ヴィクティアの選択
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ヴィクティアの質問に、アルシュを監視するレッドリーレスが辛辣な言葉を浴びせる。
オラ、アルシュ、オラの中にあるシステム、レッドリーレスにヴィクティア様が色々と聞いたぞ。結構、ショックな回答も多かったぞ。
アルシュは「はぁ…」と重いため息を漏らしていた。
その理由は、レッドリーレスとヴィクティアとの話し合いである。
とある日、ヴィクティアがアルシュを監視するシステムだったレッドリーレスに質問する。
「まずは…貴方が、監視していた者達の事ですが…。どのような人生を歩んだのです?」
”一言で言うなら激動だ。このドッラークレスの力は、大きく世界を変える。
故に、様々な利権や、権力争いに巻き込まれる。
美味しい蜜がある所に来るのは、人も、昆虫のアリも変わらない”
ヴィクティアが厳しい顔をして
「その結末は…」
”破滅だ。ドッラークレスの力を持つ者は、主にバランスを重んじるが…。
自分だけ美味しい思いをしようとする者が、独占、ドッラークレスの力を簒奪しようと暗躍するが。
全部、失敗して、それによりドッラークレスの保有者は死亡。
それにより、全て瓦解、崩壊して破滅した。
独占、簒奪しようとした者達は、皆、後悔と慙愧に苛まれ、中には…。
殺した保有者の死んだ場所で、自ら自害する者達がいた”
ヴィクティアが鋭い顔で
「そういう事になった原因は?」
”簡単な話だ。自分と他人との境界が分からない愚か者ばかりだった。それだけだ。
多くの人間が、大きな事を成し得た者に、自身を無理矢理に当てはめ、全く同一でないのに、同じと勘違いした。
成功者のマネをしてを、成功する事はない。
その人物だから成功しただけで、それに自分がなれる筈も無い。
愚昧、他人と自分との区別の付かない愚か者。
型に填め、思い込み、決めつける。この愚行に邁進するパターンに填まっている。
多くの権力者がその傾向と一致する。
故に、権力者が墜落するのは、世の常である。
むしろ、そのような愚か者が権力を欲する。
己の無知蒙昧、白痴の極みを隠したいコンプレックス…劣等感からくる。
それを”
「もう良いです」
と、ヴィクティアが止める。
アルシュが
「あのさあ…レッドリーレス…さん?」
”好きに呼ぶといい”
「じゃあ、レッドリーレス。ちょっと言い過ぎだよ。それじゃあ、人は聞いてくれないから」
”ここに来たドッラークレスの力の保有者達は、汝、アルシュと同じ…どこか人の甘い部分がある。
故に、そこに付け入る愚か者達が多く寄ってくる。
我は、アルシュに破滅して欲しくない。
我の創造主は、世界を良くしたいと願っている。
ドッラークレスの力の保有者は、その力の使い所を理解している。
故に、創造主の願いを叶えるが、それを欲する周囲の人々が愚かである。
人は…自ら劣化して、最後に破滅する道を選ぶ。
我に質問する。ヴィクタリア帝国、皇帝正妃ヴィクティアもそれになる可能性が高い。
故、これは金言である。
権力者は、その土地で最も、不遜で差別する愚か者が立ちやすい。
アルシュ、故に、何時も汝はこの国を見捨てる覚悟をせよ”
ヴィクティアがパンと手を叩き
「もう、結構です」
アルシュがヴィクティアに頭を下げ
「すいません。本当に申し訳ありません」
ヴィクティアが
「レッドリーレス。残念ですが…貴方の予想通りには絶対になりませんので…」
レッドリーレスは、見下すように顎を上げ
”愚者は経験から学ぶ、賢者は歴史から学ぶ。
我は、アルシュと同じ者達が辿った歴史を多く持っている。
その積み重ねた歴史が、答えを出している。
お前達は、必ず、アルシュを使って愚かな事をする。歴史が答えを出している”
ヴィクティアが鋭い顔で
「歴史は歴史、過去です。未来は幾らでも変えられる」
レッドリーレスは
”期待なぞしない”
アルシュが
「レッドリーレス、下がれ!」
レッドリーレスはアルシュに戻るが、その寸前に嘲笑に似た鼻息を出しているのをヴィクティアは見ていた。
険悪な雰囲気で、終わったヴィクティアとレッドリーレスの対話。
なんか、嫌な棘を残したようで、アルシュは考え込んでしまった。
考えたって良い案が浮かばない。
「もういいや」
ワザとアルシュは投げやりになる。
解決する糸口がない問題は、いくら考えても解決しない。
何時か、解決する方法が出てくるかもしれない。
先延ばしになるようだが…仕方ない。
そう、アルシュは割り切った。
◇◆◇◆◇◆
正妃ヴィクティアは、居城の執務室で、書類にサインをしていた。
それが終わり一人、窓の外を見る。
引っかかっているのは、レッドリーレスの言葉だ。
自分は、必ずアルシュを食い殺すと…。
質問していた時は、未来は幾らでも変わるとは言ったが…。
そんな言葉は、前の者達も言っていた筈だ。
だが…そうならなかった歴史がある。
それをレッドリーレスは知っている。
