表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/133

第79踊 古川雅はいつも気だるげ

「うふふ、I’m back♪」


そう言って教室に姿を現したのは、ついさっき別れたばかりの井上麻里子だった。


いや、なんでここにきたんだ……!?


呆然とする僕の横で、咲乃がジト目になっている。


「……誰?」


「あ、えっと、その……」


なんて説明すればいいのか迷っていたら、麻里子がキラキラした目でずいっと咲乃に近づいた。


「はじめましてー! 1年5組の井上麻里子ですっ! 麻里ちゃんでも、麻里子でも、好きな方で読んでいいよ!片桐くんと運命的な出会いを果たしました!」


「……は?」


咲乃の目がさらに細くなる。


「ちょ、ちょっと待って! なんか語弊があるって!」


「え? でも片桐くんとは運命的な出会いをしたじゃん?」


「いや、ただ自動販売機の前で出会っただけでしょ!」


「……で?」


咲乃が低い声で問いかける。


「なんでこの子がまたここにいるの?」


「そ、それは僕が聞きたいよ……」


「えっとねー、片桐くんともっと仲良くなりたいから、会いに来ちゃった♪」


「…………」


咲乃が無言で僕を睨む。


「えっと、ほら、麻里子も仮装の準備があるだろうし、自分のクラスに戻ったほうが……」


「やだ!」


即答だった。


「なんで!?」


「だって片桐くんと一緒にいたいもん♪」


「…………」


僕がどう返せばいいのか迷っていると、咲乃が一歩前に出て、麻里子をじっと見つめた。


「ねぇ、あんた」


「ん?」


「……本気なの?」


「もちろん!」


麻里子はにっこり笑う。


「片桐くんはね、きっと私の運命の人なの! だから藤樹祭が終わるまでに絶対に恋に落とさせるんだ~♪」


「なっ……!?」


まさかの宣言に、僕は目を丸くした。


一方、咲乃はますます不機嫌そうな顔になっている。


「……ふーん。そう」


「うん! だからお邪魔しまーす!」


そう言って、麻里子は僕の隣の席にちょこんと座った。


「いや、ちょっと待てって!」


「ねぇねぇ片桐くん、仮装の準備って何するのー?」


「だから、なんでここにいる前提なの!?」


麻里子のペースに巻き込まれそうになっていると、不意に咲乃がため息をついた。


「……もういいわ。好きにしなさい」


「やったー!」


ぱあっと笑う麻里子。


「ただし」


「……ん?」


「秋渡に変なことしたら、絶対許さないから」


咲乃はキッと麻里子を睨みつける。


その表情はどこか――妙に、ムキになっているように見えた。

麻里子は咲乃に睨まれて、サッと僕の背後に隠れた。


「あの人怖いよ~!片桐くん私を守って~!」


袖をギュッとつかまないでくれ、守ってあげたくなっちゃうじゃないか。

そんな思いが顔に出ていたのか咲乃に僕まで睨まれた。


廊下からドタドタと足音が聞こえてきたと思ったら勢いよく扉が開いた。


「見つけたよ麻里ちゃーん!私がお手洗いに行ってる隙にいなくなるなんて!また人様に迷惑をかけちゃダメでしょー!」


それは先程自販機の前で麻里子を引きずっていた女の子だった。

彼女はこちらに気づくと、ぺこりと頭を下げた。


「先程の人!またしてもすいませんでした!私は藤岡玲奈と言います。麻里ちゃんとは同じクラスで、簡単に言えば保護者みたいな感じですかね」


そういい彼女は麻里子の首根っこを掴んで猫のように引っ張りだした。

保護者というより飼い主のような扱い方だ。


「レナレナ邪魔しないで~!」


「他クラスの迷惑でしょ!それに体育祭でも別のチームなんだから!」


5組は聖炎チームであり、僕たち藤朋チームとは敵チームだ。


藤岡さんは「お邪魔しました~」と笑顔で麻里子を引きずって教室を出ていった。


彼女たちが出ていってから咲乃は口を開いた。


「秋渡、さっき私から井上麻里子を守ろうとしたわね」

「い、いや、誤解だ誤解!」

「ふんっ。……まぁべつにいいけど」


そういって咲乃は自分の席へと戻って行った。

