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①⓪①話 黒坂真琴と伊達政宗の宴席①

【時系列・原作書籍⑤巻・第四章・磐城巡察】 


「政宗殿、ここからは軽く飲みながら。政宗殿はお酒が大変好きだったはず」




「これはこれは有り難きこと」




部屋の隅に控えていた小糸小滝姉妹が酌をしてくれ盃に口をつける。




「そうそう、小糸小滝姉妹は俺の家臣として雇います。二人には俺の側室になったら弟を取り立てる約束をしているそうですね?弟もうちで雇っても良いんだけど、御母上様が三春に住むことを望んでいるそうなので二人の事お願いできますか?」




「側室でなくとも常陸大納言様のお役に立つ者になったことは伊達家としては嬉しきこと。勿論弟は伊達家で取り立てさせていただきます。そして母御の望み叶えましょう。三春に屋敷を与え領地を与えます。この伊達藤次郎政宗に二言はございません」




「そう言ってもらえると二人を安心して雇えるよ。良かったね小糸小滝」




常陸大納言様がそう言うと座に戻っていた小糸小滝姉妹が声を押し殺してすすり泣いていた。


よほど嬉しいのだろう。





「政宗殿、領民が喜ぶ顔は良いものですね」




「はっ、おっしゃる通りでございます」




「その領民が喜ぶ政を頼みますよ。そうそう、政宗殿の領地、宮城福島・・・・・・あっと言い換えなきゃ、陸奥磐城の沿岸は雪少なく温暖、開拓次第で100万石を越える米所になるはず。まぁ~米ばかりに執着してしまうと冷害や干ばつの時飢饉になってしまうから他の穀物も合わせて栽培して欲しいんだけど、政宗殿が野心を捨て今の領地を富ませる事を約束するならうちの農業改革を学んだ者を派遣してさしあげますがいかがでしょうか?」




「黒坂家の農業改革は有名、それを教えていただけるなんてありがたきこと。領民の為にこの伊達藤次郎政宗野心は捨てまする。いや、領土を拡げようとすれば必ず常陸大納言様が攻めてくる。そうなっては伊達家は滅亡、わかっておりまする」




「最早戦国の世は終わり。国を乱すような動きあれば信長様とともに容赦せず攻める」




今まで温厚な表情だった常陸大納言様は不動明王のような顔を一瞬見せた。


背中に悪寒が走った。


この男だけは敵にしては駄目だと一瞬で感じ取る。




「この伊達藤次郎政宗、常陸大納言様の家臣とひとしき扱いでかまいません。なんなりと仰せを」




「はははははっ、なに勘違いしているんだか?伊達殿の主は征夷大将軍織田信長公ですよ」




我は確かに臣下の礼を取っている。


しかし常陸大納言様は違う。


この際だ聞いてみよう。




「常陸大納言様は上様の客分という扱いが今でも続いているとの事ですがそれはなぜにございます?機会を待っているとか?」




「俺は確かに臣下の礼は取ってはいないが信長様に一生協力するつもりだ。もし信長様が逝かれるようなことがあれば信忠様を支え安土幕府を安定させる。もし国を乱しまた戦乱の世に戻らせ領民がひもじい思いをすることになるようなら全力で潰す」




また不動明王の顔、いやなぜかそう感じてしまう影が見えた気がした。




「酒の席の戯れ言としてお忘れ下さい」




常陸大納言様は一口酒を飲み、柳生宗矩になにか出すように合図をした。




すぐに用意され、常陸大納言様と我の間に地図が開いて置かれた。

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