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第82踊 今日はそういう日なんだよ

「ねぇ、せっかくだからみんなでプリクラ撮らない?」


佳奈が期待を込めた声で提案する。


「いいね! 思い出作り大事!」


いづみが即答し、咲乃も「別にいいけど」とすました顔で頷いた。


というわけで、僕たちはショッピングモールのゲームコーナーへ向かった。

考えることはみんな同じらしく、プリクラコーナーには他の高校生たちが大勢並んでいる。


「そういえば、佳奈ちゃんだけ秋渡くんとのプリクラ持ってるのずるいよね!」


いづみが突然言い出し、咲乃に同意を求める。


「そう? 私もクレープ一緒に食べた時の写真あるから。見る?」


咲乃はさらっとスマホの画面を見せてくる。

そこには、確かに僕と咲乃がクレープを持っている写真が映っていた。


「えー! なんで私だけ秋渡くんとの写真ないの!?」


「ほら、私たちも撮るし、これで平等ね」


咲乃が淡々と言うと、いづみは納得いかない様子で「むぅー」と頬を膨らませた。


——この三人は、変なところでマウントの取り合いをする。


しばらくして順番が回ってきた。


「よし、みんなで撮ろう!」


「じゃあ、私は秋渡くんの隣ね!」


いづみが当然のように僕の横に立つ。


「……じゃあ、私はこっち」


咲乃も反対側に立つ。

そして佳奈が「じゃあ私はここ〜」と僕の前にきて楽しげにポーズを決めた。


——カシャッ。


画面に映るのは、四人が思い思いのポーズを取ったプリクラ。


「さあ、落書きタイム!」


いづみがタッチペンを手に取り、まず最初に僕といづみの間にハートマークを描く。


「ちょっと、それ消す」


咲乃がすぐさま消去ボタンを押した。


「えー!? じゃあ、ここに『仲良し!』って書く!」


「そしたらこっちは『青春!』で」


「私は『天才』って書くわ」


「それ関係ある?」


わいわい言いながら、プリクラの落書きが進んでいく。


プリクラを受け取り、満足げに出口へ向かう途中——。


ドンッ!


「わっ!」


「きゃっ、ごめんなさい……あっ」


誰かとぶつかった。

慌てて顔を上げると、そこにいたのは——井上麻里子だった。


麻里子は、白いフリル付きのブラウスに、ふんわりとした淡い水色のスカートを合わせていた。

足元は白いサンダルで、かかとには小さなリボンがついている。

彼女のふわっとした雰囲気にぴったりの、どこかおとぎ話の世界から出てきたような服装だった。


髪はゆるくハーフアップにまとめられ、星形のヘアピンがきらりと光っている。


「片桐くん!やっぱり、今日はそういう日なのね!」


「え?」


「ううん、なんでもない」


麻里子はふわりと微笑んだ。

その表情は、どこか達観したような、不思議な雰囲気を持っている。


「麻里子!? なんでここに?」


いづみが驚いた声を上げる。


「んー? 運命の導き……かな?」


「いや、普通に遊びに来たんでしょ?」


佳奈が突っ込むと、麻里子は「そうとも言う」と頷く。


すると、今度は別の声が聞こえた。


「麻里ちゃんどこ行ったのー……って、あれ?」


そこには自称保護者の藤岡玲奈いた。


玲奈は、黒のノースリーブトップスに、デニムのショートパンツというシンプルなスタイル。

足元は黒のスニーカーで、アクティブな印象を与える。

腕にはシルバーのバングルをつけており、クールな雰囲気をより際立たせていた。


髪はポニーテールにまとめられ、横顔から覗くうなじが妙に大人っぽい。


「玲奈も一緒だったんだ」


いづみが言うと、玲奈は「あれ、いづみ?」と目を丸くした。


どうやらこの3人は同じ中学校出身らしい。藤岡さんが僕を見てにやりと笑った。


「へぇー、片桐くんと一緒にいるんだ?」


「な、なによその意味深な言い方!」


「いや別に?」


玲奈はいたずらっぽく肩をすくめる。


「ねぇ、いづみってさ、片桐くんのこと結構気にしてるよね?」


玲奈がふいに言った。


「えっ!? ち、ちがうよ!?」


「でも、さっきもプリクラにこだわってたみたいだし……」


「それは……その……!」


いづみが言葉に詰まる。


その横で、咲乃が完成したプリクラをみながらつぶやくように言った。


「……ふーん」


一方、麻里子はじっと僕を見つめ、ぽつりと呟く。


「ねぇ、片桐くん」


「ん?」


「もし今度、私が片桐くんの運命を占ったら……どうする?」


「え?」


「大丈夫。きっと、運命は素敵な方向へ導いてくれる……はずだから」


「はずって……」


麻里子の独特な言葉選びに、どう返したらいいかわからなくなる。


「ふーん、麻里ちゃんも片桐くんのこと好きなの?」


玲奈が軽い調子で言うと、麻里子は微笑んだ。


「うん!私の運命の人だからね!」


「運命の人!?」


いづみと佳奈が同時にツッコミを入れる。


「私、運命を信じるの!だから、片桐くんと今日ぶつかったのも、きっと何か意味があるんだよ!」


「たまたまだろ……」


「ううん、きっと何かあるはずだよ」


麻里子のマイペースな発言に、いづみと佳奈、咲乃が微妙な顔をする。


「……ふーん」


「……むぅ」


「……ぬぬぬぅ」


いづみと佳奈が不満そうに頬を膨らませ、咲乃は無言で見つめていた。


——まさかこんな形で、僕の周りが賑やかになるとは思ってもみなかった。


この夏、いったいどうなるんだろう。

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