アルシュの絶望
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ワールストリアで、最悪の事態が進行していた。
ヴィクタリア帝国の皇帝城では、皇帝アルファスが厳しい顔をしていた。
「それは…真か…」
アルファスの言葉が重い。
目の前には、ヴィクタリア帝国とフランディオ王国の南にあるルクセオン共和国の間諜を終えた士官が跪いていた。
「はい、皇帝陛下…ルクセオン共和国、北部、我らヴィクタリア帝国とフランディオ王国の堺にあります。 ルクセリオン共和国の北部基地達に、膨大な数の…
キングス級、ゴーレムの軍団が集結しています」
アルファスの隣、皇帝妃の席に座る、ヴィクティアが士官に
「その数は…?」
士官は青ざめた顔で
「優に、十万は超えています」
なんだと! ふざけるな! 我らが保有する一万機の十倍だと!
周囲にいる貴族や、政治、軍関係者がざわめく。
アルファスは慎重な姿勢で
「フランディオ王国は…」
士官が恐ろしげな顔で
「今、話し合いが…」
そこへ「どけーーーーー」とフランディオ王国の名代、エドワードが来た。
「アルファス皇帝陛下…緊急の訪問、お許しください」
「構わん。それで、エドワード王子よ。フランディオ王国は…どう…」
エドワードは青ざめた顔で
「我ら、フランディオには、キングス級は、五千機程度しかありません」
アルファスが額を抱えた。
そう、戦力差は彼我の差だった。
ヴィクティアが
「どこから、そのような大規模な戦力がもたらされた!」
エドワードが睨むような顔で
「ライアー・ラーテップです」
周囲の全てが沈黙した。
ヴィクタリア帝国を悲劇に落とした男の仕業に、周囲が絶望する。
アルファスが王座から立ち上がり
「今すぐ、ルクセオン共和国と、対話する!」
エドワードが
「わたくしの父が真っ先に向かいました」
アルファスが
「なら、私も!」
「なりません!」
エドワードが叫び。
エドワードが悔しくて涙しそうな顔で
「我が父、フランディオ王は、ルクセオン共和国の軍団と、ライアーの私兵に捕まり、人質に…」
アルファスが、王座を殴った。
「クソ…」
怒るアルファスに、ヴィクティアが席から立ち上がって、その肩に手を置き、落ち着けようとする。
ヴィクティアが
「アナタ、ジェネシス帝国と七大連合国に協力を…」
アルファスは、噛み締めて肯き
「直ぐに、ジェネシス帝国と七大連合国に」
そこへジェネシス帝国のホワイトジェネラルのラエリオン卿が来た。
「ヴィクタリア帝国皇帝陛下、突然の訪問、お許しください」
ヴィクティアが
「ああ…良かった。丁度…そちらへ」
ラエリオン卿は鋭い顔を向け
「こちらの現状は把握しています。そして、申し訳ありませんが…。助力は…」
アルファスが驚愕を見せ
「どういう事だ? 何があった?」
ラエリオン卿が苦しそうな顔で
「我ら、ジェネシス帝国の北にあります。中華南共和国が、五万機ものキングス級ゴーレムを持って、宣戦布告しました」
ヴィクティアは驚愕した顔を見せる。
毅然とした皇帝の正妃が理解出来ないと。
そこへ、更に七大連合国を纏めるミッドガルの一人、フレアが来た。
「ご機嫌…麗しくありませんね。突然の訪問をお許しください。
現在、七大連合国の南にある二国から、七大連合国へ宣戦布告されました。
その二国が保有するキングス級ゴーレムの数は、八万機です」
スッとヴィクティアは驚愕のあまり、席に倒れるように座った。
「そんなバカな…キングス級ですよ。全長が二十メートルの…巨大な動く山とさえ言われるゴーレムが…」
そう、キングス級ゴーレムを作るには膨大な資材が必要だ。
キングス級ゴーレム、五機で軽い駆逐艦クラスの飛翔戦艦が製造出来る。
そんなモノを、万単位で持つなんて、国費が枯渇してしまう。
ラエリオン卿が
「アルファス皇帝陛下。今回の事は、完全にライアー・ラーテップなる者が裏で糸を引いています」
アルファスが、苦しい顔をして
「この場で、戦線における計算を行う」
士官が近付き
「ですが…まずは…外交を…」
アルファスが
「どこに! 外交をする隙があるんだーーーーー」
アルファスは怒声を荒げる。
フレアが額を掻き上げ
「ライアー・ラーテップは、世界大戦を始めるつもりですよ」
