⑥⑧話 帰国・下諏訪宿編
【時系列・原作書籍⑤巻付近】
妻籠宿からは家臣団達とともに道を進んだ。
安土から離れれば離れるほど道は険しくなり、峠道も多い。
そんな街道、無理をせず宿場に泊まりながらようやく下諏訪宿に到着。
「ここは温泉が良いと聞く。二泊いたし家臣達の疲れを落とさせたい。手配を」
「はっ」
軍神・武田信玄が崇めていた諏訪大社も参拝したく少し休むことに。
諏訪宿を治めている滝川一益殿家来の計らいで宿二件我ら伊達家のために空けられた。
「殿、ここを過ぎたら少し急がねばそろそろ雪が深くなる季節がもうすぐとのことを宿の者が申しております」
「あいわかった。ここで精気を養い上野国は一気に走り抜け武蔵国に。家臣達にそのように伝えよ」
「はっ」
「明日の夜は酒は控えよ。その代わり今日は存分に飲ませてやれ」
「はっ」
我は馬籠峠の山賊の一件依頼この旅での酒は控えている。
酔った所を襲われおくれを取る事になればまた家臣を危険にさらす事に。
安土からただ帰るだけの道中で家臣を死なせる醜態。
あってはならないこと。
家臣達は温泉で汗を流し、酒を飲み騒いでいた。
我は静かに床に入ると、気配が。
「何やつ!」
刀を抜きその気配をするほうに向ける。
天井だ。
「気が付かれましたか。もう仕分けございません。身分は明かせませんが伊達中納言様をお守りするように仰せつかっている者」
「ふっ、くノ一で我の寝所に忍び寄る技量、名乗らずともわかるわ」
黒坂家の忍びであろうことがわかる。
「馬籠峠の件、大変助かった」
「なんの事でございましょう?」
「ふっ、隠さずともわかるわ。それよりなぜ屋根裏に?」
「伊達様、滝川一益様にはご注意ください」
「なぜじゃ?我を狙っておるのか?」
「織田家に古くから仕える重臣は我が主、目の上の瘤。その主に近しい者が領内に。なにを画策するかわかりかねます」
「なるほど新参者が台頭しているのが面白くないわけか。忠告確かに受け取った」
「外に我らの仲間がおりますからもし何かあれば逃げられるように。では」
黒坂家のくノ一が忠告してくれたがこの夜、なにも起こることはなかった。
翌日、家臣達は二日酔いとなっていたため予定を変えずもう一泊する。
昼間、諏訪大社詣で出る。
「おっと、伊達の若様、奇遇だな」
前田慶次利益・・・・・・。
「白々しい。影でずっと守っていてくれたのでございましょう?ありがたく御礼申します」
「おっと、俺に礼なんて必要ないぜ。うちの殿様に礼を言ってくんな~。それより昨夜うちの若いのが忠告したと思うがもう大丈夫だ。滝川のじっさんは俺が酔い潰しておいた。しばらくは動けないだろうよ」
前田慶次利益、前田を名乗ってはいるが血筋は滝川家だと噂を耳にしたことを思い出す。
その為、滝川一益に疑われることなく近づけ酒を酌み交わしたのだろう。
「前田殿、帰国したら是非当家にお越し下さい。礼に仙台の美味い酒で一献」
「あ~そのうちな」
前田慶次利益は腰の瓢箪を叩いて、
「空っぽだから俺は先に行くぜ」
そう言い残して、参道の人混みに消えていった。
粋な男だ。
念の為、諏訪大社詣後は宿で大人しくし、翌日、『韋駄天の伊達』の異名のごとく、信濃から上野国を走り抜けた。




