ライアーとアルシュ
次話を読んでいただきありがとうございます。
よろしくお願いします。
アルシュとルシェルの何時もの日、それは…
オラ、アルシュ。隣には許嫁の女の子が寝ているぞ。
決してやましい事なんてやってないぞ!
アルシュは朝日が部屋に入り込み、ベッドから起きると、隣にはルシェルが寝ている。
昨日、お泊まりに来た。
アルシュが、ルシェルの肩を揺すり
「ルシェル、朝だよ」
ルシェルが目を擦って起きると
「おはよう、アルシュ…」
「さあ、朝食に行こう…」
と、アルシュが呼び掛けると、ルシェルが目を閉じて顔を向ける。
おはようのキスを欲するも、アルシュは
いや…朝は、寝ている間の口臭が酷いから…。
でも…と思いつつアルシュは、ルシェルの頬のキスをした。
「んん」とルシェルは不満そうだが…
「さあ、行こう」とアルシュがベッドから出る。
「待って!」とルシェルが続こうとすると、アルシュが立ち止まり
ルシェルを見つめる。
「どうしたの?」
と、ルシェルは尋ねる。
何気なく、アルシュはルシェルに手を差し出す。
ルシェルが嬉しそうに微笑み
「ありがとう…」
ルシュルはアルシュと手を繋ぐ。
そんな穏やかで優しげなルシェルの笑顔に、アルシュは驚く。
こんな顔もするんだ…。
「行こう…」とアルシュはルシェルを連れて行く。
部屋のドアを開けて、キッチンへ向かうと女中さん達が食事を用意していた。
何時ものように、アルシュと、その隣にルシェルが座る。
アルシュは不意に、何時もと違う事に気付く。
自分達より先に、祖父のシドリアと、父親のアルファスが来ているなら、いる筈が…いない。
女中にアルシュが
「ねぇ…父さんとお爺ちゃんは?」
女中達がハッとして
「ああ…少し、その…急ぎの用件があるとして、お二人で…出掛けましたよ」
アルシュは訝しい顔をする。
今までそんな事あった記憶がない。
偶々、その日になったのか?
そんな疑問を感じていると、母親のファリティアが来て
「おはよう、アルシュ、ルシェルちゃん」
ルシェルが
「おはようございます」
と、挨拶をする。
アルシュが
「おはよう。母さん…父さんとお爺ちゃんは?」
ファリティアが戸惑いを見せたが隠すように微笑み
「ちょっとした急な用事で、二人して出て行ったわよ」
アルシュが鋭い顔をして
「二人が関係する用事ってなに?」
ファリティアは微笑み
「本当に大した事じゃあないから」
アルシュは首を傾げつつ「分かった」と答えた。
ファリティアは苦い顔をする。息子の鋭い所が今は、欲しくない。
朝食を済まして、アルシュとルシェルは、学校へ行く。
教科書とか荷物なんて必要ない。
この世界の教科書とノートは、魔導のネットワークで出来たタブレット端末だ。
学校にいって端末に触れると、個人の魔導波紋を認証として、端末のホストにあるシステムからダウンロードされる。
アルシュとルシェルは、学校は一緒だが、クラスが違うので、学校で別れる。
アルシュが学校に来て、机にある端末を触ると、クラスメイトの一人が
「また、女の子と一緒に登校か?」
と、からかってくるが、アルシュは右手の親指を立て
「羨ましいか!」
と、どや顔をする。
からかおうとしたクラスメイトは、思うような反応でないので
「ああ…うん」
と、告げて離れた。
そこへノルンとカタリナが来て
「おっす、アルシュ!」
とノルン。
「おはよう、アルシュ!」
とカタリナ。
ノルンが
「また、ルシェルと登校か?」
と、悪戯な顔を聞く。
「ああ…」とアルシュは頷く。
カタリナが
「変な事してないよなぁ…」
アルシュが右の眉間を渋め
「変な事になって欲しいのか?」
何時だって男女の色恋の話題は尽きない。
ノルンが
「何処までいったんだよ?」
アルシュは淡々と
「キスは当たり前だ」
ノルンが驚きの顔をする。
カタリナは瞬きをする。
小学生くらいで、キスまでいく恋人関係は、衝撃だ。
ノルンが子供らしい考えで
「キスすると、子供が出来ちゃうぞ!」
