第11話 葵side この気持ちを教えて
私はウインドウショッピングを終えて、一人部屋の中でベッドに寝ころんでいた。
頭がぼーっとして、心臓の音がいつもよりも気になる。
私はその心臓の音を確かめるようにそっと右手を胸の所に置いてから、ぎゅっと服を掴む。
「なんでゆりちゃんに抱きしめられただけで、こんなにドキドキしてるの?」
私は独り言のように呟いてから、エスカレーターで躓いたゆりちゃんを助けたことを思い出す。
私が振り向いたとき、ゆりちゃんがエスカレーターから転びそうになっていた。咄嗟にゆりちゃんを受け止めることができたので、ゆりちゃんが大きな怪我をすることはなかった。
しかし、ゆりちゃんは何を思ったのか、私の背中に手を回して熱い抱擁をしてきた。
そのとき、ゆりちゃんの体の熱と柔らかさだけでなく、言葉にできない熱い何かが伝わってきたような気がした。
そして、ゆりちゃんに抱きしめられた私は、いつもは気にしたことのない心臓の音と耳の先が熱くなっていくのを感じた。
俗にいう、恋をしているという状態に近いような感覚が合った。
その後、ショッピングモールを回っている最中、ずっとゆりちゃんのことを意識してしまっていた。
明らかに、これまでと違った感じでゆりちゃんのことを見てしまっていた気がする。
なんとかゆりちゃんには気づかれなかったみたいだけど、今日みたいにしていたら気づかれるのは時間の問題だ。
「本当に、なんなのこれぇ」
私は誰にも聞くことのできない悶々とした気持ちを抱えて、布団を頭から被って声にもなっていないような声を出して悶える。
女の子相手に距離間を意識したり、まっすぐ顔を見れなくなったり……こんなの、私がゆりちゃんに恋してるみたいじゃない!
「え? こ、恋?」
私はそこまで考えて、慌ててがばっと布団を払いのける。
それから、女の子座りでベッドの上にぺたんと座って、冷静に考え直した。
「いやいや、ゆりちゃんは女の子だって。今も昔もずっと女の子。だから、好きになるわけがないって。うん」
私は誰に言い訳するわけでもなくそう言って、これ以上ゆりちゃんのことを考えることをやめることにした。
きっと、あんな熱い抱擁が初めてだったから動揺しているだけだ。
好きとかそういう感情ではなくて、ただ動揺しているだけ。
そう考えて、私は本棚にしまってあるファッション雑誌を読んで、いつも通りの休日を過ごすことにした。
そして、翌朝。
「……」
私は目を覚ましてベッドから上半身を起こす。
それから、さっきまで夢で見たいたことを思い出してしまい、両手で顔を隠した。
夢の中でゆりちゃんとキスをする夢を見た……見てしまった。
「これは、さすがにマズいでしょ」
昨日、帰って来てからゆりちゃんのことを考えた後、極力百合ちゃんのことを考えないようにしていた。
考えないように、考えないようにと、ずっと考え続けてしまっていた。
その結果、ゆりちゃんとキスをする夢を見てしまったのだ。
わ、私、ゆりちゃんに恋してるの?
さすがに、日を跨いだ状況で動揺しているだけなんて言い訳が使えるはずがないし、そうじゃないことくらいは私にも分かる。
「あ、明日学校だから、明日までにこの気持ちが何なのか確かめないと」
私は早期の解決を求めて、枕元にあったスマホを手に取った。
それから、今の気持ちを色々打ち込んでスマホで検索をする。
しかし、出てくる検索結果は、百合漫画とか百合小説とかばかりだった。
そんな検索結果をスクロールしていると、間違って百合漫画を紹介しているサイトに移動しまった。
慌てて戻ろうとしたのだが、その前にパッとその漫画の表紙が表示されたしまった。
そして、その表示の帯には『人気シリーズ』とか『即重版』という文字が書かれていた。
「そんなに人気なの?」
私は少しだけ気になって、百合漫画が表示されている画面をスクロールする。
その漫画の紹介文を読んで分かったが、その漫画に出てくる二人はふとしたことをきっかけに女友達を意識してまったという少女の話らしい。
「これって、私と同じ……」
私は自分と近い悩みを持った登場人物の話に興味を持ち、試し読みをしてみることにした。
それから、試し読みを終えた私は、そのまま流れるように購入ボタンを押しそうになった手をピタリと止めた。
「あ、あぶない、あぶない! これだと、ゆりちゃんとゆりちゃんがしてたことと同じになっちゃうって!」
私は慌てて画面を消してベッドにスマホを投げて遠ざけた。
ゆりちゃんの話によると、ゆりちゃんは自分の気持ちを確かめようとして、百合作品を漁ったらしい。
その結果、私のことを必要以上に意識するようになったとか。
……ていうか、ゆりちゃんって、私のこと意識してるんだよね。
付き合うつもりはないとか、私に観せてくれた百合アニメも女の子同士が仲良いだけだったから、意識してると言っても、たいしたことないのかなと思っていた。
あれ? 私の認識が甘いだけだったら、あのときのハグの意味も変わってくるような気がする。
だ、だめだ、どうしてもゆりちゃんのことばかり考えちゃう!
変に途中まで百合漫画を読んでしまったせいか、余計なことまで考えてしまう。
「こ、これは、ゆりちゃんが私のことをどう思っているのか、確かめるだけだから!」
私は投げたスマホを拾って、再び購入ボタンを押そうとしたところで、またピタッと止まる。
これ購入したら履歴が残るんだっけ? それで、購入した履歴をもとにおすすめ商品とかが紹介されたはず。
そうなると、もしも誰かとスマホを見てるときに、覗き込まれたら……
「紙で買えば問題ないよね! 大きな本屋に行けば、きっと置いてあるはず!」
私はそう考えて、支度を済ませて百合漫画を買いに向かうのだった。
この後、私が百合漫画を読んでどうなるのか。後から考えれば分かりそうなものだが、この時の私はまるで分かっていなかった。
多分、どうかしていたのだ。
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