アルシュの卒業
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アルシュは通っていた学院の初等部を卒業して…
オラ、アルシュ。今、卒業する初等部、つまり…小学生の卒業式にいるぞ。
みんなで、歌を歌って、次の中等部へ行く儀式だけど…オラは…。
アルシュが卒業式に出る数ヶ月前。
ヴィクタリア帝国は大荒れだった。
「アルシュ様を、次期皇帝候補にすべきだ!」
「いいや! ダメだ! ドラゴニックフォースを持つ正妃のアルテナ様が当然だ!」
「そんな古い考えだから、継承戦争なんて起こったのだ!」
「ヴィクタリア帝国に長く続く伝統だ!」
「世の中を苦しめる伝統なんて、悪習だ!」
アルシュの功績を巡って大きくヴィクタリア帝国が揺れていた。
アルシュを次期皇帝候補に押すのは、新たな流れを組む貴族出身でない民達だ。
アルシュがヴィクタリア帝国とフランディオ王国に戦争を起こし、敗戦した四カ国に補償を行い、それの余波を受けて活気を持った民達。
それに対して反対を唱えるのが、アルテナの母親、正妃ヴィクティアを中心とする貴族階級の者達だ。
アルシュは、庶子であり、このまま、次期皇帝候補になると…確実にアルテナがその地位を奪われる可能性が高い。
国内の帝国民は、アルシュの行いを知って、アルシュこそ、皇帝に相応しいのでは?
そんな論調が広がっている。
それを防ごうと、様々な報道機関に、長年続いたヴィクタリア帝国の歴史を放映させて、アルテナこそ相応しいと…。
だが、報道機関は…所詮、帝国内にある魔導ネットワークシステムの一つでしかない。
多くの個人で取材、報道している者達まで、手が回せない。
ヴィクタリア帝国で主な報道機関は7つ、その数百倍もの個人ネットワーク報道は、帝国民の意思を積極的に伝えている。
このままだと…確実に、ヴィクタリア帝国は割れるのは必至だ。
アルファスは、決断を下さないといけない。
正妃や継室達は…アルファスの判断を狂わさない為に、何も助言しない。
正妃ヴィクティアは
「わたくし達は、夫であり皇帝の意思に従います」
継室達も同じ事を告げる。
アルファスが悩み考えていると…皇帝の間にアルシュが来た。
皇帝の玉座にいる父アルファスが
「どうした? アルシュよ」
アルシュは跪き
「父上、お願いがあります」
アルシュの望みは決まっていた。
アルファスが、民の広場にある高座のベランダで、民に向かって勅語を語る日
「親愛なる帝国の民よ。皆が聞きたい結論の前に、この話を聞いて欲しい」
アルシュがアルファスの後ろから出て来て、多くの帝国民を前に言葉にする。
「こんにちは、アルシュ・メギドス・メルカバーです。
ぼくは、とある約束をアルテナとしています。
それはアルテナのナイトである事です。
そして、将来、アルテナが皇帝になった時に仕えると約束もしています。
ですから…アルテナが皇帝になるまで…ぼくは…ヴィクタリア帝国を離れようと思います」
聞いていた帝国民達に動揺が広がる。
アルシュが微笑みながら
「ぼくの将来の夢は、アルテナが皇帝となったヴィクタリア帝国で暮らす事です。
皆さんが、ぼくの事を押してくれるのは嬉しいです。
ですが…それは…ぼくの望みではありません。
ぼくは、昔にあったヒドい戦争を知っています。
そんな事になるのを望んでもいません。
でも、ヴィクタリア帝国を捨てる事なんてしません。
ここには大切な家族や友達……そして、許嫁がいます。
将来、必ず…アルテナが皇帝になった時に戻って、この国の平和の為に尽くします。
どうか…ぼくの夢を、ワガママを聞いてください!」
アルシュが、帝国民に向かって頭を下げる。
静まり返った帝国民から、自然と拍手が沸き起こり
『わあああああああああ 天臨丞王アルシュ様 ばんざーーーーーい』
と喝采が沸き起こった。
アルシュが言葉を終えて、後ろに戻ると、そこには貴族の大家の面子が並んでいた。
