⑦⑤話 1589年正月
【時系列・原作書籍⑤巻付近】
仙台の城で年明けを迎えた。
例年なら家臣達が集まり年賀の挨拶を受けるが昨年末、領地から呼び寄せ評定を行ったため正月くらい領地で休ませようと年賀の儀は控えた。
その為、正室の愛、側室の猫とゆるりと過ごす。
「静かな正月も良いものですね」
「年末の評定、それに街道整備で忙しくなるから正月くらいゆるりとさせてやらぬとな」
「殿、せっかくでしたら秋保あたりで湯治の正月も良かったのではにゃん」
「それも考えたがまだまだ築城それに街作りが途中、松が開けたらすぐに働きたいから城で良い」
「そうですかにゃん?」
猫と呼ばれるようになって『にゃん』と語尾にわざと付けるようになった飯坂城主・飯坂右近宗康の姫。
「またお忙しくなられるのですね。そんな殿に薬膳汁を用意させました」
愛が手を叩いて合図をすると小糸小滝姉妹が囲炉裏に鉄鍋を運んで来た。
「お口に合えば良いのですが」
体を温める食材が入れられた鍋。
「流石に噂の常陸大納言様の薬膳鍋とはいきませんが用意させました」
「うむ、いただこう。美味いぞ小糸、小滝。それにしてもその方達は年はいくつになる」
「17歳と16歳ですよ、殿」
「うむ年の頃は丁度良いわけだな。二人とも今年、黒坂常陸様のところに使わすゆえそう心得ておけ。春になる頃磐城平城に行き時を待て」
「遂にですか・・・・・・寂しくなりますね。しかし、二人とも伊達家のためしかと常陸大納言様にお仕え致しなさい」
「はい、殿様、奥方様だっぺ・・・・・・あっ」
「わかりましたでした」
「二人とも言葉使いにはもう少し気を付けた方がよいにゃん」
「猫がそれを言うか?ぬははははははっ」
そう笑うと、しゃーーーーと猫が怒ったときの素振りを見せた。
「しかし、城勤めをしていたのであろう?色白くならぬかったな」
「あ~二人たっての願いで薬草採りは許していたので」
二人の爪は百姓働きをしている爪だった。
「お許しを。常陸大納言様にお仕えできなかったときの生きる糧を蓄えておりましたべ」
「まあ~その様なときは私の侍女に致すので心配することなかったのに」
「実家の母と弟に少しでも金子を多く送りたかったので薬草採って売っていましたでした」
小糸小滝姉妹は先行き不透明な為の不安から仙台城の裏山に入り薬草採りを続けていた。
「うむ。それは咎めぬ。だが黒坂常陸様にお目通り願い出るよう動いておる。これよりはその爪に泥が入らぬよう生活致せ」
「「はい」」
二人はうつむき返事をした。




