ワールストリアの変異
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巨大な宇宙要塞を前にワールスとリアは…
アルシュは、ヴィクタリア帝国の皇帝城で、ワールストリアの上に出現した存在、エグゼディス・ソラリスを見上げた。
ワースルトリアに存在する国々が大混乱に陥っている。
ヴィクタリア帝国の皇帝城では、繋がりがあるフランディオ王国と、七大連合に、ジェネシス帝国と、錚々たるメンバーが一同に会していた。
アルシュが、空を見上げ続けているそこへ
「アルシュ」
と…ルシェルが近づく。
ルシェルは隣に並ぶと、鋭い横顔のアルシュに
「アルシュが気にする事ではないわ。きっと集まっている皆様で…」
アルシュが空から顔をそらし
「あんな存在に…どうにか、できると…」
ルシェルが悲しげな顔で
「私は…もう、アルシュに戦って欲しくない。あの時…アルダーネの時、アルシュの辛さを知っているから…」
アルシュはルシェルを見つめ
「ありがとう…」
と、微笑むも、それにはどこか、悲しげな雰囲気があった。
そこへ…
「アルシュ…」
と、ヴィクティア母上が来た。
アルシュがヴィクティアを見て
「お呼びが掛かったんですね…」
ヴィクティアは黙って頷き、それに…アルシュが続くと、ルシェルがアルシュの手を握る。
「私…」
と、悲しげな顔をしていると、そのホホにアルシュが触れて
「ルシュル」
アルシュはルシュルとキスをして
「ルシュル…終わった後。ルシェルに甘えてもいいかなぁ…」
ルシェルは涙して
「うん」
アルシュは手を離して、ヴィクティアに続いていった。
◇◆◇◆◇◆◇
アルシュが通された場所は、会議していたホールだった。
その扉が開かれ、アルシュが中に入ると
「アルシュ…」
と、うつむくヴィクタリア帝国皇帝であり、父アルファスが苦悩した顔をしていた。
その周囲には、会議していた他国のメンバー達がいて、一同が同じく苦悩の顔だ。
アルシュがホールに入ると
「遅かったな」
と、右にインドラと
「早く…話をするぞ」
と、左にヴァルハラがいた。
アルシュを前に、会議に加わっていたラエリオンが語る。
このワールストリア全体に、宣戦布告をしたライアー達は、期限を設けた。
一週間以内に、このワールストリアの主権を、全て自分達に渡せと。
むろん、世界中から反対が上がるも、あの巨大なエグゼディス・ソラリスを前に、何もできないでいる。
そもそも、宇宙まで行ける程の軍隊なぞ、このワールストリアには存在しない。
どれほどの物量なのか?
どれほどの戦力なのか?
どれほどの力を有しているのか?
完全に未知数だ。
遙か宇宙から攻撃を放たれれば、守る術は存在しない。
だが、それは…あくまで国家が保有する軍隊に限ってだ。
そう、例外中の例外が存在する。
それは、アルシュとインドラにヴァルハラの三人だ。
世界は、この三人に頼るしかない。
それを聞いたアルシュが
「オレの力は…宇宙で対応できるのですか?」
インドラが
「問題ない」
アルシュがインドラを見て
「その確証は?」
インドラが
「前に、オレは…ジェネシス帝国から、巨大な魔導エネルギー砲の衛星要塞を持って行った事がある。問題なかった」
アルシュは顔を引きつらせる。
前に、レアドの時に破壊した巨大衛星の事だ。
「はぁ…」とアルシュは溜息を吐き
「つまり、自分とインドラさんにヴァルハラさんに頼るしかないと…」
ラエリオンがうつむき
「その通りだ。すまない。我々は…攻めてきた時の防衛しか出来ない」
要するに、全てはアルシュ達三人しか任せられないという、何とも言えない事態なのだ。
アルシュは頭を掻き
「実行は何時ですか?」
父アルファスが
「アルシュ…拒否しても」
アルシュが微笑み
「出来るんですか? 無理でしょう」
インドラが
「三日後だ」
ヴァルハラが
「三日後、俺たち三人を乗せた宇宙船を打ち上げるそうだ」
アルシュが
「宇宙船なんてあるんですね…」
インドラが
「百年前に流行で世界中が作っていたが…。廃れた産物さ。宇宙の開発は、今じゃあ小型衛星しか行われていない」
アルシュが
「って事は百年前の産物なんですよね。大丈夫なんですか?」
ヴァルハラが
「問題ない。今でも衛星を回収したり運んだりしている現役だ」
こうして、作戦とは言いがたい作戦が可決された。
その三日後まで、アルシュは好きに過ごす事を許された。
インドラもヴァルハラも同じだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
アルシュは、自宅のメルカバー邸でルシェルと、アルテナ、ノルン、カタリナと一緒に過ごす。
みんな、アルシュがこの後…どうなるか知らされた。
アルシュが望んだ事は、普通だった。
友達と遊び、寝泊まりして、話し合ったり、とにかく、一緒に過ごした。
三日間、共にして、最後の一日にノルンが
「アルシュ…死んじゃうのか…」
と、泣き出した。
アルシュ以外の皆が、うつむく。
カタリナが
「馬鹿、そんな事を言うんじゃない!」
