面倒なクレティア
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アルシュは、学園都市戦艦ムツに来て三ヶ月が経った。
オラ、アルシュ。もう、学園都市戦艦ムツに来て三ヶ月になったぞ。変わった事と言えば…。
アルシュは眼を覚ますと、肩を解す。
だが、少年らしい体の大きさではない。身長が一気に二十センチアップの170センチになった。
まだ、十三歳でだ。
まだまだ、身長の伸びが止まらない。もしかしたら、前世の中山 ミスルと同じ180センチになるのかもしれない。
顔立ちも、どこなく前世の中山 ミスルが少し幼い程度。その前に、前世の中山 ミスルとアルシュの血を分けた父親アルファスは、中山 ミスルを優しくして髭を生やしたみたいな感じだった。
転生するには、前世と似たような遺伝情報を生み出す両親の間から生まれるのか?
転生に関する新たな論文が書けそうだ。
でも、地球時代の前世や輪廻転生に関する事では、あまり、前世と今世との関連性は低い感じだったが…。
そう、アルシュは考えつつ、学生服に袖を通す。
数年単位で二十センチの伸びを想定していた学生服は、見る間に小さくなって買い換えを二度も行い、そして、持って来た服も全部、あっという間に小さくなり、総買い換えをした。
何より、一番に驚いたのがアルテナで、悔しがったのもアルテナだった。
「なんで、一緒に成長してくれないのよ!」
脇を抓られ、足のモモを叩かれ散々だった。
ルシェルは優しく笑み
「大きくなって見上げるアルシュって、中々ね」
どことなく喜んでいた。
将来、二人が大人になった時に、並んで歩く姿を容易に想像できたのが嬉しかったらしい。
ノルンとカタリナは、「デカいね」だけ、ユースとノアドは、「鍛えがいがある」と…何の鍛えがいだ?と不安になる。
とにかく、日々を過ごすアルシュ。
ドアを潜ると
「おはよう。アルシュ」とロディーとマリテージアが来てくれている。
アルシュは微笑み
「おはようございます。ロディーさん、マリテージアさん」
二人は微笑みロディーが
「その身長なら、高等部の生徒と間違えられそうだね」
マリテージアが
「一回、秘密で私達の授業に参加してみる? バレないと思うなぁ…」
アルシュは微笑み
「面白そうですね」
朗らかな三人の会話が続いた後。
「おはよう、アルシュ」
と、高飛車な声が右でした。クレティアだ。
クレティアは、自分のやった事に関しての贖罪の為に、アルシュの学園都市戦艦ムツでの生活をサポートするのだが。
クレティアの両脇にいる二人、クロリアとクリティアが
「おはよう。アルシュくん」とクロリア。
「おはようございます。アルシュくん」とクリティア。
普通に挨拶してくれる。
クレティアだけが高慢な感じで
「さあ、今日もわたくしの完璧な学園ライフに同行して貰いますわよ」
アルシュは、はぁ…と溜息を漏らし
「どうでもいい」
辛辣な一言を漏らす。
「何ーーーー」とクレティアは地団駄を踏むのを無視して、アルシュがクロリアとクリティアの下へ来て
「で、そっちの予定は?」
「こんな感じです」とクロリアが予定を見せる。
アルシュも今日に予定されている授業のスケジュールを見せて
「じゃあ、こことここで合流だね」
「はい」とクロリアとクリティアは返事をした。
クレティアが
「さあ、今日もわたくしが勉強を教えてさしあげますわ」
高飛車な態度だが…勉強の実力は普通だ。悪くもない合格ラインの60点から70点がクレティアの成績だ。
クレティアの傍にいる二人、クロリアとクリティアの方が頭がいい。
二人はコンスタントに80点ラインを各教科で出す。
アルシュは、何時もクロリアとクリティアに勉強を習っている。
教えてくれるのも上手い。どうやら、この高飛車なお嬢様のお陰で上手くなったらしい。
将は普通だが、部下達が優れているという、典型的な社会にある組織の縮図のようだ。
そうして、皆と共にアルシュは学舎に来て、勉強する。
アルシュの担任アキコがアルシュの前に来る。
「おはよう、アルシュくん」
完全にアルシュの方がアキコを見下ろしている。
「おはようございます。アキコ先生」
アキコは微笑み
「まだ、身長が伸びているわねぇ…」
アルシュは肩を竦め
「もう、そろそろ終わるでしょう」
アキコは
