アルシュとルシェル
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アルシュは自分にケガをさせたルシェルと対峙する。
オラ、アルシュ。目を覚ますと病院にいた。
確か、ルシェルの炎の大獅子の精霊にやられて、その後、レッドリーレスが発動したまでは憶えていたけど…。
アルシュは病院のベッドにいた。
右肩や背中、左脚には固定と治療効果を高めるギブスが填まっている。
通常の骨折なら、この世界では一週間で治る。
それはそれで、凄いが…。
アルシュの右肩と左脚、背骨中腹の骨折は治療に時間が掛かるらしい。
一応は、くっついて透過のレントゲン魔法で調べても問題ないように見えるが…。
可動部の接合は、複雑な負荷が掛かりやすく再度、骨折するかもで、要注意とされた。
医者通いが数ヶ月続くらしい。
二週間して、退院してメルカバーの屋敷に戻ってくると、ヴィクティアいた。
ヴィクティアがアルテナを連れてきて、退院のお祝いをしてくれた。
アルシュが微笑み
「ありがとうございます」
ヴィクティアは左額の火傷の跡を優しく撫で
「大変だったわね。心配したのよ…」
アルシュは肯き
「何時も、お見舞いに来てくれて…本当に、ありがとうございます」
ヴィクティアは微笑み
「いいのよ」
アルシュは、躊躇い気味に
「その…道場の方は…」
ヴィクティアが鋭い顔になり
「行く必要はありません」
口調は大人しいが、言葉にトゲがあった。
二日後、ノルンとカタリナと共に学校に行く。
勉強の遅れをノルンとカタリナにカバーされて、日常に戻っていく。
ただ、抜けたのが…道場通いだけ…。
アルシュは不意に…
「結構、面白かったよなぁ…」
前世の中山 ミスルの時に二十歳くらいから合気道を習っていた事があった。
実を言うと、合気道…面白かったのだ。
それと同じような系統でありつつ、空手といった柔術が混じった武術。
面倒クサいと思っていても、楽しんでいたよなぁ…。
そう、気付いた。
ノルンとカタリナと共に帰宅中、屋敷の前に一台の大きな車が止まっているのが見えた。
「誰だ?」
知らない魔導車だった。
いや、その前に、この魔導車の仕様…大型で装甲車だが一般魔導車のような流線型があるこれは、陸軍の偉い人が使う魔導車であると、本や端末で見た事があった。
アルシュが帰宅して屋敷に入ると、その人物が部下を伴って帰る途中だった。
陸軍総大将ダルシュンとその部下達だ。
母親のファリティアが挨拶をしていた。
ダルシュンが正面を向くと、アルシュを見つけ、驚きつつアルシュに近付き
「やあ…こんにちは、アルシュ君」
「こ、こんにちは…」
アルシュが戸惑いつつ挨拶をする。
ダルシュンが躊躇い気味に
「その…孫娘のルシェルが…大変な事をして、すまなかった」
頭を下げるダルシュンに、アルシュは察した。
ダルシュンは謝罪に来たのだ。
アルシュは困惑しながらも
「ああ…どうも、ありがとうございます」
ダルシュンは複雑な顔をして
「本来なら、罵倒されて当然なのを、そうして言って貰うなんて…君は、優しいなぁ…」
「はぁ…」
と、アルシュは困惑する。
流石に、やった本人ではないし、その…何というか、何とも言えない感じだ。
ダルシュンが
「君が受ける全ての治療費は私が払う。何かあったら、気軽に言ってくれ」
「ああ…はい」
アルシュは肯きつつ、ふと…
「あの…あの子は…ルシェルでしたっけ…どうしてます」
まあ、予想としては、子供だ。
ジャイアニズムを翳す女の子だ。平然としていると思っている。
ダルシュンが
「自室に引きこもって出てこない」
アルシュは内心で、青ざめる。
引きこもりになってるーーーー
予想していない答えだった。
ダルシュンは再度、謝って帰って行く。
その夜、アルシュは考える。
引きこもりに成る程、ショックだったのか?
じゃあ、なんでやったんだ?
その理由を想像するが、全く分からない。
「よし、決めた!」
それから数日後、休日のとある日に、母親ファリティアにお願いして、ルシェルのいるダルシュンの邸宅へ行く事にした。
母親ファリティアは
「どうして?」
と、聞くとアルシュは
「何か、理由があるように思えるから」
そう答え、ファリティアは戸惑うも、息子が望むなら…とダルシュンに連絡を取ってダルシュンの邸宅へ行く。
ダルシュンはそれなりの大きな資産を持つ貴族で、邸宅もご立派だった。
まあ、正妃ヴィクティアの城に比べれば、チョットは小さいが…そんなの誤差である。
アルシュは、ダルシュンに連れられ二階へ上がり、廊下を進み、アンティーク感じの大扉の前に来る。
そこがルシェルの部屋の前らしい。
ルシェルは一人、部屋で膝を抱えて泣いていた。
三つの連なる部屋は、引き出しから散乱する荷物で混乱し、偶に両親や祖父母がいない時に静かに一人で抜け出し、風呂に入ったりしたり、食事は女中が持って来て、それを食べる。トイレは…傍にあるので、誰の気配がない時に行く。
そんな生活が二週間半も続いている。
ダルシュンがノックする。
「ルー。ルーや…顔を見せてくれ…」
ダルシュンの愛称で呼ばれ、ルシェルはビクッと肩を震わせるも答えない。
ダルシュンは、肩を落として頭を振る。
アルシュが
「ぼくが呼び掛けますから」
アルシュが
「こんにちは、アルシュ・メギドス・メルカバーです」
ルシェルは、恐怖に引き攣った顔をする。
アルシュが
「ここを開けてもらっていい? 話がしたいんだ」
ルシェルは、散乱した部屋のベッドに潜り込み、ガタガタと震える。
反応無しのルシェルにアルシュは、考える。
このままでは、埒が明かない。
どうする? 強引に行っても…。
全ての事の発端は、自分がケガをさせられた事が原因。
なら、オレのペースで通せばいいか!