蹴られるかと思ったけど、蹴られなかったな。


安堵していると、ヒロキングがやってきた。


「お前の周りはいつも騒がしいなぁ、俺様より目立つなよ?」


「好きで騒がしくなってるんじゃねぇよ。完全な巻き込まれだ」


ヒロキングはケラケラ笑いながら、背中をバシバシと叩いてきた。


「まぁ、せいぜい頑張りな!困ったらいつでも力になってやるよ!」


「そんときは頼りにしてるよ王様」


僕たちのいつも通りのやりとりをしてヒロキングも上野さんの元へ行った。


放課後となり、部活へ向かう。

天使先生がきて、ミーティングが始まった。


「今日は部活対抗リレーのメンバーを発表します!もちろん、やるからには勝ちに行きますよ!」


各部活から参加を表明した部活が5人を選出して走る。


矢野先輩は、部長だし当然走るとして残り4枠。

僕が当たることはほとんどないだろう。

そう思っていたが―――


「1年生からは片桐くんと、高塚さん、後藤くんね。2年生は由美ちゃんと雅ちゃん」


しっかり選ばれていた。


後藤くんは物静かな、たしか5組の男の子だ。

雅ちゃん……古川雅先輩は、矢野先輩との二枚看板を務める1人だ。怪我で長期離脱していたが、この度復活したらしい。


復活そうそうリレーをやらされるとは、同情しかない。


部活のミーティングが終わり、リレーメンバーの顔ぶれが決まった。


矢野先輩が腕を組みながら、満足げに頷く。


「うん、なかなかいいメンバーじゃない? これは優勝狙えるかも!」


「……そう、ですねぇ……まあ、ほどほどに……がんばりましょうか……」


ゆるりとした口調で応じたのは、古川雅先輩。


どこか気だるげな雰囲気をまといながら、スッと目元を伏せる。


「勝ちたい気持ちは……ありますけどぉ……無理は、したくないですねぇ……」


「相変わらず雅はマイペースね!」


矢野先輩が苦笑しながら言う。


「じゃあ、さっそく順番を決めましょう!」


「……うーん……どこでもいいですけどぉ……あんまり、全力を要求されるところは……避けたいですねぇ……」


「じゃあ、3走とかどう?」


「……そうですねぇ……まあ、それなら……いいかも、しれません……」


雅先輩は眠たげな目で、ふわりと頷いた。


「1年生はどう?」


「私は1走がいいです!」


咲乃が即答する。


「先に走ったほうが有利だし、差をつけておけば後が楽になります!」


「おぉ、頼もしい!」


「じゃあ、2走は後藤くん?」


「……うん、それでいい」


ここでようやく、後藤くんがぽつりと口を開いた。


「……別に、どこでもいいけど……1走は遠慮しとく」


「え、なんで?」


矢野先輩が首を傾げる。


「……あんまり目立ちたくない……」


「……それは、わかる気がしますねぇ……」


雅先輩が静かに同調する。


「ふたりとも、なんか雰囲気似てるね……?」


矢野先輩が苦笑混じりに言うと、後藤くんは「……そう?」とだけ返した。


「私は3走だから……」


雅先輩が、ゆっくりと僕に視線を向ける。


「……片桐くんは……四走、やりますかぁ……?」


「え、えっと……頑張ります!」


「……そっかぁ……まあ、がんばって、くださいねぇ……」


ゆるい微笑みを浮かべながら、雅先輩はぽつりと言う。


1走:高塚咲乃

2走:後藤くん

3走:古川雅先輩

4走:片桐秋渡

5走:矢野由美先輩


「異論はないわね?」


「ないです」


「なし」


「……うん、異論は、ないですねぇ……」


「……ないけど……俺、リレーってそんな得意じゃない」


後藤くんがぼそっと呟く。


「まぁ、別にそこまで速さをみんなに求められてるわけじゃないし、普通に走れれば大丈夫よ」


矢野先輩が軽く肩を叩くと、後藤くんは小さく頷いた。


「……普通に、ね……」


「ふふっ、秋渡くんも、頑張ってね?」


矢野先輩が楽しそうに微笑む。


「ま、どうせなら本気で勝ちに行きましょ!」


こうして、部活対抗リレーの順番が決まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