「幼かった声が一気に低くなって男らしくなったわ…」
アルシュは
「まあ、違和感はないので…」
アキコは笑み
「そう、良かった」
三ヶ月前の事でけっこう距離を取る先生が多いが、担任のアキコだけは、変わらない。
その原因は、クレティアにあるし、アルシュ自身にもある複雑な事だ。
アルシュはお辞儀して
「じゃあ、授業の講義がありますので…」
「はーい。しっかりと勉強してね」
と、担任のアキコは告げる。
あの時、私がサポートしますと、責任を持ち出す位の気迫を持っていた女教師が今は、どことなく暢気な穏やかな先生だ。日光国の親王という生まれもあるが、そんなを感じさせない。いや、感じさせていないだけかもしれないが…。
とにかく、アルシュは、授業に出る。
ノート端末に授業での話を書きながら、真面目に受けて、次はクレティア達と合流。
大学の講義のような授業体勢なので、席の指定はない。ので、アルシュとクレティア達四人が纏まって授業を受ける。
教師が黒板に説明や文言を書き。
なんだ? どういう意味だ?と、アルシュが感じてそれを
「クロリア、ちょっと教えてくれ」
「なに?」
と、クロリアに聞く。
クレティアが
「なぜ、私に聞かないの?」
不満気味だが…アルシュは
「分かるのか?」
クレティアは頬を引き攣らせ
「教えてあげなさい。クロリア」
はいはい、分からないのに、偉そうな態度ですね。
そんな感じで一日の授業が終わると、アルテナ、ルシェル、ノルン、カタリナと繋がる端末通信に、今日の事を書く。
今日もクレティア達と…どんな授業を受けたとか、こんな感じだったとか、とにかく、気軽に書き込む。
アルテナも、ルシェルも、ノルンも、カタリナも、同じようにヴィクタリア帝国の事を書き込む。
何となく、皆の日記帳のような感じだ。
そして、今度の連休に帰ってみんなと会いたいと、書き込んだ。
遠くに離れても友人と繋がっている便利さに、どこか安心感を憶えていた。
地球でも、このワールストリアでも通信機器の力は絶大だな…。
放課後の帰りは、クレティア達との同行ではない。ロディーとマリテージアの二人も。
アルシュ以外は、用事があるので、珍しくアルシュ一人での寮に帰宅だ。
アルシュが、海に沈む夕暮れを見ながら寮へ向かっていると…
「アルシュ・メギドス・メルカバー・ルー・ヴィクタリアさんですか?」
フルネームで呼ぶ人物が前にいる。
高等部の生徒、男女の二人だ。
アルシュは首を傾げ
「どちら様でしょうか?」
男子生徒が
「ぼくは、ルクセオン共和国の…者です。リボルト・アガハ」
女子生徒が
「わたしは、ギリシオ共和国の…シャリア・リーレイです」
アルシュが渋い顔をする。そう、あの四カ国大戦に関係する国の者だ。
「どういう用件でしょうか?」
リボルト、シャリアはお互いに顔を合わせた次に、リボルトが
「僕たちの父親は、あのヴィクタリア帝国へ進軍しようとしたキングス級ゴーレムの大軍団にいました」
シャリアが
「それを貴方が滅ぼした」
アルシュは背筋が張り詰める。
本当の自分がやった事に関しての被害者だ。
言葉に出来ないでいるアルシュに二人は
「どこかでお話しをしませんか?」
と、シャリアが告げる。
アルシュは「はい」と頷いた。
こうして三人は、帰り道の途中にある喫茶店へ入る。
アルシュを対面にシャリアとリボルトがテーブルに座っている。
飲み物が来てリボルトが
「アルシュ…さん。貴方は…あの大戦について…どう思っているのですか?」
シャリアが
「始めは、あの戦いが、国を救う聖戦だと聞きました。でも、私と彼の父親は複雑な事を言っていました。他国を侵略して果たして、それで国が救われるのか…?と」
リボルトが
「ぼくと彼女の父親は、軍人です。ですが…戦争を肯定する事はなかった。寧ろ、否定していました。戦争で犠牲になるのは、何時も末端の兵士や、お互いの国の民であると…」 シャリアが
「ですが…私の国も彼の国も、疲弊して…。みんな…ギスギスして…」
リボルトが
「捌け口を探していたように思えます。そして、あのような悲劇が…」
シャリアは
「私と彼の父は軍の末端ゆえに、命令には逆らえない。あの戦争の時にキングス級ゴーレム達に乗っていた者達の中には、私達の父のような方達がいた。そして、貴方が巨大な力で十万機の軍団を滅ぼした後、貴方は…犠牲になった兵士達の家族や、それを行った国々に援助と支援を始めた」