アルシュが鋭い視線で
「ダルシュン様…扉を壊して、ルシェルと話しても良いですよね?」
ダルシュンは戸惑いつつも、このままでは打開しないとして
「分かった。お願いする」
アルシュは、レッドリーレスを発動する。
三メータの赤き竜のオーラを纏い、ルシェルのいる部屋の大扉を破壊した。
「いやああああああ!」
ルシェルが叫ぶ。
アルシュが自分に復讐しに来たと思った。
アルシュは、レッドリーレスのまま、ルシェルを探す。
色んなモノが散乱した部屋を一つ一つ探し、そして、ルシェルがいるベッドへ来た。
ルシェルは、シーツを被りガタガタと怯え、そして、アルシュのレッドリーレスのオーラの先端が見えた。
過呼吸になるルシェル。
アルシュが、ルシェルがいるであろう部屋に入ると、ルシェルが
「来ないでーーーーーー」
炎の大獅子を出すが、それを、レッドリーレスの手で掴み押さえる。
そして、アルシュはルシェルを掴む。
「いやあああ! いやあああ」
暴れるルシェルに、アルシュは
「落ち着いて、話を聞きに来ただけだけだから…」
「ウソよーーー アタシに復讐しに来たのよーーーー」
暴れるルシェルに、アルシュは押さえつつ、ルシェルが静かになるのを待つ。
ルシェルが泣き暴れる体力を使い果たし、静かになり。
「落ち着いた?」
と、アルシュが語りかける。
ルシェルは、ハァハァ…と数回呼吸した後。
「アンタ、アタシに復讐しにきたんじゃないの?」
アルシュは首を横に振り
「違う、話を聞きに来た。なんで、あんな事をしたんだってね」
落ち着いたルシェルをアルシュは離して、同時に炎の大獅子も静かになったので、レッドリーレスから離す。
アルシュは正座して、ルシェルも前に正座させ
「話してくれ、なんで…あんな事を、ぼくを攻撃したの?」
ルシェルは俯く。
アルシュが
「ぼくが攻撃される前、ルシェルは…ぼくに言う事を聞かそうとしていた。
何か理由があるんだよね?」
ルシェルは怖がりながら
「怒らない?」
アルシュは肯き
「怒らない。怒って解決する事じゃあないだろう。正直に言ってくれ」
ルシェルは語る。
その同時刻、正妃ヴィクティアの魔導車が同じくダルシュンの邸宅に来た。
アリア達部下を連れて強引に邸宅に入り
「どういう事ですか?」
その声色には、威圧が篭もっていた。
広間にいるファリティアが、ヴィクティアに、アルシュが攻撃した加害者のルシェルに会いたいとして…を告げる。
ダルシュンも広間に来て
「これは…正妃様」
ヴィクティアは鋭い顔で
「これは、キサマの差し金か!」
怒声だった。
ダルシュンは頭を下げ
「いいえ。アルシュ様のご意思で…」
そこへ、孫息子ユースとノアドも来た。
正妃がいて、攻められる祖父の姿にユースも、ノアドも只ならぬ状態であると察した。
そこへ二階からルシェルを伴ったアルシュが来てヴィクティアが
「帰りましょう。アルシュ」
アルシュが
「この子の話を聞いて貰えますか? ヴィクティア様…」
ヴィクティアは、ルシェルを凝視する。
ルシェルは怯えるも、アルシュが
「大丈夫だよ」
盾になる。
アルシュが、ユースとノアドを見つけ
「お二人も来てください」
アルシュがルシェルを隣にさせ
「さあ、大丈夫…怒られてもぼくが守ってあげるから…」
ルシェルが語る。
「アタシね。ユース兄様と、ノアド兄さんが、アルシュくんと仲良くなりたいとわかっていたの。
でもね…何時も、あの人が邪魔するから」
と、アリアを指さす。
アリアは指さされて戸惑う。
アルシュが
「さあ、続けて」
ルシェルが
「それでね。アタシがアルシュくんの事を、子分にすれば、きっと、ユース兄様やノアド兄さんとも、仲良くなれて、あの人も邪魔しないと思って。それで…
ごめんなさい。こんな事になるなんて…ごめんなさい」
泣き出すルシェルをアルシュは抱き締め
「分かったよ。もう、君は悪くない。だから、いいんだよ」
優しく慰めながら、アルシュはヴィクティアに
「これが事の顛末です。
ヴィクティア様。確かに、昔は色々とありましたが…それを…ぼくたち。
子供にまで押しつけるんですか?
ぼくたちの世代と、ヴィクティア様の世代は違う。
そうじゃないんですか?」
ヴィクティアは、理解した。
自分達の過剰な反応の為に、事が起こったのだと…。
ヴィクティアは、アルシュと同じ目線で跪き
「アルシュ、この事態の全てをアナタに委ねます」
アルシュは肯き
「では、ぼくが決めます!
ぼくは、ルシェルと友達になる。そして、そのお兄さん達とも友人になる。
それで全て決着です」
ヴィクティアは肯き
「見事です! アルシュの決定に私も従います」
そして、ダルシュンを見ると、ダルシュンは驚いた顔をしていたが、納得する結末故に
「わたくしもアルシュ君の、いいや、アルシュ様の決断に従います」
ユースはホッとして、ノアドはニヤリとワクワクした笑みをして
「なんて、ガキだ…」
それは、正に賞賛から来る気持ちだった。
こうして、ルシェルとのいざこざの決着をアルシュはつけた。
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