アルシュの婚前
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アルシュとルシェルは、自分達の事を、両親に話して…
アルシュとルシェルは、ノアドとユースを伴ってアルシュのメルカバー家に魔導車で来る。無論、魔導車はノアドの持ち物だ。
アルシュ達四人を見て出迎えた母ファリティアと、父にしてヴィクタリア帝国皇帝アルファスが。
「あら…みんなしてアルシュのお出迎えを?」
「ああ…何時ものすまんな、ノアドくんユースくん、ルシュルちゃん」
微笑む両親、そして、ノアドとユースが、アルシュの背中を押すとそれにルシェルが付いて行き、アルシュの左腕を抱く。
アルシュが困惑した顔で
「ただいま…父さん母さん」
アルシュの態度に首を傾げる両親に父アルファスが
「どうしたんだ?」
アルシュが真剣な目をして
「父さんと母さんに話したい事がある。とても重要な事なんだ」
と、告げた後、後ろの玄関のチャイムが鳴って、ファリティアが出る。
「ああ…ファリティア…アルシュは…」
と、ヴィクティア母上がいた。
アルシュがヴィクティア母上に真剣な眼差しを向け
「ヴィクティア母上、大事なお話があります」
こうして、一同は全員がいれる大きな暖炉の居間に来ると、大きなソファーに父アルファスがヴィクティアとファリティアを両隣に座らせて頭を抱える。
「あ、アルシュよ…。それは…その…」
アルファスは言葉に詰まる。
アルシュは一人ソファーで、別の角度、アルファスと対面になる位置にルシェルとユースにノアドの三人が座り、ユースとノアドは真剣な目で、ルシェルは心配げな顔だ。
生みの母ファリティアは呆然として、別の母ヴィクティアが真剣な顔で
「アルシュ。もし、それを認めないと…したら…どうします」
アルシュは目を瞑り暫し考えた後、開き
「残念ですが。自分はルシェルと駆け落ちします」
「お前!」とノアドが立ち上がり、ユースが温厚な顔に怒りを見せている。
ルシェルは驚きに包まれている。
ヴィクティアが真剣な目で
「つまり、皇太子の地位も何もかも…無くなっても…ですか」
アルシュは肯き
「国外に二人で逃げても、当てはあります。ですが…それでこの母国を捨てるにはならない。何らかの方法で、ヴィクタリア帝国を支え、将来にアルテナが皇帝になった暁には、影ながら支援をします。出来る方法はあるはずですから…」
ノアドが近付き
「お前、勢いとか酔狂で」
と、言いそうなそれをヴィクティアは手で止め
「アルシュ、私は貴方が酔狂でモノを言うタイプではないと、知っています。それ程までに彼女が…ルシェルの事を」
アルシュは肯き
「はい、愛しています。こんな感情、前世の中山 ミスルの時にはなかった。本当に始めて人を、女性を愛する気持ちを得ました。ルシェルには感謝しても仕切れません」
ルシュルはそれを聞いて感激してしまい、目頭を押さえてしまった。
ヴィクティアは噛み締めるように肯き
「分かりました。では、まずは…ルシェルのダルシュン家に出向いてからに」
アルファスは呆然とするも、とにかく、ヴィクティアの提案に乗る事にした。
◇◆◇◆◇◆◇
ルシェルの家に途中、アルファスとファリティアにヴィクティアの三人が魔導車に同席してアルファスが
「全く、帰って来たら…」
ファリティアが
「でも…私は、問題ないわよ。ルシェルちゃんは…ずっとアルシュを好きでいてくれたから」
ヴィクティアも
「わたくしも、全く問題ありません。むしろ、良いでしょう。アルシュの事を狙って良からぬ事をする輩が出て来るのを防げますし。何よりアルシュの望み通りになる」
アルファスがフッと笑み
「全く、今まで大人びた冷たい顔しかなかったのに、生気が宿った顔をした。その理由が…ルシェルちゃんとは、嬉しいような、少し悲しいような、羨ましいような、微妙だ」
アルシュとルシェルは、ノアドとユースと共に魔導車で、ノアドが
「おい、アルシュ。ルシェルと結ばれたいってんなら、オレ達が通う軍の士官学校に来いよ!」
アルシュは
「望む所だ。最初からそのつもりだった」
ノアドが
「アルシュが入る頃には、オレとユースが教官になれるくらいにはなっているだろう。ビシビシ、鍛えてやるからな!」
アルシュは微笑み
