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ぼく最強の皇帝になります!  作者: 赤地鎌
12歳から

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46/63

アルシュの言葉

次話を読んでいただきありがとうございます。

よろしくお願いします。


アルシュは、戦勝の演説で…


 アルシュはヴィクタリア帝国の皇帝城の正面広場にある特設台に上がろうとしていた。

 目の前には今回の戦争に勝利した事で歓喜する帝国民達がいる。

 皆、アルシュ様、バンザーイ、と叫んで喜んでいる。

 アルシュの後ろには、同じ事態を対処したインドラとヴァルハラも付いていた。


 アルシュの目は死んでいた。

 目の前で、勝利の事を告げて盛り上げる司会。

 色んな偉い人達の話。

 どうにでも良かった。

 ただ、自分が最低最悪な大量虐殺の英雄になった事に絶望していた。


 それを両脇にいるインドラやヴァルハラが察して

「アルシュくん…」

と、インドラが

「気分が優れないなら、降りてもいいぞ。後は…我々が…」


「ああ…そうだぞ」

と、ヴァルハラは心配げだ。


 アルシュは堪えているの察してくれる二人がいてくれて嬉しかった。

「大丈夫です」

と、心配を掛けないようにした。


 そして、この勝利の大演説がアルシュに回ってきた。

 司会が

「我ら帝国を守護した最強の皇子を讃えて!」


 バンザーイ、バンザーイと音頭を取る。


 そして、数万人というバンザイをする観衆の中に

「我ら、ヴィクタリア帝国に逆らった愚か者に、正義の鉄槌を下してくださった皇子に!」

と讃える言葉だったが。


 アルシュには最低最悪の皮肉に聞こえた。


 司会者が、アルシュへ笑顔でマイクを渡す


 アルシュの目付きは鋭かった。

 そして、特設台には、父親のアルファス皇帝と正妃ヴィクティア達五人もいた。


 アルファスは直ぐに息子の様子がおかしい事に気付いた。

「アルシュ…」


 アルシュを讃えるバンザイが続き、アルシュが口にする。

「あ…」

と、大多数のスピーカーからアルシュの声がした。

 バンザイが止み、アルシュの言葉を皆が待つ。その顔は笑顔だ。

 英雄がどんな事を口にするか楽しみだった。


 アルシュは口にした。

「ふざけんじゃねぇーーーーー」

 アルシュ以外の全員が戸惑いの顔をする。

 アルシュは続ける。

「何が勝って素晴らしいだ! ふざけんじゃねぇーーーーー

 いいか、よく聞け!

 お前等が讃えるのを、今回で肉親を亡くした国の連中が見て、どう思う!

 ぼくは! 大量虐殺の英雄になんてなりたくなかった!

 お前達が勝ったと喜ぶ裏で、苦しみ、悲しむ連中がいる事を理解しやがれーーーー」


 アルシュは怒りのままに、マイクを特設台の床に叩き付けて、その場から去っていった。

 

 その場にいる全員は、時が止まったかのように唖然としているが、インドラとヴァルハラは肯き、降りていったアルシュの後を付いて行き、特設台から降りた。


 今回の英雄が消えた事に、集まっていた帝国民は、呆然として誰も動かなかったが…その中にいたラエリオンは、特設台の方へ行くと、アルシュが叩き付けたマイクを手にして


「上からすまない。私は、ジェネシス帝国、ホワイト・ジェネラルの、ラエリオンという者だ。

 皆様、アルシュ様が言った言葉は、現実だ。

 戦争に勝つという事は、そういう事だ。勝者の国以上に、敗者が存在し、そして…不幸になる者が多くいるのだ。

 アルシュ様は、正道をおっしゃったのだ」

 ラエリオンはフォローを入れてくれた。



 アルシュは、皇帝城にいるのが嫌になって、帰ろうとした。アリアを見つけて

「アリアさん」

と、悲しい顔を向けてしまった。


 アリアは不安げな顔で

「どうしましょうか…?」


「帰りたい」


「分かりました」とアリアは魔導車を出そうとすると、そこへアルテナとルシェルが来た。


『”アルシュ”』と二人は、アルシュを心配している。

 

 アルシュはポツリ

「家に帰る…」

と、告げて黙って二人は同行する。


 魔導車の後部座席に、アルシュを挟んでアルテナとルシェルの三人が座る。

 アリアの運転で、発進して暫くして、アルシュがボロボロと涙を零す。

 

