レイールの道場再び
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アルシュは何時もの道場通いをして…
オラ、アルシュ。ジェネシス帝国といか色々な繋がりが出来て、もしも…自分の国
ヴィクタリア帝国で、生活出来なかったら。逃げられる先を作ったかなぁ…?
アルシュは、周囲に一度のレイールの道場に通っている。
総合運動ドーム、東京ドームそのモノが、様々なトレーニングをするジムの、内設陸上トラックで、アルシュは同年輩の子供達と一緒にグラディエーター武術の訓練をしていた。
1時間くらいの内容は、まずは受け身の練習。
その後、柔術のような技の訓練と、持ち精霊を交えた訓練をする。
流石、陸軍のお偉いさん達の子供達が通う道場だけあって、子供達の持っている精霊は強そうな精霊ばかりだ。
獅子や、ドラゴン、グリフォン、果ては羽の生えた天使、ゴーレムのようなゴツゴツした者。
とにかく、戦闘系の精霊持ちであると分かる。
アルシュは…まあ…出せない。
精霊とはチョット違う。
なんというか…特殊な存在故に…出せない。
一緒に訓練している子が
「どうして、精霊を出さないの?」
聞いてくるのでアルシュは微妙な顔をして
「その…ぼく…精霊…持ってないから…」
その子が驚きを向ける。
「ええ…なんで? どうして?」
この世界ワールストリアでは…10歳を越えたら精霊を持つのが当然のようだが…。
「これ、どうした?」
師匠のレイールが来た。
聞いた子が
「レイール様、この子…精霊を持っていないって」
レイールは肯き
「そうじゃよ。世の中には、精霊を持たない者がいる」
子供は更に驚きを向ける。
そんな驚愕する子にレイールは優しく告げる。
「君達のように10歳になれば、皆…精霊を持つ事が出来るのは…。この国しかない。
他の国では、精霊は貴族階級以上しか持てないのだよ」
子供が更に
「精霊がいないのに、どうやって魔法を使うのですか?」
レイールは正しく
「精霊が無くても、魔法は使える。魔法の発動を補助する道具や器具を使って
他の国の者達は魔法を使っているのだよ」
子供がアルシュを指さし
「じゃあ、あの子は、他の国の子ですか?」
レイールは優しく解く様に
「あの子は、この国の子じゃ。だが…希に、本当に数少ない事で、精霊を持つ事が出来ない子が出てくる。それがあの子なんじゃよ」
本当にレイールは、優しく孫に説くように説明する。
まあ、ぶっちゃけ、アルシュに関しては…別の事情があるのだが…。
子供は納得して
「うん。分かりました。レイール様」
レイールは優しく子供の頭を撫で
「君は良い子だ。分かってくれるのだから」
子供が去り、アルシュがレイールに近づき
「ありがとうございます。レイール様」
レイールはアルシュに微笑み
「色んな子供がいる。だから…アルシュくんも心配しなくていいんだよ」
本当にレイールは優しかった。
レイールはアルシュを優しく見つめ
「なぁ…アルシュくんは、その持つ力で何をするのかね?」
唐突な問いだった。
アルシュは固い顔をする。
まあ、父親からの紹介で来たのだ。ある程度、自分の事情は知っているだろう。
アルシュは目を細め
「分かりません。何も決めていないのです」
レイールはアルシュを抱き抱える。
「え?」とアルシュは戸惑う。
レイールはアルシュを抱き締めながら
「君の目には、光がない。それで悪いという訳ではない。
何か…一つでも望みがあった方がいい。
生きているだけでは…人は…」
その先を言おうとしたレイールは口を紡ぎ
「ごめんな、説教くさかった。何時か、君の未来が見つかるといいなぁ」
レイールはアルシュを下ろすと、アルシュが
「レイール様は、どこまで、ぼくの事を知っているのですか?」
アルシュの深淵の底にある瞳がレイールを見つめる。
レイールは微笑み
「そうだな…。君の、アルシュくんの人生は、始まったばかりだ。
君が産まれる前の事は、今、ここで生きている君には、関係ない事だと思う」