「ああ…そうしてくれ。皇太子だからって特別扱いなんかより、厳しい泣き出すような過酷さに晒してくれた方が、士官学校でも…贔屓目じゃあないって見てくれるし。それに…厳しくされるなら、年上の先輩であり友人の二人の方がいい」
優しいユースが珍しく厳しい目で
「本気で鍛え込むからな」
アルシュは頭を下げ
「お願いします。お兄さん」
ユースは鼻息を荒げた。
◇◆◇◆◇◆◇
アルシュ達の二台の魔導車が、ルシェルの祖父ミリアルドとルシェルの両親がいるダルシュン邸に来た。
ミリアルドがアルシュ達を迎えて
「敬愛する皇帝陛下、今日は来て頂きありがとうございます」
アルファスが渋い顔で
「中央陸軍大将ダルシュンよ。急な申し出、すまない。話を聞いてくれるか?」
ミリアルドは微笑み、後ろにいるアルシュ達を見て
「はぁ…孫達もおりますが…どのような事で?」
アルファスが
「アルシュとルシェルの事でだ」
アルシュ達が入ると、ルシェルの両親が迎えて暮れた。
ルシェルに似た母親と、右腕と左足が魔導機械義手の父親が「ようこそ」と迎えて暮れた。
ルシェルの母親が一同を大きな広間に通していると、ルシェルの父親が
「ユース、何があった?」
ユースは不機嫌に
「聞けば分かる」
父親は、珍しく不機嫌な長男に首を傾げた。
そして、広間に来ると、アルシュとルシュルが共にソファーに座り合って、お互いの手を握っている。
他の者達もソファーに座り、ヴィクティアが
「アルシュ…」
と、促すとアルシュが
「本日は…その…突然の事ですいません」
ルシェルの両親と、祖父ミリアルドは畏まっているアルシュに首を傾げる。
そんなに畏まる間ではないからだ。
アルシュが真剣な目で
「実は…ルシェルと、約束しました。あと四年後…お互いが18になった時に…結婚しようと…」
ユースが飲んでいたティーカップを荒く置いた。
ルシェルの両親は驚きに顔を染め、ミリアルドは少し驚くもフゥ…と息を抜き
「それは、つまり…口約束の許婚ではなく、将来の伴侶としての約束…という事で間違いないかね?」
ルシェルの両親は驚愕に包まれ、母親が
「ルシェル…本当なの?」
ルシェルは肯き
「うん。そうよ」
ルシェルの母親は驚愕するも、父親が
「しかし、本当によろしいのですか? ヴィクティア正妃様」
と、ヴィクティアを見る。
ヴィクティアは堂々と
「問題ありません。むしろ、良かったと思っています。我がヴィクタリア帝国は、陸軍と海軍、空軍が分断している状態です。それが少しづつではありますが…雪解けのように融和しつつあります。今後ともの禍根を残さぬようにするには丁度いいかもしれません」
ルシェルの父親は義手の右腕を押さえる。彼もまた、十数年前にあった継承内戦の時に被害にあった。もう、二度とあのような悲劇が起きて欲しくない。だが
「ヴィクティア正妃様。確かに政治的な事で、このような事になるのはよろしいでしょうが…。わたくし達は、ルシェルの両親です。政治的な事や道具的な事で、子供達の婚姻を決めたくありません」
父親としての娘を思う気持ちだ。
ヴィクティアがフッと笑み
「申し訳ない。アルシュとルシェルが結ばれた事に対しての後々の影響が主ではありません。そうですよね。アルシュ」
アルシュは肯き
「自分は、本当にルシェルを愛しています。今まで…その前世の時も会わせてルシェルのような女の子に会った事がありません。自分を大事にしてくれて、本当に自分を愛している。こんな気持ちは始めてです。ルシェルが幸せになるなら、自分はどんな事にも耐えられそうです」
アルシュの真剣な態度に祖父ミリアルドは微笑み、息子でルシェルの父親に
「なぁ…そういう事らしい。どうする? ユリオス」
ルシェルの父親ユリオスが
「陛下…よろしいのですか?」
アルファスは苦笑して
「いやいや、こういう場合は、嫁の側の考えが大事だろう。私達は勿論、賛成だが…。ルシェルの方は…」
ルシェルの母親が
「アナタ…私は、良いと思う。アルシュ殿下は、ルシェルの事を大切に思っているのは知っているから」
ユースが
「もし、妹の事を悲しませたら、ボコボコに殴り倒してやるから」
ルシェルの父ユリオスがフゥ…と深い溜息を吐き
「分かった。アルシュ殿下、いや、アルシュくん。ルシェルの事…よろしく頼む」