ノルンが泣きながら
「でも…」
アルシュが微笑み
「みんな…」
と、ポケットから四つの指輪を取り出す。
「これ…していてよ。みんなにあげた指輪の改良して性能を上げたモノなんだ」
アルテナが鋭い顔で
「遺品ってわけ!」
「違う」
と、アルシュは否定して
「力を強めたから、オレとの繋がりも強くなる。もしも…帰ってくる時の道しるべにしたい。みんなに持っていて欲しい」
四人はアルシュから新たな指輪を受け取り、アルテナが
「絶対に帰ってきなさいよ」
◇◆◇◆◇◆◇
アルシュが夕暮れを見ようと、門の前に来ると、そこに数名が近づく。
ディリアにクレティア、クロリア、クリティアだ。
ディリアが
「アルシュ…」
四人は知っている。
アルシュは、またポケットからあの、改良強化した指輪の四つを取り出し
「これ…」
クレティアが
「遺品なんて受け取らないわよ」
アルテナと同じ事を言ったクレティアに
「はは…違うよ」
と、アルシュは四人に渡して
「これは、オレの力と繋がっている。もし…いや、帰ってくる道しるべになる。持っていて欲しい」
クロリアが頷き握り
「また、一緒に学校へ行こう」
クリティア
「また、一緒に学園生活を楽しもうよ」
ディリアが
「アンタには、でかい借りがある。それを返すまで死ぬんじゃないよ」
クレティアが指輪を握り締めて
「…帰ってこなかったら…悪い噂を広めてやる」
それにアルシュが
「どんな噂だよ」
クレティアが睨み気味に
「私に手を出したってね。許嫁がいるのに別の女に手を出したっていうね」
アルシュは顔を引きつらせて
「どうして、そうなるんだ?」
クレティアが
「イヤだったら、必ず帰ってきなさい」
「はいはい」とアルシュは呆れ気味に答えた。
◇◆◇◆◇◆◇
そして、出発の当日。
宇宙船は、港に浮かんでいた。
高度20キロまでは、飛翔船が持って行き、そこから備わっているブースターで宇宙まで上昇、重力圏を抜ける。
円柱型の潜水艦のような宇宙船を前にアルシュが
「へぇ…らしいや」
周囲に見送りはない。
この作戦事態が極秘なのだ。
それにアルシュとインドラが乗り込む。
その操縦室、艦橋には、ノアドとユースがいた。
アルシュが近づき
「な、どうして、ノアド兄とユース兄がいるんだ?」
ノアドがアルシュの頭を乱暴になで
「お前達の帰還まで、お世話する為だよ」
ユースが
「君は、妹のルシェルに帰ってくると約束した。だから…それを必ず遂げさせる。ルシェルを若くして未亡人には、させない」
アルシュが呆れ気味に
「運転できるの?」
ノアドが力こぶを作り
「俺たちは、優秀だ」
ユースが
「アルシュ…陸軍は、こういう宇宙船系統を操縦する訓練がある。僕たちは、優秀な生徒だったのさ」
アルシュは微笑み
「分かった。任せる」
◇◆◇◆◇◆◇
アルシュ達、ドッラークレスの者達を乗せた宇宙船が、出発する。
誰にも見送られる事なく。
いや、見ている者達が遠くの展望台にいた。
アルシュの家族に友人達と、インドラの家族、ヴァルハラの仲間達だ。
静かに飛んでく宇宙船を見つめていた。
アルシュ達を乗せた宇宙船は、高度20キロに来て両側を挟んでいた飛翔船から離され、ブースターが火を放ち、宇宙を上っていく。
揺れる船内、空が青から紫、漆黒の闇に変わり、そして…あのエグゼディス・ソラリスが。
アルシュは見える丸い窓から蒼穹のワールストリアを見る。
この世界に転生して、色んなモノを得た。
それを失わない為に…。
前世の中山 ミスルの人生とは大違いだが、今は、その中山 ミスルではない。
アルシュ、アルシュ・メギドス・メルカバー・ルー・ヴィクタリアだ。
アルシュの人生を精一杯、生きる為に戦いへ挑む。
ワールストリアが離れていく。
エグゼディス・ソラリスが近づく。
巨大になっていくエグゼディス・ソラリス。
果てしなく巨大な宇宙要塞。
そして、操縦するノアドが
「くそ…」
と、ぼやく。
その意味をアルシュは知っている。
自分達が向かう先に膨大な軍団がいる。
全長100メートルの巨大ロボット達を従えて、デウスマギウスのライアーと、伴侶のキャリーが笑って待っている。
アルシュはシートのベルトと解除して
「自分が」
それにインドラも
「オレも行く」
ヴァルハラが
「オレは…攫われたフランディオ王国の王子エドワードの反応を追いかけて、向かう。頼んだぞ」
アルシュとインドラは頷き
「おい! アルシュ!」
とノアドが
「必ず迎えに行くからな!」
アルシュは微笑み腕を上げ
「待っているよ」
と、出て行った。
アルシュとインドラは、船内で黒と赤のレッドリーレスになって、宇宙へ出た。
レッドリーレスになり、宇宙へ出たアルシュとインドラを見つめるライアー達。
宇宙船は無視する。
ライアーが楽しげに笑みながら
「さて…楽しもうじゃないか」
背後に従えている100メートル級の装甲ロボ達が光を迸らせて唸る。
アルシュとインドラは、全力のドッラークレスを発動させた。
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