重い絶望感が、王座を包み込んだ。
◇◆◇◆◇◆◇
アルシュは、ヴィクティアの城で魔導端末を見ながら、世界の情勢を見ていた。
となりには、アルテナとルシェルがいる。
三人は、アルテナの部屋にいる。
アルテナとルシェルは、俯き加減で不安な顔をしている。
アルシュは、必死にワールストリアの分かる限りの情勢を集めていると、部屋のドアがノックされ
「アタシだよ」
ディリアだ。
ドアを開けて、中に入ったディリアが
「逃げるよ。アルシュ」
ディリアは、アルシュ達がいるベッドに近付き
「さあ、アルシュ、アルテナ、ルシェル。行くよ」
アルテナが
「どうして、逃げるの?」
ディリアが苦しい顔をして
「キングス級ゴーレム十万機の攻撃なんて、大地が変わっちまう。
ヴィクタリア帝国とフランディオ王国の、二国を合わせても。
同じ階級のゴーレムは二万機、あるかないかだ」
ルシェルが
「じゃあ、この国は…ヴィクタリア帝国は無くなるの?」
ディリアは答えない。
そして、アルテナとルシェルの手を取って、黙って引っ張る。
「イヤーーーーーーー」
アルテナは叫び
「行きたくない! ここが私の家なの!」
「私もアルテナと同じよ!」
ルシェルも叫ぶ。
それを背にするアルシュは親指の爪を噛んで、苦痛の顔をする。
ヴィクタリア帝国だけではない。
七大連合国も、ジェネシス帝国も、同じ状況に置かれている。
「どうする。どうする。どうする…」
呟くアルシュに、ディリアが
「アルシュ! 逃げるんだよ!」
アルシュが、ディリアを見て
「何処に逃げるんだよ」
ディリアは、鋭い顔で
「ワールストリアの東、ジェネシス帝国の北東にある日光国は、中立を保っている。
その国に一時的に逃げるんだよ」
アルシュが
「逃げた後、どうなるの? いつ帰ってくるんだよ」
ディリアがアルシュの腕を掴み
「ここにいても、アンタは足手まといだ!」
アルシュは無理矢理にその手を振りほどいた。
「ちょっと考えさせてくれよ」
ディリアが再び両肩を掴み
「無駄だよ! この状況、世界大戦が始まる。二百年前にあったように…世界中で戦争が始まる」
アルシュの脳裏に、ミスルだった時の記憶が過ぎる。
その記憶の知識には、世界を戦争塗れにする方法があった。
それは最もシンプルで簡単な事、困窮している国に、兵器を投入するればいい。
その国は、自国の困窮を解消する為に、他国へ侵略するだろう。
人は、獣になる。自らの命が関わるなら、醜悪な化け物に変貌する。
それを止めるには、その兵器達を上回る力で、押さえるしかない。
核の抑止力のように…。
アルシュは背筋が凍り付く。
ある、圧倒的で突き抜ける程の存在が! それも、三つだ。
「ディリア、ぼくを父さんがいる皇帝城へ連れって…」
アルシュの顔が絶望に染まって凍っていた。
ディリアは驚愕を向け
「何をするつもりなんだ…アルシュ?」
「もう…これしかない…」
と、アルシュは諦観の言葉を紡いだ。
◇◆◇◆◇◆◇
ディリアはアルシュを、アルファスのいる王座に連れて行き、アルシュが考えた計画を口にした。
父親のアルファスは呆然として、ラエリオン卿は悔しさで震える。
フレアは諦めた顔をする。
エドワードが
「本当に、この子が言っている事が可能なんですか?」
アルファスが、アルシュの元へ来て、その肩に手を置き跪いて
「良いんだぞ。そこまで、お前が背負う必要なんてないんだぞ…」
アルシュは悲しげな笑みで
「父さん、これしかない。ぼくは…アルテナのナイトだ。
アルテナを守るよ。それに、父さんや母さんにルシェル達を悲しい目になんて合わせられない」
アルファスは打ちひしがれて、アルシュを抱き締めた。
「こんな不甲斐ない父で、ごめんよ…アルシュ」
「父さん、いいんだよ」
と、アルシュも父を抱き締めた。
アルシュはラエリオン卿に
「お願いします」
ラエリオン卿は拳を固く握りしめ
「分かった。だが…君だけには背負わさないからな」
アルシュはフレアに
「ヴァルハラさんに…」
フレアは肯き
「アイツも、了承するだろう」
こうして、アルシュの世界大戦勃発を防ぐ作戦が始まった。
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