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第14話 ちょっとした対抗心

「ていうか、そろそろ紹介しておくれよ」


「紹介?」


 香織に図星を突かれて大声を出してしまった後、香織は百合ちゃんを見てそんな言葉を口にした。

 私がピンと来ていないでいると、美香が香りの言葉を引き継ぐ。


「葵の幼馴染なんでしょ、その子。いつか紹介するって言ってたじゃん。今がその時かなって思うんだけど」


「あー、なるほど。えっとね」


 そういえばそんなことを言ったなと思ってから、私はどうした物かと考える。

 私がよくゆりちゃんに話しかけていたこともあり、香織も美香もゆりちゃんに興味を持っていた。

 でも、ゆりちゃんは中々の人見知りだ。

 だから、私に対してもう少し砕けて話せるようになってから、二人にゆりちゃんのことを紹介しようと思っていた。

 前に聞いたけど、ゆりちゃんは大勢で何かをすることが苦手らしい。

 だから、急に話したことのない二人に迫られたらよく思わないはず。

 

 だったら、今はまだ二人と話すのは早いし、遠ざけてあげた方がいいよね。

 私がちらっとゆりちゃんを見ると、ゆりちゃんが意を決したように顔を上げた。


「ゆ、百合って言います。昔、あおいちゃんとよく遊んでて、これからも遊べたらなって思ってて。だから、お二人とも仲良くできたら嬉しいなと」


 すると、私の考えに反して、ゆりちゃんは控えめにそんな言葉を口にした。

 香織と美香は二人で顔を見合わせてから、表情を柔らかいものに変える。


「私は香織。こっちこそよろしくだよ、百合ちゃん」


「私は鈴原美香、よろしく。なんだ、葵から凄い人見知りって聞いてたけど、そんなこともないじゃん」


 二人はそう言ってやれやれ顔で私のことを見る。


 え? ゆりちゃんが自分から自己紹介をした?

 私は思ってもいなかった展開に目をぱちぱちとさせる。

 それから、二人とゆりちゃんが一言二言会話をしていると、朝のホームルームを知らせるチャイムが鳴った。

 私は二人が自分の席に戻っていく中、慌ててゆりちゃんの方に視線を向けた。


「ゆりちゃん、香織たち大丈夫だった?」


「だ、大丈夫って?」


「前に初対面の人苦手だって言ってたじゃん! 無理してないかなって思って」


 ゆりちゃんは少しだけ気まずそうに私と視線を逸らしてから、香織たちの方に視線を向ける。

 それから、力強く頷いて続ける。


「大丈夫。あおいちゃんの友達なら、私も仲良くしたいから」


 私はゆりちゃんの言葉を聞いて、少しだけもやっとしたものを感じた。その正体が何なのか分かっていながら、私はわざとらしくむくれる。


「無理してないなら、全然いいんだけどさ。私、ゆりちゃんと話すのに結構時間かかったのになぁ」


 それから、私は口にしなくてもいい言葉を口にしていた。

 私は毎日ゆりちゃんと挨拶をして、ようやく最近普通に話せるようになったのだ。

 それなのに、あの二人はほぼ初対面なのに普通に会話をしていた。

 それがなんだか不公平な気がしたのだ。


 ちらっとゆりちゃんを見ると、ゆりちゃんは恥ずかしそうに顔を俯かせていた。

 そんなゆりちゃんの表情を見て、自分の顔が微かに熱を帯びたのを感じた。

 それから、ゆりちゃんは私の方を見ずに続ける。


「それは、その……あおいちゃんの場合は、意識しちゃったからで」


「そ、そっか」


 私はゆりちゃんがこちらを見ないことを言いことに、恥ずかしがるゆりちゃんの顔をじっと見つめる。


 別に、ゆりちゃんが私を避けていた理由を忘れたわけではない。

 香織たちと私は違うのだということを、ゆりちゃんの口から言って欲しかった。

 そんな少しだけのイジワルと、私への気持ちを再確認をしたかっただけなのだと思う。


 教室の扉から担任の先生が入ってきたのを見て、私は前を向く。

 自然と上がってしまった口角をそのままにして、私は朝のホームルームを聞くことにした。


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