リボルトが
「それが始まった瞬間、あれ程までに戦争を起こすが正しいと言っていた人達が、一斉にあの戦争は間違いだったって、手の平を返しました。教えてください。何が正しかったんですか? 何が間違っていたんですか? ぼくと彼女の父親の犠牲って無意味だったんですか?」
アルシュが目を閉じて黙る。それを二人は固唾を呑んで言葉を待つ。
アルシュは眼を開けて
「すまなかった」
と、テーブルに手を付いて頭を下げた。
二人は驚きに包まれる。
アルシュは頭を上げたまま
「今でも、本当は、もっと良い方法があるんじゃないかって悩んで、苦しんでいる。自分がやった事に正しいなんて一欠片も思っていない。だが、あの方法以外に自分達の国を侵略される事を防ぐ方法があったのか? 何時も悩み考えている」
アルシュが真摯な眼で二人を見詰めて
「正しい事なんてなかった。でも、間違っているのか?と問われれば、分からない。でも、事実は、多くの者達が…犠牲になった。それしか言えない。二人が求める答えをオレは持っていない。すまない。そして、君達の大切な父親を殺してしまって、本当にすまない」
アルシュは、再度、頭を下げた。
それしか、アルシュには出来なかった。
アルシュの真剣な態度に、二人は口を閉じてしまう。
二人が思っていた答えとは違っていた。
きっと、ヴィクタリア帝国を守った事が正しかった…と、強く言われると思っていたからだ。
シャリアが
「アルシュさんは…今後、大戦の後について、どう…?」
アルシュは真剣な眼で
「エネシス枢秘卿と相談して、大きな慰霊塔を建てるつもりだ。今後、二度とこんな悲劇が起こらないように尽力する」
リボルトが
「そんな事が出来るんですか?」
アルシュは
「やらないで後悔するより、やって後悔した方がいい。どんなに不可能だとバカにされようと、オレはやる。二度とあんな悲劇は起こさない。起こさせない。そうでなければ、犠牲者達に顔向けが出来ない」
本気のアルシュの言葉を聞いて、リボルトとシャリアは肯き合い
「今日は、ありがとうございました。アルシュさん」
と、シャリアが告げる。
アルシュは、苦しい顔で
「正直、君達から攻められると思っていた。オレは…君達の大切な父親を奪ったんだ。当然だと思う」
リボルトが
「貴方が、あの戦争での事が正しかったって言ったら、そうなっていたかもしれません。ですが…後悔している。苦しんでいる。それと、二度とあの戦争の悲劇を起こさないと言ってくれたから」
シャリアが
「私達は、見ています。アルシュさんがやる事を…」
アルシュは肯き
「ああ…そして、間違えそうなら、遠慮無く言いに来てくれ」
こうして、三人の対話が終えて、リボルトにシャリアが、寮へ帰りながら
「本当に十三歳とは思えないなぁ」
と、リボルトが呟いた。
「うん。ウワサにあった前世を持つ人っていうのに、説得力が増したなぁ」
シャリアが夜空を見上げる。
リボルトが
「シャリア、話せて良かったか?」
「うん」とシャリアが告げ
「リボルトは?」
「ああ…良かったよ」
と、リボルトは告げた。
寮に戻ったアルシュは、エネシス枢秘卿に通信で話をしていた。
「と、ああ…そういう事があった」
『そうですか…。犠牲者の遺族が…』
「エネシス様。オレはまだまだ、何も出来ないガキだ。そう思った」
『アルシュ、今は…まだ、子供かもしれませんが。貴方のその考えは間違っていません。何時か…必ず、味方がたくさん現れて叶うはずですよ』
「そうだと、良いけどね」
『そう、皮肉に取らない。とにかく、今…大慰霊塔の建設を行う協議が無事に終わりましたので、年末か、年明けには完成して、大慰霊祭が行えるでしょう』
「そうか…丁度、始まって一年が経った日に…」
『ええ…なるでしょうね』
「必ず、出席しますので…」
『分かっています。学園生活、問題なく過ごしなさいアルシュ』
「はい」
と、アルシュは通信を切った。
アルシュは窓の外を見て
「本当に、まだまだ、ガキだよなぁ…」
そう自分の無力を感じていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。
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