まあ、まだ…性教育の年齢ではない。来年の中等部になった場合は、教わる。
アルシュは平然と淡々に
「出来てもいいかもなぁ…。育てる自信はある」
まあ、十二歳の子供で、中身は三十代オーバーのおっさんが入っている。実年齢は四十代後半、終わりだろう。そんな外見は子供、中身は大人のアルシュには、何の驚愕でもない。
カタリナが、鋭い視線で
「絶対に、ルシェルに変な事をするなよ!」
再度の釘を刺す。
アルシュは肯き
「分かってる。その辺りはちゃんとしているから…」
何とか二人を落ち着けて、授業が始まる。
端末による個別学習で、教員がそれを補佐する。
昼前、11時から外へ自分の持ち精霊の訓練が始まる。
グランドの真ん中でアルシュが
「じゃあ、発動させるから、ノルン…カタリナ。よろしく」
「はいよーー」
と、ノルンが答える。
アルシュは意識を集中させてレッドリーレスを発動させる。
その余波が、周囲に強い波動となって広がる。
ギリギリ、質量化する手前で、オーラ状態のレッドリーレスを保つ。
その遠く、一望出来る子供達と教師の隣に、ノルンとカタリナが、右手の人差し指にアルシュの力と繋がるブラードダイヤの指輪が嵌められ、二人はアルシュの力が予定以上にならないように、その指輪から力を受け取り、安全弁のようにしている。
なんとか、質量化前で止まり数分の維持の練習が続く。
アルシュのレッドリーレスの力は、学校でも知れ渡っているので、グランドの真ん中で強風のような余波が学校を叩いても誰も動じない。
ルシェルだけが「大丈夫かなぁ…」と心配げに見てくれる。
お昼が終わり、昼休み。
アルシュはルシェルと一緒に図書館に行く。
二人して、面白い本を探す。
学校の図書館は大きく、色んな本がある。
二人して本を見ているアルシュとルシェル。
他の生徒もいる図書館で、図書館を管理する教員が、出入り口の案内所で書類の整理をしていると、大きな影が通り過ぎた。
「え…」と教員が顔を上げた次に、全身を外套で包み、顔に仮面を被る人物が通り過ぎる。
「ちょっと、待ってください」
と、その人物に呼び掛けるも、その仮面の人物は無視して進む。
「待ってください」
と、教員が前に出て止める。
仮面の人物は、教員を見下ろす。
「アナタは…一体…」
「どけ」と仮面の人物が教員を退けるも、教員が精霊を出す。風の大鷲が仮面の人物に向かうも、触れる寸前に、仮面の人物の背面から出てた大きな機械の腕に弾かれ、教員もその腕が振るった余波を受け後ろへ飛ぶ。
壁に衝突した教員は、懐にある非常サイレンボタンにスイッチを押す。
ビー---------
それは不審者が入ったという知らせだ。
一斉に教員は、信号が入った図書館へ向かう者と、学校にいる生徒の避難をする者を別れた。
アルシュとルシェルは、非常サイレンを図書館で聞いて、出入り口へ向かう。
その出入り口のデスクに教員がいるのを知っているからだ。
だが、そこへ向かおうとする前に、あの仮面の男が現れる。
アルシュは直ぐに、この非常サイレンがこの不審人物の所為と分かり、ルシェルを後ろに隠して守る。
仮面の人物がアルシュを見て
「アルシュ・メギドス・メルカバーだな」
アルシュは自分の名前を言われた事に驚きつつも鋭い顔で
「おじさん…だれ?」
仮面の人物は名を告げる。
「私の名は、ライアー・ラーテップ」
「ええ…」とアルシュは困惑するも、直ぐに記憶から、十数年前にヴィクタリア帝国で起こった皇位継承の内戦の原因を作った魔導士である事を思い出し
「お前…継承内戦を起こした」
ライアーの仮面の奥にある目が不快に歪み
「あの内戦は、私の所為ではない。勝手にやっただけだ」
アルシュは警戒でライアーを睨み
「何の用なの?」
ライアーは淡々と
「率直に言う。私と来ないか? お前の持っているドッラークレスの力を有効に使えるぞ」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。
ありがとうございます。




