アルシュの鎮魂
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アルシュは、あの十万人の悲劇の慰霊祭に参加して…
アルシュのドッラークレスによって十万人が亡くなったアルダーネ平原の慰霊塔は白磁器に輝き、そしてその慰霊塔に為に用意された舗装された場所には一万人近い人達が並んでいた。
それの主な人々は、ルクセオン共和国や他の隣国、ギリシオ共和国、ルーレル共和国、ファリダン共和国の嘗ての四カ国連合の面子と、ヴィクタリア帝国にフランディオ王国の面子もいる。
式を執り行うのは、この地域で主な宗教である教会だ。
つまり、エネシスが全てを指揮していた。
別に問題はない。
古来より、教会がこの世界で慰霊を司り死者の無念を成仏させて来た。
そして、何より霊性を司る聖遺物なるモノを所有してきた。
まあ、ワールストリア自体が、教会を当然とする風潮に包まれているし、教会も政治には介入してこなかった。
そう言った意味では、ワールストリア世界の宗教である教会は、地球の教会より優れているのは間違いないだろう。
地球の宗教は、所詮…権力の道具だったからだ。
そして、このアルダーネ平原の犠牲者を悼む儀式が粛々と進み。
色んな偉い人達が演説をしていった。
まずは、ルクセオン共和国の首相、次にギリシオ、ルーレル、ファリダンと各首相が言葉を口にする。
ヴィクタリアやフランディオに挑発的な事は言わない。
なぜなら、この四カ国は…この祭壇の奥にある巨大なドッラークレスの残骸、ロゼッタストーンの資源によって復興を続けて、現在もその資源に頼って国力を維持しているのだから。
そのロゼッタストーンの持ち主は…アルシュ…つまり、ヴィクタリア帝国なのだから…。
それを良しとしない国内の世論もあるが…アルシュの復興を望む意向によって運営されているリオン財団の影響と、そうしなければ成らない現状によって声は小さい。
そうして、首相達の演説が終わり、ヴィクタリア帝国皇帝アルファスの言葉が来る。
まあ、無難に終わる。
フランディオ王国の王の演説が来る。
無難に終わる。
そして、最後にアルシュの演説が来る。
アルシュは、ヴィクタリア帝国とフランディオ王国では、護国の英雄皇子で、他の四カ国にとっては微妙な立場だ。
犠牲者にとっては仇だが、その仇が犠牲者の家族を支えている。
偽善と罵る者も少なからずいる。
だからこそ、この壇上での言葉を…この慰霊に参加している国々の人達が固唾を呑んでネットワーク端末の生放送を見つめる。
アルシュは万単位の人達を見下ろせる壇上から言葉を紡ぐ。
「一つ…僕は、今でも思う。この悲劇を止める事が出来たのではないか?と…」
全員が口を閉じてアルシュの言葉を聞く。
アルシュは少し見上げて
「僕は今でも…こうした事に後悔をしています。僕は大量虐殺の悪魔だと…。
多くの人達は、仕方なかったと…言う人もいるし、僕の事を悪魔と罵る人達もいるのも知っています」
それを慰霊祭に参加しているクレティアは聞いて、少し俯く。
アルシュは続ける。
「僕は…だからこそ…この後悔は一生、続くでしょう。誰かの命を奪って誉れあるなんて…愚かだと思います。ですが…どうしようもなかった事もあったかもしれない。でも、やっぱり何時も思います。この悲劇になる前に止められなかったのか?と。
だから、この次が同じ事が起こった場合、僕は…止めたいと思います。
ですが…僕の力では…できません。ですから、皆様のお力を貸してください。
こんな悲劇が二度と起こらない為に…お願いします」
と、アルシュは告げて頭を下げる。
それの姿を見た参加者達から自然と拍手が沸き起こる。
放たれた場所はルクセオン共和国からだ。
万人単位の拍手に包まれてお辞儀するアルシュの姿が世界中のネットワークに放映されるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
そして慰霊祭は終わり、アルシュは休憩所で休んでいると、そこにエネシスが来て
「素晴らしい演説でしたよ」
アルシュは微妙な顔をして
「素晴らしいとは思っていません。弱音ですから」
エネシスが微笑み
「ウソ、偽りのない言葉ほど…人の心を掴む言葉ありません。貴方が自分の行いを後悔している事、そして…次の悲劇を防ぎたいと思う気持ち。きっと皆…理解してくれますよ」
アルシュは渋い顔をして
「どうでしょうかね…人は、自分の利益に従順ですから」
エネシスが呆れた顔をして
「そうやって斜に見る事を止めなさい。今の貴方は…そんな見方をする必要はありませんよ。それは…」
そこへ「アルシュ?」とルシェルにクレティアの二人が来た。
二人は黒目のドレスを纏っている慰霊の姿だが、中々にかわいい。
ルシェルがクレティアと来て
「エネシス様と何を話していたの?」
