帰路のアルシュ
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ルシェルとの許嫁、問題山積みのアルシュ。そんな時…またしても…
オラ、アルシュ…。ルシェルと許嫁となったレアドの帰りの飛翔船内。
ルシェルが甲斐甲斐しくオラの世話をしてくれる。
アルシュが食堂で食べていると、隣にいるルシェルが
「はい!」
嬉しそうにアルシュに食べさせる。
アルシュは困り気味に
「ああ…いいよ。自分で食べるから…」
ルシェルは困り顔で
「許嫁のアタシがアルシュの為にしたい事が…悪い事なの…?」
アルシュは眉間を寄せ
困ったなぁ…この状況で…
二人の目の前には、アルテナ、ノアド、ユース、ノルン、カタリナが見ている。
五人はルシェルから、話は聞いた。
まさか…アルシュが、許嫁を持つなんて…
ノルンとカタリナは不思議そうに、ユースとノアドは微笑ましく、アルテナは
「ごちそうさま」
と、不機嫌に告げて何処かへ行ってしまう。
「ああ…アルテナ…」
と、アルシュが呼ぶと…。
「なに!」
と、アルテナは怒っているような顔を向ける。
アルシュは真っ青になり
「何でもないです」
それしか言えなかった。
ルシェルは、アルシュとアルテナを交互に見て
「アルシュ、はい…あーん」
と、食事の介錯をする。
アルシュは、そのままルシェルの運んでくれるスプーンを口にする。
「うん、ありがとう」
食べると、アルテナがソッポを向いて行ってしまった。
アルシュは、なんでこんな面倒な事になったんだ?と頭が痛くなった。
アルテナは、飛翔船内の部屋に来ると、ベッドに飛び込んで顔を伏せる。
「アルシュのバカ!」
アルシュは一人、展望室へ行く。
飛翔船がヴィクタリア帝国に到着するのは、二日後だ。
一泊の空飛ぶ飛翔船の帰路の旅。
アルシュは頭を掻きながら
「アルテナの誤解を解かないと…」
そうして置かないと、後でヴィクティア正妃に飛んでも無く怒られそうだから…。
アルシュが展望室から、客室へ向かっていると、ユースとノアドが来た。
「よう!」とノアドが気軽に挨拶して
「いや…お前もなかなかやるなぁ!」
ユースが
「じゃじゃ馬な妹だけど…よろしくね」
アルシュが眉間を寄せ
「いや…まだ、貰うとは決まっていませんよ。
十五年後、お互いに好きな相手が出来たら、無しですから」
ノアドが首を傾げ
「じゃあ、お前は作るつもりなのか?」
アルシュは渋い顔をする。
前世では全く、恋人がいなかった。
好きな人はいたが…告白した事なんて一度もない。チキンな野郎だった。
ノアドが
「お前みたいな理屈っぽいヤツが、恋人を作れるとは、思えない。
大方、お前は全く作る事が出来ない。
ルシェルに出来た場合は…終わり。つまりだ…ルシェルの選択で好きに出来るようにした」
ユースがニコニコと
「君は十五年もあれば、ルシェルも成長して、目が肥えて…別に目移りすると思っている。
残念、私の妹は、そういう所が純情だ。だから…君は、必ずルシェルを迎えに行く事になる」
ノアドが得意げに
「許嫁がいる女が、許嫁よりもっと好きな男が出て来て、許嫁と好きな男の板挟みになり、苦悶する。
そんな、映画や文学は沢山あるが…現実にはそんな事は起こらない。
あるかもしれないが…万分の一だ」
アルシュが鋭い顔で
「人生、どんな事が起こるか…分かりませんよ
全ては、運命を決める神がやること…神の気まぐれが起こるかもしれませんよ」
ノアドが皮肉な感じで
「いけすねぇ…ガキだ」
アルシュは二人の間を抜け
「じゃあ、ちょっと用事があるんで…」
ノアドが
「あきらめるのも、人生で大事な事だぜ」
アルシュが背中を向けたまま
「そんなの分かってますよ」
そんな事、前世の人生で散々に体験したのだから…。
だから、分かる。
人並みの幸せという事に無縁であると…。
アルシュがアルテナの部屋へ向かう。
アルシュは、アルテナの客室の前に立ち、ノックしようとした瞬間、背後に人が通過する。
アルシュの全身に鳥肌が立つ。
