⑧①話 黒坂常陸と鬼庭左衛門綱元
【時系列・原作書籍⑤巻・第四章・磐城巡察】
「改めまして、奥州探題・伊達藤次郎政宗が家臣、磐城平城城主鬼庭左衛門綱元、願いの儀ありまして登城いたしました」
「その願いとは?」
「はっ、是非とも伊達家領地にこのまま足を運んでいただき磐城の検分をお願い申し上げます。伊達家は今各地に城を築いております。その事で幕府に疑念を賭けられているのでと思っております」
「御大将なりませんぞ。他家の領地に軽々しく入るものではございません。領地検分となるならそれ相応の準備をしてから入るもの」
側近・柳生宗矩が厳しい目つきで私を睨みながら言うが、黒坂常陸様ご本人は、
「ん~でも俺って東国を見張るためにこの常陸が領地になった身なんだよね?信長様はなにも言ってないけど俺なら気が付くだろうから言わないだけで。信長様、説明少ないから」
「駄目です。御大将」
諫める柳生宗矩だったが、小次郎政道様が、
「御大将、伊達家が疑念もたれるのは少々残念。父が私を黒坂家に預けたのは元々は人質として。ですが、今では城主、このまま疑念持たれたままここは治められません」
「小次郎、余計なことは申すな。今までの立ち居振る舞い、黒坂家でその方を信頼しておらぬ者などおらぬ。最早伊達殿ではなく黒坂家の一員として見ておる」
さらに止めようとする柳生宗矩だったが、
「ん~俺は別に伊達殿がつまらぬ画策してると思ってないよ。捕らえて人質にしようものならどうなるかくらいわかっているだろうし」
「そのような謀など考えておりません。小田原城の二の舞になるだけ。それに黒坂常陸様に危害加えたら大殿に殺されます」
「あ~輝宗殿元気?早くに隠居して暇持て余してる?」
ん!好機!
「大殿は領内で温泉巡りを楽しんでおります。勿来から少し陸に入った佐波古の湯も好きでして、とても良い温泉だと申しております。是非一度黒坂常陸様をお招きいたしたいと申されるくらいで」
「なりませんぞ。御大将」
柳生宗矩が言葉を続けようとすると、黒坂常陸様はそれを扇子をパッと拡げて遮った。
「あ~いわき湯本・・・・・・見ておきたいんだよなぁ~温泉も入りたいけど後々掘って採掘頼みたいことあるし」
「なんなりとお申し付けください」
「御大将、それ以上の御言葉はなりませんぞ」
今までより語気を強めて言う柳生宗矩と、小次郎政道もなにか慌てて身を乗り出し言葉を止めた。
「もう宗矩、すこし疑いすぎ。兎に角見ておきたい場所があるから行くよ」
「御大将・・・・・・はぁ~仕方ありませんな。ですが警護は厳重に致しますのですぐにとはいきませんぞ。街道筋を調べるのに先に真壁殿を行かせます。良いですな?」
「それで、おっけー」
「桶???」
桶の話など今までしていなかったのになぜ?首を捻ると同時に柳生宗矩が深くため息をして、
「御大将、もう本当に勝手に話さないでください。茨城の城に戻りましたら茶々の方様に報告しますからね」
「うっ、それは勘弁して、茶々に怒られるから」
なんの会話をしているのかわからない。
「詮索すると殺されるから絶対に詮索するなよ左衛門」
小次郎様が耳打ちをしてきた。
なにか聞いてはいけないことが今までの会話であったのだろうか?
しかし、凄腕と噂される柳生宗矩が一際鋭い目線で私を見つめる。
背筋が凍る。
しばらく沈黙となると、
「兎に角、佐波古の湯に行くから手配して、宗矩頼んだよ」
「はっ」
黒坂常陸様は退室した。
この後、柳生宗矩から先に真壁氏幹が隊を率いて街道検分後黒坂常陸様が佐波古の湯に行く手はずの指示があった。
それに従う。
ふぅ~なんとか佐波古の湯に連れて行ける。