アルシュはそれで察した。
アルシュの前世がどんなモノか…レイールは知っている。
そして、大凡、どれだけの人が知っているか…も想像がついた。
「そうですか…」
と、アルシュが歩き出しレイールから離れる。
その背をレイールは優しく見つめる。
レイールは分かっている。自分がどれだけ言葉を紡ごうと、今のアルシュには届かないのだ。どんな事を言ってもアルシュの価値観に変化を起こせない。
これだけは、アルシュの人生がどのように歩むか、それに賭けるしかない。
「アルシュくん。何時でもここには、君の居場所があるからなぁ」
と、レイールは微笑む。
その言葉にウソはない。
だが、アルシュは冷たい絶望の視線を向けた。
それは…己の立場によって変化する。絶対な場所ではない。
そう、アルシュはとった。
その会話を遠くで、ユースとノアドが見ていた。
訓練が終わって帰る頃
「よう!」
レアドが帰ろうとするアルシュに呼び掛ける。
アルシュは呆れを向け
「何ですか?」
レアドがアルシュに近付き、その頭を鷲掴みして
「オレが奢ってやるから、ちょっとつき合え!」
「はぁ?」とアルシュは訝しい顔をして
「あの…夜ですよ。帰る途中ですよ」
レアドが
「オレは、帝国守護軍ネモシス様のご子息だ。
子供の一人くらい、面倒を見られないでどうすんだよ」
アルシュが
「いや…十二歳以下は、家に帰る時間でしょう」
レアドは得意げに笑み
「オレの方から、連絡して置くし、後で送ってやる」
そこへ
「何をしているんですか!」
アリアのお迎えが来た。
アルシュは、ああ…と悪態を内心でついていた。
アリアがレアドの前に仁王立ちして
「どういうつもりなのですか?」
レアドが苛立った顔で
「別にいいじゃねぇか! 同門のガキを食事に連れて行っても!」
そこへユースも来て
「どうも、アナタこそ…良くないんじゃないですか!」
レアドに加勢する。
「そうやって、アナタ達王妃達が、この子を囲ってしまうからアルシュくんは、ここで友人もいないのですよ!」
アリアが鋭くユースを睨み
「陛下のご意向だけで通わせているだけであって、我々…王妃達は、これを良しとはしていませんが…」
レアドが
「なんだよ! お前等、王妃側は、皇帝陛下より偉いのかよ!」
アリアが
「場合によっては!」
けんか腰状態にアルシュは頭を抱え
「もういいから、アリアさん。帰ろう」
と、アリアの手を取る。
だが、レアドが勝手にアルシュに肩をつかみ
「こっちに来い! あんな、自由さえ与えない連中につき合う必要は無い!」
その肩をつかんだ手をアリアは弾き飛ばした。
レアドとアリアが睨み合い。それにユースが加勢に加わる。
アルシュは頭を抱え「ねぇ…止めてよ」と告げると、アリアが
「もし、陸軍との繋がりが出来た場合、アルシュ様はこの国に居られなくなりますよ」
「ああ!」とレアドの額に青筋が浮かぶ。
アリアが淡々と
「後継内戦をご存知の筈…」
ユースとレアドが口を紡ぐ。
アルシュは、口を固く閉じる二人を見つめる。
アリアが
「そうなれば…アルシュ様は、アナタ達がやったこれが切っ掛けで、あの内戦の再来とされ、排斥されるかもしれませんよ。
その責任をアナタ達が真っ当出来るのですか!」
レアドが怒りで体が震えている。
ユースも温厚そうな顔に怒りを浮かべている。
アリアは、アルシュの手を取って「行きましょう」と連れて帰った。
アリアとアルシュが居なくなった廊下で、レアドが
「クソッタレーーーーー」
傍にあったゴミ箱を蹴り飛ばした。
その隣でユースが怒りで頭を掻いていた。
怒り心頭に発す二人を、角に隠れてユースの妹ルシェルが見ていた。
そこへレイールが来て
「どうしたのかね…二人とも」
レアドがレイールに
「オレ達って、そんなに色々な事に縛られているんですか、レイール師匠」
レアドの顔には悔しさが滲んでいた。
レイールはレアドとユースの憤りをしっかりと聞いてくれた。
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