え…とアルシュは背後を通過した者を見る。
アルシュと同じ黒髪、黒い目、その目は深く光さえ呑み込むような深淵を誇っている。
年齢的に二十代半ば、180の身長、普通の体型。
身につけている服は、黒のロングコート。
そのコートの合間から、拳銃のような物体が見えた。
アルシュは「え…」と戸惑う。
このワールストリアには拳銃という概念がない。
魔法を放つ、銃剣という杖と剣が合体した物が主流だから。
だが、明らかにそれは、拳銃で、しかも…アメリカ映画に見るカートリッジ式タイプだ。
男が、アルテナの隣の部屋のドア前に立つ。
それをアルシュは見つめてしまう。
いや、見つめざる得ない。それ程の殺気を男は纏っているのだ。
そんな時、アルテナの部屋のドアが開く。
アルテナは、ドア前にいるアルシュに
「なに…アルシュ…」
アルシュがアルテナに
「アルテナ…部屋に入って」
男が懐に忍ばせた拳銃を取り出し、ドアの蝶番に向かって発砲した。
轟音による発砲。
アルテナは驚き、音のした方を見るが、アルシュが急いでアルテナを部屋に押し込み、自分を上に被せてアルテナを守る。
拳銃の発砲音が連続。男がドアを蹴破る。
ドアが破壊された次に、ドア向こうから白煙が噴出する。
あっという間に、ドアを抜け、通路まで広がった。
真っ白になった通路、そこから誰かが逃げる多数の足音。
拳銃の発砲音。
アルシュは守るアルテナと共に、煙がする廊下を見る。
ゴフと、血を吐いて倒れる男がアルシュとアルテナの部屋の前で倒れる。
そして、男の懐から一つの小さな宝石が転がり、それがアルテナとアルシュの間に入る。
突然の凄惨な事態にアルテナは、固まり動けない。
アルシュは、どうする?と思考を回す。
そうしていると、拳銃を発砲した男が、二人の前で死んだ男の元へ来て、男の死体を引っ繰り返して懐の上着を探る。
「チィ」と男は舌打ちして、アルテナと守るアルシュの二人を見つけた。
男の深淵さえ覗かせる黒い瞳が、二人を見る。
アルシュは、全身が粟立つ。
まるで、人の形をした何かがあると…直感が知らせる。
男がアルシュの顔を見るとフッと笑み
「ああ…」
と、告げた後、その場から歩き出した。
男が居なくなり、煙が薄くなる。
アルシュはアルテナの上から退いて
「行こう…アルテナ」
アルテナはガタガタと震えている。
目の前で起こったショックで動けない。
アルシュは「アルテナ! アルテナ!」とアルテナを揺さぶり
アルテナの焦点がアルシュに合って
「アルシュ…これって」
アルシュは、背中をアルテナに向け
「さあ、ここから逃げよう」
アルテナはアルシュに負ぶさる。
アルシュがアルテナを背負って動こうとした次に、足下に転がった小さな宝石があった。
「なんだコレ…」
と、アルシュはそれを拾いポケットにしまい、アルテナを背負ってその場から脱出する。
何が起こったんだ?
アルシュは、アルテナを背負って走りながら考えていた。
アルシュ達がいた部屋で、発砲を起こした者の名は
ヴァルハラ・ヴォルスング
アルシュやインドラ、エネシスと同じ超位存在を宿す者だ。
ヴァルハラは逃げたターゲットを追って、特注の拳銃を放つ。
その弾丸は、自分のドッラークレスの力が込められた特注で、狙った獲物を確実に仕留める。
弾丸の餌食になるターゲット、背後から弾丸を受け仰け反り、その場に倒れる。
人がいる周囲から悲鳴があるが、ヴァルハラは構うことなく、ターゲットを仰向けにして袖や懐を探ると、例の回収する宝石が出て来た。
「1・2・3」
宝石と数えて確認する
「後、三つか…」
逃げたのは三人、一人は部屋の出口で仕留めて、今は大きな広間で仕留めた。
あと一人…。
突然に、飛翔船が傾く。
急速に降下しているのだ。
ヴァルハラは直ぐに、最後の一人の所在を判明させた。
この飛翔船の操舵室だ。
「バカな男だ…逃げられると思っているのか…」
ヴァルハラは、最後の男の元へ向かう。
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