ルシェルの祖父ミリアルドを中心として老紳士の大貴族。
老淑女の大貴族もいて、彼女達は涙をハンカチで拭いていた。
ミリアルドがアルシュに近付き
「ありがとうございます。アルシュ様」
アルシュは微笑み
「いいよ。ぼくも、この国がヒドい事になるは嫌だから」
大貴族の当主である老淑女が近付き
「必ず、アルシュ様の通りにアルテナ様を皇帝にして、アルシュ様をお迎えにあがります」
アルシュは肯き「楽しみにしているから」と言葉にした。
アルシュが、帰ろうとすると正妃ヴィクティアと継室五人が待っていて、ヴィクティアが
「アルシュ…ありがとう」
アルシュは頭を掻いて照れつつ
「いや…アルテナとの約束だからね。それに…なんか、上に立つのは…苦手だから」
ヴィクティアと継室達は、ふふ…と微笑んだ。
だが、一番、反対した者がいた。
アルシュが家のメルカバーの屋敷に帰った瞬間
「アルシュのバカーーーーーー」
アルテナがいて、ポコポコと殴られる。
「ヒドいーーー 許嫁を捨てるのねーーーー」
ルシェルもいて、同じく殴る。
「痛い! 痛い! 止めて 噛まないでーーーー」
と、アルシュは叩かれ、腕を噛まれて散々である。
そこへ母親ファリティアが来て二人を離す。
「落ち着きなさい。二人とも…」
フーフーとアルテナとルシェルの息が荒い。
アルシュは真っ青になる。
「まだ…怒って…」
二人は瞳から涙を零して
うぁああああああああああああ
大泣きを始めた。
そこへ、カタリナとノルンも事情を聞きに来た。
大泣きするアルテナとルシェルを見て驚愕を向けている。
その後、アルシュは両腕にアルテナとルシェルの二人を抱えて、ヒクヒクと泣いている二人の愚痴を聞きつつ肯き、話を聞いて落ち着くまでいた。
結局、離れる事は了承したが…ラインのような専用魔導端末にて、アルシュにアルテナ
とルシェルの三人のグループを作って、毎日、連絡をすると…いう事で落ち着いた。
ルシェルが
「浮気したら…絶対に許さないから」
と、アルシュの左にいるので左手を力強く握る。
右にいるアルテナも、アルシュの右手を握り、う…と恨めしそうに見つめた。
それは、私も同じだからね…のように思えた。
アルシュの両手は、強く握られて鬱血しそうだった。
因みに、そのグループ端末に、ちゃっかりノルンとカタリナも参加した。
卒業する数ヶ月の間、けっこう…ルシェルやアルテナがアルシュの家に入り浸っていた。
別れるのが寂しいのだ。
別に今生の別れでなく、アルテナが皇帝になったら戻ってくるので、数年程度だが…。
十数年の子供にとって、その数年は、まだ…長いのだ。
成長期である時分は一日一日が刺激と時間に満ちているのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
アルシュが、ルシェルやカタリナ、ノルンと共に卒業式を終えると…正妃と継室達に、姉妹達全員がアルシュの家に来た。
アルシュの旅立ちを祝う為だ。
11人の妹達が、絶対に帰って来てね!と散々、約束され、アルシュはその証として、11人にブラードダイヤが填まった指輪をプレゼントした。
正妃ヴィクティアがアルシュの前に来て
「アルシュ、これを…」
アルシュにとある小刀を渡す。
それは、ヴィクタリア帝国の紋章、龍の大樹が掘られた物だ。
アルシュはそれの意味が理解出来た。
「正妃様…これは…」
ヴィクティアが微笑み
「今日から、私の事は…ヴィクティア母上とお呼びなさい。
アルシュ、貴方は…今日から
アルシュ・メギドス・メルカバー・ルー・ヴィクタリアです」
ルー・ヴィクタリアとは、ヴィクタリア帝国の皇帝の息子、皇太子という事だ。
アルシュが受け取るのを戸惑っていると、アルテナがアルシュの右手を手にして、無理矢理に握らせた。
「アルテナ…」
アルテナが力強く微笑み
「これで、アルシュは私の本当の兄上になった。だから、必ず、私を助ける為にここへ、ヴィクタリア帝国へ戻ってくる」
