第13話 変わろうとする君と、それを知らない私と
「うー、ねむぅ」
私は寝不足でショボショボする目を擦りながら、教室へ向かった。
教室の扉を開けると、私に気づいた秋庭香織と鈴原美香が私に手を振ってきた。
私はちらっちゆりちゃんの席を見てから、見慣れたいつも通りの光景の方法に視線を戻す。
ゆりちゃん、まだ来ていないみたいだ。
私はそんなことを考えながら、二人の元へ向かった。
「おはよ、葵」
「あれ? 随分眠そうだね」
私は二人にひらひらと手を振ってから、欠伸を押し殺しながら口を開く。
「ちょっと百合アニ……面白い動画を遅くまで観ちゃってね。寝不足気味」
私は途中まで言いかけた言葉を引っ込めて、誤魔化すように笑う。
昨日、百合漫画を読んだ私はゆりちゃんを強く意識し過ぎてしまい、中々寝ることができなかった。
何もしないで寝ているとゆりちゃんのことを考えてしまうので、眠くなるまでスマホをいじろうと考えたのだが……それが悪かったらしい。
軽く百合漫画のことを調べたら、アニメ化している百合作品があることを知ってしまった。
それからそのアニメを少しだけ観てみようと考え、アニメ配信サイトに登録して眠くなるまで百合アニメを観ることにした。
その結果……余計寝れなくなってしまい、寝不足で登校する羽目になってしまった。
まぁ、ゆりちゃんのことを夢見なかっただけでもよかったかもしれない。
さすがに、ゆりちゃんの夢を見てから登校は気まず過ぎるし。
「面白い動画? え、どんなの?」
私が適当に誤魔化すと、その言葉に香織が食いついてしまった。私は予想外の展開に動揺してしまう。
「ど、どんなって……えっと、どんなだろ?」
「いやいや、葵が言い始めたんじゃん」
すると、香織は不思議そうな顔でそんなツッコミを入れてきた。
ご、ごもっとも過ぎる。
そうだった。香織ってお兄さんの影響でお笑いとか好きだから、この手の話は結構乗ってくるんだった。
どうやって誤魔化そうかと考えていると、美香が私の席の方を見て『あっ』と声を漏らした。
美香の視線の先を追うと、ちょうどゆりちゃんが後ろの扉から教室に入ってきた。
そんなゆりちゃんの姿を見た瞬間、胸が小さく跳ねたのを感じた。
それから、私は大きくなった心臓の音を確かめるようにそっと胸に手を置く。
いや、ただゆりちゃんが来たってだけで、大袈裟すぎない?
頭ではそう理解していても、心臓の音は確実に大きくなっていた。
ゆりちゃんを目で追っていると、いつの間にか美香が私のことをじっと見ていた。
私は覗き見ていたことがバレて、体をビクンとさせる。
「な、なに?」
「いや、今日はあの子の所にいかないのかなって思って」
美香はそう言ってまた視線をちらっとゆりちゃんに向けた。
すると、香織も美香に倣うようにゆりちゃんを見る。
「そういえば、最近あの子の所に行かなくなったね。喧嘩中とか?」
「そ、そんなんじゃないってば!」
私は首を横に振るが、二人はただじっと私のことを見ていた。
『喧嘩中じゃないならなぜ行かないんだ』と言われている気がして、私はゆりちゃんのもとに向かうことにした。
元々、私の席がゆりちゃんの席の前にあるわけだし、私がゆりちゃんの席に近づくこと自体は何の問題もないはず。
そう考えながらも、私は胸をドキドキとさせていた。
それから、私は自分の席に座ってから、ゆりちゃんの方に振り向いた。
「ゆ、ゆりちゃん、おはよう!」
「お、おはよう、あおいちゃん」
「……あれ?」
私はいつもよりも落ち着いた様子のゆりちゃんを見て、目をぱちぱちとさせた。
前までは少し話しかけるだけで恥ずかしがっていたのに、今はその感じがしない。
「どうしたの?」
「えっと、なんかいつも違うような気がして」
私がそう言うと、ゆりちゃんはこてんと可愛らしく首を傾げた。
さらっと動いたゆりちゃんの髪の毛が唇に触れる。妙にその動きが煽情的に見えて、私はゆりちゃんとキスをした夢のことを思い出してしまった。
な、なんでよりによって、こんなときに!
どうにかして気を紛らわせようとしても、ゆりちゃんの小さな唇から目が離せなくなる。
……前から思ってたけど、ゆりちゃんって可愛い顔してるのよね。
昔からそうだけど、ゆりちゃんは自分に自信がないだけで清楚系の可愛さのある女の子だった。
多分、下を向いていることが多いから、周りもこの可愛さに気づいていないんだと思う。
そんなことを考えながらゆりちゃんを見ていると、鼓動が速くなっていくのを感じた。
そして、気がつけば私はまたゆりちゃんの唇を見てしまっていた。
「ちょいちょい、見過ぎだって。困ってるでしょ」
「え?」
すると、誰かが後ろから私の肩をぽんと叩いてきた。振り向くと、美香が眉を下げている。
「何かあったの? 随分と長く見つめてたみたいだけど」
「な、何もなかったけど」
私は美香に言われて、長時間ゆりちゃんを見ていたことに気づいてしまい、微かに声を裏返してしまった。
そんな私の反応を見て、香織がにやっと笑みを浮かべる。
「葵、いやらしい目してたよ。何考えてたの?」
「なっ! い、いやらしい目なんかで見てないから!!」
私は耳を熱くさせながら、ガタっと大きな音を立てて立ち上がってしまった。
しんっと静まり返った教室の雰囲気を感じ取って、私は自分が思った以上に大きな声を出していたことに気がついた。
や、やってしまった!
「じょ、冗談だって。えっと、気に障ったかな?」
香織は気まずそうに頬を掻いていた。
私は誤解を解こうとするが上手く言葉が出てこず、不自然な言い訳を口にしてしまっていた。
い、言えるわけがない。
言われたことが図星だったから、思わず大きな声が出てしまっただなんて!
というか、ゆりちゃんを見ていただけで、ここまで意識してしまうのヤバいかもしれない。
こうして、私は自分が思っている以上にゆりちゃんを意識していることを知ったのだった。
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