「はぁ…」とヴィクティアは溜息を漏らす。
なんて薄っぺらい言葉だったのだろう…。
そんな時、ドアがノックされる。
「お母様」
アルテナの声だ。
「入りなさい」
ヴィクティアは通す。
アルテナは両手に紅茶のセットが乗ったお盆を持ち、アリアを後ろに連れる。
「お母様、一緒に休憩の紅茶を飲みましょう」
アルテナが微笑む。
ヴィクティアは肯き
「ええ…そうしましょう。アルテナ」
ヴィクティアは、執務室のソファーでアルテナと一緒に紅茶を楽しんで休憩していると…ある事が過ぎる。
「アルテナ…アルシュの事は…どう思うの?」
アルテナは、チョット恥ずかしそうな感じで
「う…ん。まあ、仲良くやっているわ」
アルテナの後ろにいるアリアは、それを聞いて優しく微笑む。
アルシュとアルテナの関係はとても良好だ。
ヴィクティアが真剣な顔をして
「アルテナ。四百年前にあったヴィクタリア帝国の皇帝の話を知っている?」
アルテナが肯き
「うん。凄く国が大変な事になって、皇家の血筋が、兄と妹しかいなくなったって」
ヴィクティアは肯き
「そう。二人とも、あまり…強いドラゴニックフォースを受け継いでいなかった。
もし、配偶者を得れば、間違いなくドラゴニックフォースの力は弱まり、消える事は確実だった。
龍樹の力を発動できないドラゴニックフォースが無くなれば…ヴィクタリア帝国は崩壊する」
アルテナが肯き
「だから、二人はお互いに結ばれた。兄と妹で夫婦になった」
ヴィクティアはアルテナを撫で
「そう、夫婦となり子をなして、生まれた子は、その二人より強いドラゴニックフォースを持っていた。兄と妹の夫婦から多くの強いドラゴニックフォースの子供達が生まれて、ヴィクタリア帝国の皇位は安泰になった」
アルテナが
「仕方なかったって教わったよ。お母様」
ヴィクティアはアルテナを抱き締め
「ねぇ、アルテナ…アルシュの力、どう思う?」
「んん…凄いと思う。カメリアのレアドの事を聞いて信じられなかったけど…。実物を見て凄いなぁ…思った」
「そう、凄いわ。それはきっと世界を変える力。そして…多くを助ける事が出来る」
ヴィクティアは遠くを見る。
「お母様?」
アルテナはヴィクティアの腕の中で遠くを見る母親の顔を見上げる。
ヴィクティアが慎重に
「アルテナ。貴女が決めなさい。将来、アルシュと貴女が結ばれて子を成す事を」
アルテナは「え…」と驚きを漏らし、傍にいたアリアが
「正妃様…それは…どういう事で」
ヴィクティアはアルテナの肩を持ち、目を合わせて
「アルテナ、言葉の通りよ。嘗ての兄妹の皇帝夫婦のように、ドラゴニックフォースの力を強めなさい。アルシュと結ばれれば、そうなる」
「でもでも…」
アルテナは困惑する。
ヴィクティアは無謀な事を言っている自覚がある。
そんな事は、倫理的に問題があるし、社会的にも大問題である。
だが、確信があった。アルシュの力は、それさえも押さえ付けて変えてしまう力があると…。
「アルテナ、アルシュの力、ドッラークレスの力は、世界を震撼させるでしょう。
だからこそ、ヴィクタリア帝国の新たな力として取り込む必要がある。
それは、アルテナにとっても、このヴィクタリア帝国にとっても、世界にとっても重要な事なのです」
「でもでも…でも」とアルテナは混乱している。
アリアが「正妃様、それは無謀です」と正直に告げる。
ヴィクティアが肯き
「分かっています。アルテナ…私の話を行うか、否かは、貴女が決めなさい。
もし、その時が来たら、貴女の結論で決めなさい。
それぐらいまでは、世界は待ってくれるでしょう」
アルテナはポーとしてしまう。
ヴィクティアは、これがアルシュにとっても良き布石である事を願うしかない。
◇◆◇◆◇◆
翌日、アルシュはアルテナの家、正妃の城に来て
「アルテナーーーー」
アルテナを呼ぶ。
玄関広間の二階からアルテナが来る。
「いらっしゃい」
アルシュが平然と
「ノルンとカタリナの屋敷に、前に買いにいったゴーレムのパーツが届いたんだ。
組み立てるの面白そうだから、行こうよ」
と、何時ものようにアルテナに手をさし向ける。
何時もなら、面白そう!と手を握る筈が…アルテナの顔が真っ赤になって俯く。
「んん?」とアルシュはその変化に気付く
「どうしたの?」
アルテナの脳裏に、母親から言われた、将来…アルシュと結ばれる事を考えなさいと、言われた事を思い出して真っ赤になった。
アルシュは事情が分からず首を傾げていると、手を下げ
「何か、事情があって来られない?」
アルテナは首を横に振り
「んん…大丈夫、行くわ。面白そう」
と、何時ものようにアルシュの手を握った。
耳までアルテナは真っ赤になった。
「じゃあ、行くよ」
と、アルシュはアルテナを引っ張って行く。
引っ張るアルシュをアルテナは惚けた顔で見つめてしまう。
脳裏に、将来、アルシュと結ばれる事を想像すると…爆発しそうだった。
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