アルシュは輝く目で「はい」と頷いた。
こうして、アルシュとルシェルの二人は生涯を共にするのを認められた。
◇◆◇◆◇◆◇
その後、アルシュとルシェルは、ヴィクティアの邸宅へ向かい、アルテナに事情を説明すると、アルテナが呆れた顔をして
「そう。まあ良いでしょう。アルシュ、絶対にルシェルを幸せにしなさいよ」
アルシュが息巻き
「当然だ」
アルテナがルシェルの手を取り
「ズッと、アルシュがいなくて淋しそうだったから、良かったね」
アルテナの祝福にルシェルは涙して
「うん。アルテナありがとう」
アルテナが渋い顔をして
「この偏屈な弟アルシュを支えてやってね。迷惑を絶対にかけるけど。捨てないでね」
その言葉に、アルシュはムカッとするも、祝福してくれるのは分かっているので、何とも言えなかったが。
「アルテナ…何時から、オレは、アルテナの弟になったんだ?」
アルテナは自分を指差し
「あたしの方が一ヶ月早い」
と、偉そうだった。
それを遠くで見ているヴィクティアと、秘書のアリアが
「しかし、これで…アルテナ様の次期皇帝は盤石になりました。アルシュ様は大家の一族に入る。キングス級ゴーレムを製造するメルカバー家としても好都合で、しかも…大家に入る皇家の分家になる。ますます、アルテナ様の次期皇帝に異を唱える者は激減しますね」
ヴィクティアが
「確かに…ですが。そんな事は副次的な事でしかない。良いではないですか…愛し合う二人が共にある」
アリアも肯き
「そうですね。アルシュ様のように大きな力を持つ者には、傍にいてくれる女性が必要ですから…」
ヴィクティアは微笑み
「何にせよ。この国、ヴィクタリア帝国は盤石になって行く」
◇◆◇◆◇◆◇
そして、アルシュはルシェルとの四年後の婚姻を強くする為に、婚前の式をした。
王都にある教会で、そして、偶々に来ていたエネシスが司祭で。
なんか、そこだけが釈然としないアルシュだが。
アルシュとルシェルの家族と、その友達ノルンとカタリナ、ユースのノアドという少ない人数だが、お互いが必ず結ばれて本当の結婚式をするという、婚前式をささやかにした。
司祭代わりのエネシスが祝詞を読み。
スーツのアルシュと、チョットしたドレスにベールを被るルシェルの二人が腕を組んで並び、エネシスの前に立ち。
その後ろの席で家族と友人達が見詰める中、厳かに式は進んだ。
婚前式が終わったの数日後に、ポツリとヴィクタリア帝国の新聞ネットワークや報道ネットワークに小さな事として、四年後にアルシュ皇太子と予てから許婚であるダルシュン家のお嬢様ルシュルが、婚姻を誓ったと…小さな話題で掲載された。
見ない人は、見ないくらいの小さな記事だが、それは確実に大きな事でもあった。
それは、ジェネシス帝国で、ラエリオンとインドラがお茶をしていると時に、インドラが記事の載る端末をラエリオンに向け
「ヴィクタリア帝国のアルシュ、許婚と婚姻したんだと…」
インドラが見せる。
ラエリオンは余裕で笑い
「素晴らしい事だ。誰もひがまないし、嫉妬もしない。正に良い所に入ってくれて、世界情勢も安定する」
ラエリオンは飲んでいたカップを置いて
「なぁ…いい加減、娘マリティアと、そちらのロディーくんとの婚姻を認めてくれないか? ウチとしては問題ないんだが…」
インドラは、端末を自分に向け別の記事にしつつ
「まだ、十代後半だ。早い」
ラエリオンは呆れた顔をして
「固いなぁ…」
と、愚痴をこぼした。
最近、二人は話し合う事が多い。あの世界同時にキングス級ゴーレムの戦争後の戦後補償で話し合う事が多くなった。
そして、インドラが
「それと…コレだが」
インドラが見せた別の記事ではない情報を映す端末を見て、ラエリオンが渋い顔をして
「せっかく、良い話題があった後だが…」
インドラが
「奴ら、見えない所で動いているぞ」
と、見せる情報には、誰かと交渉しているライアーと隣は、謎の金髪の美女に、ナレオンの三人がいた。
インドラが
「ライアーとナレオンには間違いない。金髪の女は…キャロルって名前らしい。何でも、ライアーの長年に連れ添う妻だと…」
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