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茶々視点外伝 茶々視点・⑦⑨話・通い妻

 今、黒坂家屋敷は大津城への引っ越しが決まっており、家財道具は少しずつ運び出されている。


私が持参した嫁入り道具も、順次、船便で送るという。


 そのため真琴様の提案で、「しばらくは元の屋敷から通うほうが不便がない」とのこと。


私はその言葉に甘えることにした。


 黒坂家へ通う日々は以前と変わらぬが、私は剣術の稽古を控え、真琴様の政の手伝いを始める。


真琴様が日々の暮らしの中で思いついた事柄を乱雑に書き付けておられるので、私がそれを箇条書きに整理する。


また、築城や大津の町づくりで蒲生氏郷殿からの使者が参るときには、対面の場にも同席した。


 身の回りのことは桜子たちがきっちり取り計らっており、私が手出しする隙はない。

真琴様の衣服は見慣れてきたが、この時代――いや、日本の伝統的な仕立てとは違う。

桜子たちが見本を一着仕立て、今井屋が手配した仕立て屋がそれを基に何着も拵える。

今井屋には南蛮の衣服に通じた者がいて、ボタンと呼ばれるもので留める「シャツ」や「ズボン」なるものが作られ、真琴様の装いとなっている。


畳み方も私には勝手がわからず、そこは桜子たちに任せるほかなかった。


 そうして数週間が過ぎ、もう年の瀬。


黒坂家では家臣総出で餅つきが行われた。


冬の冷気の中、蒸籠の白い湯気が立ちのぼり、臼を打つ杵の音が庭に響く。


つき上がる餅は次々と運ばれ、私を含め女衆が手早く丸めていく。


掌に伝わるぬくもりと、蒸し米の甘い匂いが心地よい。


「真琴様、黒坂家でお供えする餅はもう十分に整いました。あとは正月用でしょうか? それにしては桜子たち、まだ蒸しておりますが」


「ああ、寺社への奉納分もね。それから“振る舞い餅”を。」


「振る舞い餅?」


「施しのようなもの。今年は黒坂家にめでたいことが多かったから、福を皆に分けたいんだ。戦で行き場をなくした子を預かる寺社にも配ろう。町でも炊き出しをして」


 森力丸が続ける。


「慶次殿が飲み仲間を糾合し、手配を進めております。鶏入りの、豪勢な餅入り汁を振る舞う段取りに」


「鶏まで入れて、ですか?」


 私が問うと、真琴様は少し照れたように笑った。


「まあ、今回は特別。金は多少かかるけれど、一年の始まりくらい、良いものを食べて迎えてほしい」


「私が金子のことで口を挟むと思われました? そのような良きことに反対するはずがありません。私は鬼嫁にはなりませんから」


 言い終えるや、臼の周りで聞いていた家臣一同からどっと笑いが起きた。


「姉上様なら、真琴のことを尻に敷きそうですがね」


「お初まで、何を言い出すのですか」


「マコ~、姉上様に敷かれちゃうの?」


 搗きたての餅をつまみ食いしながら言うお江の額を、私は扇で軽く小突く。


笑いはさらに広がり、湯気と笑声が冬空に立ちのぼった。


 こうして、黒坂家は和気あいあいと年越しの支度を進めていった。

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