アルシュは肯き皇太子の証を握り締め
「うん。必ず…戻ってきてアルテナのナイトになるよ」
アルテナが嬉しそうに微笑むと、ルシェルがアルテナに小さく耳打ちする。
「アルシュは、わたしの許婚だからね」
それにアルテナは、挑戦するような笑みを向けた。
少しアルテナとルシェルは視線を交差していると、ファリティアが
「さあ、皆さん。一緒に夕餉にしましょう」
みんなで食事会となる。
そして、一週間後。アルシュを乗せて旅立つ飛翔船に、多くの見送りがあった。
アルシュは呆然とする。
ヴィクタリア帝国の皇太子であり、悲惨な戦争を止めたアルシュの見送りは盛大で、大きな通りを軍隊が警護して、その道に多くの聴衆が並んで、
「アルシュ様ーーーー 必ず、帰って来てください!」
「アルシュ様ーーーー」
黄色い歓声が広がっている。
アルシュは驚きと困惑と共に、飛翔船までの道筋を進む。
アルシュの隣には、父で皇帝のアルファスが手を繋いで共に、数百メートルを進み、その背後に、陸軍、海軍、空軍の将軍達が並んで続く。
アルシュの直ぐ後ろには、ミリアルドがいて、アルシュが振り向いてニンマリと笑む。
それにミリアルドも応えて微笑む。
アルシュは見送りの道を進んでいくと、聴衆の中にレイール達を見つけて、駆け付ける。
アルシュが来た事で、レイール達は驚くもレイールは微笑み
「アルシュくん。元気でやるんだよ」
アルシュが残念そうな顔で
「もうちょっと…レイール先生の道場に通いたかったです」
レミリアはそれを聞いて目元が潤んでしまった。
色々とあったが、アルシュは、今まで通い続けてくれた。
才能があるか?といえば………だが、どんな小さな事でも地道に頑張っている姿は、多くの者達の励みになっていた。
レイールが
「何時でも道場に来てくれよ」
と微笑み。
アルシュは肯き
「はい。また、よろしくお願いします」
アルシュは多くの民達の見送りを経て飛翔船に乗り、飛翔船は飛び立つ。
その飛翔船の周囲には、護衛の飛翔戦艦艦隊が追随する。
アルシュの道のりは、一日で到着する。
その間、アルシュに近しい者達が共にいる。
父親もそうだが…ルシェル、アルテナ、ノルン、カタリナ、ノアド、ユースもいる。
ノアドが共にいる大きな食堂で
「アルシュ、何かあったら直ぐに呼べ」
アルシュが
「なるべく、問題を起こさないようにするね」
ノアドが「あああ!」と唸り
「なんだ? その言いぐさは!」
アルシュが渋い顔をして
「ノアド兄は、頼りがいがありすぎて、問題を広げそうで怖い」
ノアドは兄と呼ばれた事と、なんか微妙な事を言われて
「ああ…うう…ん」
と、しか言えず、周囲が笑った。
アルシュは次へ向かう場所へ思いをはせる。
アルシュが向かう場所は、ジェネシス帝国の北東上部にある日光国。
東の果てにあるその長細い陸地の国は、技術立国であり、その高い技術力を使って中立を保っている。
その日光国にある、とある学園のパンフレットをアルシュは見る。
それは同じくテーブルと共にするみんなも見ている。
ノルンが
「へぇ…海上に浮かぶ全長五キロの海上都市学園戦艦か…」
興味がありそうだ。
アルシュもパンフレットにある巨大な、都市戦艦を見て好奇心が疼く。
父のアルファスが
「ここは、かなりの護衛能力を備えていて、多くの国々の皇太子や貴族の子達が勉学の為に暮らしている」
「へぇ…」
と、アルシュは頷く。
まさか、某ライトノベルにあった、巨大な学園都市戦艦と似たような場所に行くとは…驚きだった。
脳裏に、そのライトノベルの事が過ぎった。
ハーレム系の主人公が、魅力的な女性達に囲まれて暮らす、シリアスのようなギャグのようなSFのような、とにかく、ライトノベル系に相応しいごっちゃまぜの作品だった。
ちょっと、期待が膨らんだ。
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