クレティアが
「何かいけない事でも言ったの? アンタ…」
エネシスがクレティアとルシェルの後ろに来て
「アルシュの事を大事に思ってくれる彼女達がいるのですから」
ルシェルとクレティアは意味が分からず首を傾げ、アルシュは照れ隠しのように頭を掻いた。
そこへパチパチと拍手として近付く二名、一人は身長が190近い男に隣には金髪の160程の女が、並んで近付く。
この休憩場には、それ相応の身分の者、まあ、貴族階級くらいしか入れない。
つまり、この二人はその階級者という事だ。
エネシスが
「アルシュの知り合いですか?」
アルシュは首を横に振り
「いいえ、ルシェル、クレティアは?」
ルシェルもクレティアも首を横に振った。知らないと…。
白灰色の髪の男と金髪の女は、アルシュの前に立ち
「いいや…素晴らしい演説だったよ…。中山くん」
アルシュは驚きに顔を染めて
「レッドリーレス!!!!!」
と、一斉にレッドリーレスを発動、テントの屋根が吹き飛び、ルシェルとクレティアをレッドリーレスの手に抱えて守る。
全長四メートルのレッドリーレスを展開したアルシュに周囲が困惑する。
それを遠くから見る父アルファスが驚きと共に、隣にいた正妃ヴィクティアと産みの母ファリティアが困惑すると、ヴィクティアが
「全員! 警戒態勢ーーーーー 襲撃者があり!」
アルファスもそれで察した。
アルシュがいるテント、つまり、アルシュを狙った襲撃者だと…。
アルシュがレッドリーレスを展開したその場から、脱兎する人々、エネシスは鋭い目で、アルシュと対峙する二名を見て
「アルシュ、どういう事ですか?」
アルシュが凄まじい形相で
「コイツは…ライアー・ラーテップです!」
アルシュと対峙する男ライアーは「正解」と告げると背面から無数の機械腕を伸ばし、隣にいる金髪の女キャロルが服が変貌して、赤き結晶の鎧となる。
ライアーは仮面でない正真正銘の己を見せる。
四メータ半の巨体、翡翠結晶の多翼、四対の機械腕、スラスターの如きキャタピラの脚部。デウスマギウスの全身を顕わにする。
そのデウスマギウス、ライアーの隣には伴侶たるキャロルが赤き結晶鎧を纏い、そこから翼を生やして浮かび
「初めまして、ライアーの伴侶…キャロル・エヴァンジェリンだ。以後…よろしく頼むよ…。この世界の超越存在よ」
デウスマギウスのライアーが
「妻共々、挨拶に来たのだよ」
そして別の場所では…それはフランディオ王国のテントだった。
騒々しくなった外のでたフランディオ王国の王子エドワードが突如出現したアルシュのレッドリーレスと、デウスマギウスのライアーを見て
「何が起こったんだ?」
と、困惑した顔をしている後ろの空間が歪んで、三名の者達が出現した。
アルシュ達を見つめるエドワードに
「エドワード王子…久方ぶりですね…」
と、口にしたのはナレオンと部下に、ライアーと共に来た礼祖という青年だった。
エドワードが後ろを振り向き、憶えがあるナレオンを見つめ
「何をしにきた!」
ナレオンが微笑み
「貴方の王国を…作りました…」
礼祖が両手を交差させた瞬間、礼祖の足下から無数の鎖のような生き物が出現して、エドワードを捕縛した。
エドワードはその場に転がり
「どういうつもりだ!」
ナレオンは微笑み
「言ったでしょう。貴方の王国を用意した…と」
◇◆◇◆◇◆◇
ライアーと対峙するアルシュ達、アルシュが
「ここで伴侶ごと、倒されに来たのか!」
ライアーはフッと嘲笑いを見せ
「いいや、ここに宣言をしに来た。新たな国の誕生をね…」
アルシュは眉間を寄せ「はぁ?」という顔をした。
ライアーが四対ある機械腕を伸ばす。その手は軽く大人の胴体を握り締める程に大きく、その大きな手達を広げて
「我が父、山中 充はデウスマギウス・アレスジェネシスになり、ソラリスを作った。そして、その息子である私も、このワールストリアに国を建造する!」
轟音と共に空から巨大な天蓋が出現する。
地球サイズのワールストリアの宇宙域に、全長10万キロ幅500キロの円柱とそれの後端に備わるアンテナのような機械の大地は半径千五百キロ。形状として傘を広げた形の荒唐無稽な存在が、ワールストリアの上に鎮座した。
アルシュはそれを見上げて呆然として
「そんな、何だ…アレは?」
ライアーが
「ははははははははは、やっと父と同じく国造りが出来た!
エグゼディス・ソラリスの降臨だーーーー」
ライアーは父アレスジェネシスの偉業を成し得た。
このワールストリアがある宇宙で、天宮大地の天空王国を建造した。
まさにその試金石としてワールストリアが狙われた。
魔導テクノロジーと、ナノテクノロジーの融合によって生まれたソラリスの降臨だった。
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