エメリアの兄
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フランディオ王国の王女エメリアの兄、エドワードの…
その人物は、エメリアの兄だった。
ヴィクタリア帝国の隣国、フランディオ王国の王子。
エドワード・フェラーリオ・フランディオ。二十四歳である。
エメリアとは、異母兄姉で、十二も年上の金髪の兄。
長男として将来は…フランディオ王としての道が決まっていた筈だったが…。
正妃の娘としてエメリアが生まれてからは…それが揺らぐ。
エドワードの母は、継室で…貴族でもない普通の出自だ。
出会いとは不思議なモノだ。
偶々、将来のフランディオ王となる男性の許嫁だった正妃エリティアが花嫁修業として通っていた料理教室の助手を、継室となるアメリアがしていた。
そこへ、無論、将来…フランディオ王となるディリオス王子も度々、脚を運んでいた。
そんなおり…本当に偶々だ、何となく話をディリオスとアメリアが交わして、ちょっとした知り合い程度の感覚だった。
だが…アメリアが真摯に話を聞いてくれる姿に、ディリオスは好感を抱いて、知らない内に、色んな愚痴まで喋っていた。
それをアメリアは何処にも漏らさずに、聞いて受け止めてくれた。
そして…ディリオスとエリティアの婚姻が近付くにしたがって、ディリオスの中でアメリアの存在が大きくなってしまった。
無論、エリティアも愛しているが、同じくアメリアも愛してしまった。
なんと、身勝手な男だ…とディリオスは自分を恥じて、全てを捨てようとした。
エリティアを選べば、アメリアの愛する気持ちを捨てる事になる。
アメリアを選べば、国も何もかも…幼き頃より共にあって将来を誓ったエリティアも捨てる事になる。
だから…ディリオスは、選んだ。
どちらも手に出来ないなら、全てを捨てるしかない。
突如の次期国王であるディリオスの王位放棄と、ディリオスはフランディオ王国を捨て隣国のヴィクタリア帝国へ行ってしまった。
暮らせるだけの路銀を持ち、ヴィクタリア帝国でたった一人の暮らし始めたディリオス。
ディリオスは、自分を死んだようにして、偽名を使って、フランディオとヴィクタリア帝国との堺にある街の露店で住み込みで働き続けた。
ディリオスには後悔はなかった。
二人を幸せに出来ないなら、自分なんぞ、死んだ方がいい…と。
フランディオ王国は、荒れた。
なぜ、次期王位継承者が国を捨てたのか? その理由探しに奔走し、ディリオスを戻そうと躍起になった。
そんなおり、当時のヴィクタリア帝国の皇位継承から外れていたアルファスが、ディリオスの前に来て、その理由を尋ねた。
始めはディリオスは黙っていたが…度々、アルファスが尋ねて料理を振る舞ったり、話をしている内に、口にしてくれた。
それをアルファスは、エリティアとアメリアに伝えた。
二人はショックを受けた。
そして、それ程までに思いを貫いている事にフランディオ王家は、重く受け止め
エリティアを正妃、アメリアを第二妃…継室とするから戻るようにディリオスに伝えた。
ディリオスはそんな不義は許されないとして、譲らなかった。
実は、フランディオ王国も、ヴィクタリア帝国と同じ龍樹の大地の豊穣をもたらす存在があり、それを扱える者が王位継承であるとされてきた。
もちろん、ディリオス以外にも弟達がいたが…弟達は、ディリオスのように龍樹を発動出来る程の力は持っていなかった。
全く王位が定まらないフランディオ王国、エリティアとアメリアが、ディリオスの元へ行き、必死の説得が始まる。
ディリオスは、始めはガンとして譲らなかったが…三人して必ず幸せになると、エリティアとアメリアは約束して、やっと…ディリオスは戻る決意をして、フランディオ王国の王位を継承した。
そして…先にアメリアから息子のエドワードが産まれた。
エドワードは、父親ディリオスと同じ位の力があるフランディオ王家のドラゴニックフォースを受け継いでいた。
だから、そのまま長男エドワードが王位を継承する予定だったが…
エリティアが十二年後にエメリアを出産し、そのエメリアもエドワードと同レベルのドラゴニックフォースを受け継いでいた。
国は二つに割れた。エドワードか? エメリアか?
国の派閥が、それを巡って争いが起ころうしていたが…。
現王、ディリオスが次の王をエメリアに指名した。
エドワードを押していた派閥から反発が上がったが…。
正室である子を優先させるのが、道理である!
と、現王ディリオスが一蹴して覆る事はなかった。
エドワードが、16になった時、エドワードを押す一派の一人がエメリアの暗殺をしようとした。
それを防いだのはエドワードだった。
その暗殺の事件の渦中、エドワードは必死に妹であるエメリアを守り、暗殺の魔の手を払いのけ、エメリア暗殺を企てた一派は捕縛された。
その時、エドワードは思った。
なんて、クソくだらない連中なんだ!
怒りに打ち震えた。
そして、エドワードが18の時、何度目かのフランディオ王国の龍樹の契約の儀式の時、エドワードを押す者達が、エドワードに立つように迫った。
貴方こそ、王に相応しい!と…。
エドワードは「分かった」として肯き、父ディリオスが龍樹での契約の儀式の時に、エドワードを押す者達が、龍樹の宮殿を押さえて、エドワードに龍樹の契約をさせようとした。
つまり、王位継承である。
父親は厳しい顔で、エドワードの龍樹契約を見つめて、エドワード派は、エドワードが龍樹の契約をすると、歓喜に震えた。
それに同席していた正妃エリティアと母アメリアの二人は不安な顔をしていた。
四歳の妹のエメリアは幼く何も分かっていなかった。
そして、龍樹の前でエドワードは宣言する。
「我は、フランディオ王国の王であるエドワードである。全軍に告げる!
