がする。
あくまで、私が知っている範囲ではだけど。
私はそんなことを考えながら、じっくりと並んでい本を見ていた。
「……えっと、あおいちゃん、そんなに気になる漫画があるなら貸そうか?」
「き、気になるなんて言ってないけど⁉」
私はゆりちゃんの言葉を聞いて、勢いよくゆりちゃんの方に振り向いた。
すると、ゆりちゃんはなぜか意外そうな顔をして首を傾げた。
「凄い真剣に見てたから、読みたいのかと思ったんだけど違った、かな?」
「ち、違うよ! えっと、色んな漫画があるんだなぁーって思ってただけで!」
私はテンパって目をぐるぐるとさせながらそんな言いわけをする。
なぜか分からないけど、百合漫画が好きというのがバレたらいけないような気がして、咄嗟に嘘を吐いてしまった。
いや、ゆりちゃんも百合好きなんだから、普通にその話で盛り上がればよくない?
しかし、そう考えたのが遅すぎて、今さら訂正することができなくなってしまった。
このままではせっかくの百合漫画の会話が終わってしまう!
私はそう考えて、ピシッと本棚の方を指さした。
「そ、そうだ! ゆりちゃんが一番好きな百合漫画ってどれなの?」
「え? 一番好きな漫画?」
「そう! これおすすめだなってやつ! それなら、読んでみたいかも!」
私がそう言うと、ゆりちゃんは一瞬ベッドの方を見てから、慌てて視線をそこから離した。
ゆりちゃんに倣うようにベッドの方を見たが、そこにはベッドがあるだけで他に何かがあるわけではなかった。
視線をゆりちゃんに戻すと、ゆりちゃんは唸りながら一冊の漫画を手にした。
それから、何かと葛藤しているような表情をしながら、私にその漫画を手渡した。
「これ?」
「そ、そう……これ」
ゆりちゃんから受け取った漫画の表紙をには、小学生くらいの女の子と大学生くらいの女性の二人が描かれていた。
受け取った漫画を軽くパラパラとめくってみて、その漫画がコミカルな内容のものであることが分かった。
多分、前に言っていた日常系というやつだと思う。
私は確認するようにあおいちゃんをちらっと見る。
「これは、恋愛要素多めなの?」
「ううん。むしろ少なめだと思うよ。アニメでもやってるからさ、少し観てみる?」
恋愛要素、少なめなのか。
ゆりちゃん、ライトな百合が好きなタイプなのかな?
となると、本当に付き合い体とかは思っていないくて、少し私を意識してるだけ?
私はそんなことを考えてから、ゆりちゃんの言葉に頷いた。
それから、前と同じようにゆりちゃんがアニメを観る準備をしてくれて、私たちは並んでアニメを鑑賞することになった。
しかし、前と同じ位置に腰を下ろした私は、隣に座っているゆりちゃんとの距離に心を落ち着かなくさせていた。
あ、あれ? なんか距離近くない?
前にゆりちゃんの部屋でアニメを観たときと同じ距離のはずなのに、前以上にその距離が近く感じた。
おかしい、なんでこんなに近く感じるんだろ?
心臓の音がいつもよりも速くて大きい。呼吸をどれだけ浅くしても、ほのかに甘い香りが鼻腔をいたずらにくすぐってくる。
そりゃそうだ。だって、ここゆりちゃんの部屋なんだから。
……だめだ、意識しないようにと思っていたのに、一回意識しちゃうと止まらなくなる。
私がそんなことを考えていることも知らずに、ゆりちゃんは百合アニメを再生した。
そして、二人で百合アニメを観ている中、私は考えなくてもいいことを考えてしまった。
互いに意識している状況で百合アニメを観るって、結構アブノーマルなことしてない?
これ、絶対に余計に意識しちゃうやつでしょ!
しかし、ちらっとゆりちゃんを見てみると、ゆりちゃんは私を気にすることなくアニメを観ていた。
意識してるの、私だけ?
……初めに意識してるって言ってきたの、ゆりちゃんなのに。
私は不満げにむくれてみるが、ゆりちゃんは私の視線にも気づいていない様子だった。
そのとき、体勢を変えたゆりちゃんが左手を床の上に置いた。それは、ちょうど私が右手を自然に下ろせば当たるような位置だった。
そこで、私は作戦その二を思い出した。
『作戦その二。ちょっとしたスキンシップから、ゆりちゃんが私のことをどう思っているのか考えてみよう』
今なら、少し手を下ろすだけでゆりちゃんの手に触れることができる。
そう考えた瞬間、鼓動の音が一段と激しくなった。
ただ女の子の手に触れようとしているだけなのに、この心臓の動きはおかしすぎる。
そう思いながらも、私はゆりちゃんに触れたいという気持ちを抑えることができなくなってしまった。
私が右手を下ろしてゆりちゃんの左手の小指にちょんっと触れると、ゆりちゃんの左の小指がぴくんと動いた。
そしてその瞬間、ぶわっと体が熱くなったのを感じた。
手を繋いでいる訳でもなく、ただ指と指が触れ合っているだけなのに心臓の音がうるさい。
耳の先の方まで熱くなって、確認しなくても真っ赤なことが分かる。
こ、これ、ゆりちゃんの反応を確認できる余裕なんてないんだけど!
もしも、ゆりちゃんに今の顔を見られたらマズい気がする!
私はそう考えて、ゆりちゃんの反応を見ることを諦めることにした。今の状況で視線が合いでもしたら、なんかよくない気がしたから。
それから、私はゆりちゃんと指と指で触れ合いながら、画面の中で抱き合っている女の子たちをただ静かに見ていた。
そして、画面の中でいちゃつく女の子たちを見て、唇をきゅっと強く閉じる。
ああ、もう。ちょっとした触れ合いで顔を赤く染めたりしないでよ。
……余計に意識しちゃうから
それから、私は短くも長くも感じる三十分を過ごすことになったのだった。
その間、触れ合った指は離れることがなかった。
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