⑨⑥話 お江の方様御到着
【時系列・原作書籍⑤巻・第四章・磐城巡察】
◇◆◇◆鬼庭左衛門綱元
小糸小滝姉妹は薬の件で信頼を得て常陸大納言様の御側のことを任されるようになり、湯浴みなる着物を着てだったがお風呂でお背中を流す事も許されるようになった。
今、丁度二人は一緒に入浴中。
このままいけばお手つきに。
そして側室にと期待していたが、
「殿、一大事でございます。今し方、常陸大納言様御側室お江の方様が御到着にございます」
家臣が慌てて知らせに来た。
「お江の方様と言えば上様の姪御様、常陸大納言様の側室の中でも別格の御方がわざわざ?間違いではないのか? 下働きから側室になられた者がいると聞き及んでいる。 その者ではないのか?」
「最上義康様が街の入り口でお出迎えいたしまして、玄関では小次郎様が丁寧に対応しておりましたので間違いございません」
「うむ、そうか?でどちらへ?挨拶を致さねば」
「それが付くなり常陸大納言様はどこかと訪ねられたので今は御入浴中だとお伝え致しました」
「むっ!今はまずい」
急ぎ風呂に向かう。
もし風呂で伽の最中だったら大変な事になる。
風呂の着替えの間前まで行くと襖の向こうから大きな声が聞こえた。
廊下ではお江の方様の警護であろう者が座り、中には入れないが会話は漏れてきた。
「あ~やっぱり浮気してるマコ~」
「お江、なんでここに?これは違うから!」
「なにが違うって言うのよ?初姉上様に叱って貰わなきゃ」
「ぬぉっ、まさかお初も来ているのか?ちょん切られる」
「初姉上様はお留守番、ねぇ~マコ、ちょん切られるようなことしたの?」
「してないから~」
警護であろう者は下を向き笑いを堪えているようだった。
少しして濡れた髪のまま慌てて着替えたて出て来たであろう小糸小滝姉妹。
「なにがあった?」
「おっかねぇ顔した若い山姥が出たんだ」
「もう~姉様ったら、その常陸大納言様の御側室様が入られてきて私達に出て行けとおっしゃってでした」
「そうか、兎に角身なりを整えて部屋で待て、あとで呼ぶことになると思う」
「はいでした」
「おっかねぇ目だった。間違いなく人を幾人も殺ってる目だ」
「もう、姉様ったら失礼です」
上様に似た鋭い目なのか?
しばらくして風呂から出て来た常陸大納言様に寄り添うお江の方様はいたって普通の姫君だった。
小糸はなにを見間違えたのだろうか?