 ちきしょう…とアルシュは、苦しんでいると、アルテナとルシェルが優しく両側からアルシュを抱き締めて、アルシュを包んでくれた。




 アルシュを家に帰す魔導車を、インドラとヴァルハラが見つめて

 ヴァルハラが

「大丈夫か?」


 インドラが

「大丈夫だ。それほど、弱いヤツじゃあない。それに、ああ…いう風にいう理由も分かる」


 ヴァルハラがインドラを見て

「何でだ?」


 インドラが遠くを見るように

「レアドの穴の時、オレ達のジェネシス帝国の軍を壊滅させた事があるが…死者はいなかった。

 まあ、なんつうか…悪人は厳しいが、今回のように巻き込まれた連中が多い事に関しては…それなりに感傷的にはなるさ」


 ヴァルハラが

「中身は、前の時の大人を持っているが…」


 インドラが

「結局は…今のアルシュに引っ張られるんだよ。転生ってのはそんなモンさ」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 アルシュの演説を聴いていたライアーが「ふふ…」と楽しげに笑む。

 隣にいるナレオンが

「大胆な事を言いますね。これでは、国内から異論が出て来て、立場も…」


 ライアーは笑みながら俯き加減で

「そうだなぁ…国内にいれなくなったら。それはそれで良しだ。だが…どうかな?

 ああいう訴えるような感情が伴った言葉は、以外に伝染し易い」


 ナレオンが鋭い目で

「つまり…庶子、アルシュ・メギドス・メルカバーの立場が…」


 ライアーは肯き

「ああ…確実に変わるだろう…」


 ナレオンが

「それでは…計画に…」


 ライアーは自信ありげで

「それはそれで、新たに計画を練り直せばいいだけだ」


 ナレオンは肯き

「そうですか…」




 ◇◆◇◆◇◆◇


 アルシュの思いをぶつけた言葉によって、状況が変わった。

 勝利に喜ぶヴィクタリア帝国が、今回の戦争が何故、起こったのか?

 それを人々が追求し始めた。


 ヴィクタリア帝国、皇帝城、皇帝の玉座で、陸軍関係の貴族の老紳士達が、アルファスにとある嘆願書を提出した。

 その中には、ルシェルの祖父もいた。


 アルファスとヴィクティアは、その嘆願書を見て

「良いのか?」

と、アルファスが問う。

 ヴィクティアは、少し驚きの溜息を漏らす。


 ルシェルの祖母、ダルシュン将軍が

「はい。それで構いません」


 ヴィクティアが

「アルシュを、庶子ではなく。皇帝の嫡子として席に向かい入れる事。

 その後見人としてわたくしたち、正室と継室達がなる…と」


 つまり、アルシュを担ぎ上げるではなく。ただ…純粋に皇室に入れてくれと…願い出たのだ。

 こんな事をしても一切、陸軍に得なんてない。


 陸軍の貴族老紳士の一人が

「わたくし達は、アルシュ様のあの演説に感動しました。

 故に、アルシュ様を、ヴィクタリア帝国の皇室に入れるのが最も、ヴィクタリア帝国にとって素晴らしい事だと思いました。どうか…我らの願いをご考慮ください」

 嘆願に来た者達が全員、頭を下げた。

 無心の境地の嘆願なのだ。


 正妃ヴィクティアは感じる。こじれていた陸軍との関係が、少しづつではあるが…改善し始めている。それはアルシュのお陰である。


 アルファスが

「暫し、考えさせてくれないか?」

 一時、この嘆願を自分で留めた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 アルファスは、メルカバー家の屋敷にくる。

 ファリティアが迎えて暮れると、最近、アルシュが塞ぎがちで、ルシェルやアルテナがアルシュを心配して度々、来てくれる事を話した。


 アルファスはアルシュの部屋をノックして「入るぞ」と入ると、そこには居室でソファーにで座るアルシュと、隣にルシュルが傍にいてくれる。

 ルシェルが、アルファスにお辞儀してくれる。

 アルファスもお辞儀で返して、アルシュの傍に来ると、アルシュの顔に元気がない。


 アルファスは戸惑いつつ

「アルシュ…ちょっと話したい事がある」


 アルシュは顔を向け「何?」と…


 アルファスが空いている右に座り

「お前が、先の戦いで残した百キロ級のロゼッタストーンの大地。あれについての事なんだが…ヴィクティアと話して、財団を立てて運用しようと思う」


 アルシュがアルファスを見つめて

「そう。任せる」

 反応が弱い。


 アルファスが

「あれ程の資源だ。我が帝国が70年も食える程で、更に中心部には、超レア金属体、メタトロンがあるらしく。資源的価値は、まだまだ上がるそうだ」


 アルシュは淡々と「そう」とだけ。

 アルファスは左にいるルシェルを見ると、ルシェルは首を横に振る。

 こんな状態です…と。


 アルシュが

「同じくやったインドラさんやヴァルハラさんの方も、同じなの?」


 アルファスは肯き

「ああ…属している国で、活用するらしい」


 アルシュが

「ねぇ。敗戦したルクセオン共和国とその国々はどうなるの?」


 アルファスが

「敗戦の決まりで、戦勝国が賠償を請求できる」


 アルシュは

「じゃあ、もっと苦しくなるの?」


 アルファスが戸惑い気味に

「ああ…難民が発生するかもしれん。そうなれば、もっと国は荒廃するだろう」


 アルシュはそれを聞いて落ち込む。

「そうか、国が潰れる」


 アルファスが

「非常に不安定な地域が多発してテロが頻発するかもしれん。まあ、賠償が軽めでも、今回の痛手から復興するには…長い年月が…」


 アルシュは内心で

 そうか…国々が不安定になるんだ。混沌して…ヒドくなって…復興するに時間が、いや…資金も…ん! 資金!


