茶々視点・⑤話・なめなめおばけ?
「大変です。姉上様、お起きたらお江がおりません!」
寝間着から着替え髪を梳かしている私の所に来た。
「お江が?」
「はい、目覚めたら隣にいるはずのお江がおりません」
「流石に本丸からは出られないはず、侍女達を使い探すのです」
母上様は所用で二ノ丸に行かれているため私が代わって指示を出す。
本丸御殿内の警護は厳しくそれをかいくぐって出ていくとは考えられず、侍女達に調べさせるとお江はすぐに戻ってきた。
「お江、どこに行っていたのです?」
「なめなめおばけのとこですよ、茶々姉様」
お初は眉間にシワを寄せ、
「おばけ!」
顔をピクピクとひくつかせて言う。
「はい、御幸の間のおばけ、優しいおばけでした」
「御幸の間におばけいるの!?」
「お初、おばけはおりませんよ。揶揄でしょう。御幸の間、いばらきの暴れ馬と名乗る黒坂様がお江をかまってくれたのでしょう。なぜになめなめおばけなのかはわかりませんが」
「お江本当?」
「うん、若い男の人でとっても優しい匂いがするいい人」
「お江が知らない男を褒めるなんて珍しい……しかし、朝早くから迷惑かけてはなりませんよ、お江」
「は〜い」
「お江、知らない男なんて危険なんだから二度と行ってはなりません」
「え〜絶対初姉様も気に入りますよ〜とっても良い人」
「お江少し遊んでもらったからって……」
訝しげな顔をするお初だが、伯父上様がどうにかして側に置きたいと考えた人物、そこまで怪しむ必要はないと私は勝手にだが思って、
「お江、黒坂様に遊んで貰いたいならちゃんと手順を踏みなさい。侍女に遊べるか伺ってもらって返事をちゃんと聞いてからお邪魔しなさい」
「え〜めんどくさいですよ〜」
「あなたは幼くても浅井の姫、そのくらいの礼儀はちゃんとしなさい」
「は〜い」
お江は絶対納得していないだろ。
伯父上様は明智光秀残党狩りで京都に兵を率いて立ち戻り、黒坂様はしばらく御幸の間で匿われると耳にしている。
明日にでもご挨拶をしてお江が迷惑をかけると謝らなければならないでしょう。
母上様からが筋?
しかし今日は重臣達の挨拶で忙しいと言っていたので戻れるかどうか……。
このくらいの事は私の判断でしなくてはならないでしょう。
長子としての役割。
「誰か、誰かおらぬか?明日、御幸の間に挨拶に伺います。菓子を用意しておきなさい」
「はっ、かしこまりました」
私は侍女に菓子を用意させ明日伺う事を告げるよう頼んだ。
しかし、お江はなぜ「なめなめおばけ」などと言うのでしょうか?
ん~~……。