この龍樹の宮殿を占拠する愚か者を全て捕らえよーーーーーーー」
エドワードを押す一派達は呆然となる。
それに、従っていなかったフランディオ軍が勢いづき、一斉にエドワードを押す一派達を捕縛する。
捕縛される者達の前で、エドワードは宣言する。
「今日をもって、王位を私は退位する! 次の王は! 妹エメリアである!」
そう、エドワードは始めから、自分を押す一派を潰す為に、行動していた。
呆然とするエドワード派達。
そして、その中でもエドワードと同年輩の少年が、エメリアを殺そうと銃剣で斬り掛かるも、それをエドワードは殴り飛ばして、エメリアを抱えて言い放った。
「キサマ、クソ共に! オレの妹を…家族を殺させてなるものかーーーーー」
激高の雄叫びを放った。
エドワードは「父さん!」と父親に銃剣を渡して、父親のディリオスはフッと笑み。
エメリアと妻達、エリティア、アメリアを、エドワードと共に守る為に戦う。
ディリオスは息子と一緒に戦いながら
「全く、その頑固な所…誰に似たのやら…」
エドワードは笑い
「父さんだろう」
こうして、エドワード王子強制王位継承事件は、反乱した一派達を捕縛して終わった。
結局の所、エドワードの王位継承は無かった事になり、何時も通りの父親ディリオスの王位が続き、そして、兄エドワード公認で、エメリアが次期王となった。
これに貴族の者達は良い顔をしなかったが…多くの国民達は、エドワード王子を国が崩壊する危機を救った英雄であると讃え、フランディオの裏を支える影の王として名声を上げた。
当のエドワードは
「影の王。アホらしい。オレは家族を守りたかっただけだ」
そして、現在、エドワードは、フランディオ王の名代として、国々を回る特別大使という役目を真っ当していた。
エドワードが、ヴィクタリア帝国での友人、ノアドとユースの元へ遊びに来る。
「おーーーい!」
その声にノアドとユースは反応して
「いらっしゃい、エドワード兄さん」
ノアドは握手して
「ようこそ、エドワード兄」
とユースも握手する。
エドワードは後ろから土産が入った大きな箱を出して
「おもろい食べモノと、特産品を持って来たぞ!」
ヴィクタリア帝国、陸軍大将ダルシュンの屋敷で、エドワードの土産の披露が始まり、そこにはルシェルもいて
「わあああ。これ…かわいい」
白い兎の人形があった。
エドワードがそれを手にして
「ここを押すと、魔法の力で動くぞ」
と、白い兎人形の首にある宝石を触ると、生きているように兎人形が跳ね動く。
騒いでいるそこに二階からアルシュが来る。
アルシュは、エドワードに近付き
「どうも…初めまして…」
と、頭を下げる。
エドワードが怪しい笑みをして
「ノアドから聞いている。ガキらしくないガキだってなぁ!」
アルシュは顔を引き攣らせ
「まあ…大方、合っているかも」
エドワードが懐から
「ガキらしくないガキには、これが良いかと思ってな」
一冊の厚い本を取り出す。
「ほれ」とアルシュに渡す。
「何です?」とアルシュは受け取ると、ハッとする。
それはこのワールストリアで発生する、巨大な存在ウェフォルに関する分類の書籍である。
正直、ウェフォルには分類なんて必要ない。倒して資源にするだけなので、意味は無い。
そんな意味のない事を突き詰めた者がいて、それを分析、分類として分けた本が昔に出ていた。
アルシュは、それを欲しくて探していた。
「マジで! これ…」
と、アルシュは驚きでエドワードを見る。
エドワードがニヤニヤと笑いながら
「ルシェルに感謝しろよ。そういう本を探しているって聞いたからなぁ」
アルシュは、ルシェルを見てテンションが上がり
「ありがとうーーーー ルシェルーーーー」
ルシェルを思いっきり抱き締めてしまった。
ルシェルはポカンとするも、頬を赤くして
「う、うん…アルシュが喜んでくれて嬉しいわ…」
ニンマリと笑う。
その夜、エドワードは暖炉の前で、ノアドとユースに色んな国々の情勢の話を詳しくする。
実はそれにアルシュも同席する。
エドワードの口からは、その国の民がどんな事に興味があるとか、その国の権力者の動向がこうとか…細かく話してくれる。
その話は、どれも洞察が鋭く、魔導ネットワークのニュースでは見えない、現地の国民の声があった。
それを記憶できて分析出来るエドワードの能力に、アルシュは歓心して思った。
この人は、もの凄く頭がいい。総合的に色々と取り込んで正しい事を見つけられる能力がある。
先見の明がある人だ…。
だから、ノアドもユースもエドワードに尊敬の眼差しを向けている。
そしてアルシュは、ノアドとユースからエドワードの、エドワード王子強制王位継承事件の話を聞いて、更にエドワードの凄さを知った。
普通なら、絶対に権力を握ろうと人は躍起になるが…エドワードはそれに惑わされる事なく、守るべき者を守った。
やっぱり、凄い人は、どこにでもいるんだなぁ…とアルシュは痛感した。
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