 アルシュがアルファスを見つめて

「父さん、ぼくが残した百キロ級のドッラークレスの残骸ってけっこうな価値があるんだよね」


 急に反応が良くなった息子に戸惑うアルファスが

「ああ…そうだ。我らの帝国が70年の賄える…」


 アルシュの瞳が輝く

 九億の人口が70年も賄える資源! 資産!

「父さん! こういう事、出来ない!」

と、アルシュは父親を掴んだ。


 アルシュの案を聞いたアルファスは驚くも、直ぐに、それをジェネシス帝国や七大連合国に伝えた。無論、反対する者もいたが…最大の功績者であるインドラやヴァルハラは、大いに同意して、それに根回しが上手いラエリオンとフレアも手伝って、僅かな期間で可能となった。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 アルシュの案が発動されて一週間、ルクセオン共和国のとある一軒家では、とある家族が悲しみに暮れていた。

 小さな子供が3人もいて、母親と祖母の五人だけ。

 前までは、軍に祖母と母親の夫達、祖父と旦那が務めて、暮らしていけたが…今回の敗戦で、一挙に生活が苦しくなった。

 軍属に務めた者で戦死をした者の遺族には、遺族年金が入る事になっているが。今回の敗戦で、それは配給されない。この後、敗戦国に待っているのは、国家組織解体による再編成だ。

 そうなれば、軍属の功績も全て抹消。なんの生活のつてもないのだ。

 今回の戦争には十万人近い人員が投入されている。

 このような不幸になる家族が大多数、存在している。

 これが戦争によって起こる悲劇だ。

 この傷跡は、後々まで響いて、大きな悲劇を生み出す種になる…筈だった。


 その悲劇の家族の一軒家に、ノックがされる。

「はい…」と妻が扉を開けると、そこには青年がいた。

「どうも…」


 妻が「どちらさまでしょうか?」


 青年が名刺を取り出し

「リアン財団の者です」


 妻が受け取り

「なんのご用でしょう?」

 全く憶えがない。


「少しお邪魔しても…」

と、リアン財団の青年が入る。


 祖母と妻を前にするテーブルで、五枚の金貨通帳をアタッシュケースから出して置く。

「これは…」と祖母が戸惑っていると、リアン財団の青年が


「今回の戦争は、両国の悲しい行き違いによってもたらされた事です。これ以上、悲劇を広めない為に、アルシュ様、インドラ様、ヴァルハラ様のお三方が、この戦争によって亡くなった方の遺族へ、特別な補助金を配布する事を始めました」


 祖母と妻は驚きを見せる。

 青年がにこやかに

「この金貨通帳には、毎月金貨15枚が振り込まれます。奥様達や、お子様達にです」


 妻が驚き

「そんな…信じられない」


 祖母が

「どこからそのお金が…」


 青年は複雑な顔で

「この資金は、アルシュ様、インドラ様、ヴァルハラ様が、アナタ方の部隊を…対処した時に生じた力が、莫大なロゼッタストーンになり、それを元手にしています」


 妻が

「そんな…良いんですか?」


 青年が肯き

「良いんです。この発案をしたのは、アルシュ様です。先程も申した通り、今回の戦争は両国の行き違いによる悲劇によってもたらされた事。ならば、その悲劇を止める。これはアナタ方が…貰うべき亡き方達の遺産でもあるのです」

 青年は、五つの家族分の金貨通帳をさし向け

「さあ、手にしてください」


 妻と祖母が、子供達三人分まである金貨通帳を手にして、涙が溢れた。



 アルシュ達がやった事、それは前代未聞の敗戦国への復興だった。

 戦争で亡くなった兵士達の遺族に、特別な補助金の金貨通帳を配布。更に医療や住居の支援もした。


 アルシュは、この戦争で何も得ていない。だが、それでいいと本人は思っていた。

 悲劇の行き違いによって戦争は起こる。

 なら、それを防ぐのが、次の戦争をおこなさい方法だ…として。


 アルシュの発動した救済の事実は、世界中に広まり。

 そして…アルシュがとある天啓を受けた話も広まった。

 アルシュは、天臨丞王の再来であると。

 世界を救世する王の再臨であると…。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

次話もよろしくお願いします。

ありがとうございます。

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