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第78踊 不思議ちゃんは戻ってくる

教室に戻り上野さんにデザインのお礼ということで、紙パックのジュースをプレゼントした。


「全然気を使わなくていいのにー!でもありがとう」


上野さんはそういい、他の人の手伝いに向かった。


咲乃の様子を伺うと、どうやらデザインで苦戦してるようだ。

あーでもないこーでもないと書いては消してを繰り返している。


見かねた上野さんが駆けつけていた。


彼女たちも頑張ってるし、僕も頑張らなければ…。


そう思い、作業に取り掛かるが心ここに在らず。

どうしても先程のことを考えてしまい、作業がまったく手につかない状況だ。


僕の脳裏に鮮烈なデビューを果たした女の子、井上麻里子。


彼女はいったい何者なのだろうか。





「私と付き合ってよ!いいでしょ?」


子供がおもちゃを親にねだるように、瞳をキラキラさせながら彼女はそういった。


あまりにもストレートすぎるものは、逆に思考を停止させた。


付き合う?僕と?


初めての告白は、名前も知らない女の子からだった。


衝撃的すぎて、何も言えない僕をみて彼女は徐々に泣きそうになっていた。


「うぅ……うっ、ひっ……うぇ……」


これはまずい、非常にまずい。

まるで僕が彼女を泣かしてるみたいじゃないか。


彼女の泣きそうな顔で僕は冷静さを取り戻した。


「えーと、僕たちまだお互いの名前知らないからさ、その…」


「井上……麻里子…です。1年5組の…」


どうやら彼女の名前は井上麻里子というらしい。

名前はわかったが、彼女は今にも泣き出しそうだ。


どうしたものかと考えていたら彼女から提案がきた。


「うぅ……よしよし…してください…うぇ…」


よしよし?頭を撫でてくれということか?


考えても仕方が無いことは考えるな。

僕はとりあえず、よしよしすることにした。


「…麻里子って呼びながらしてください」


「いやそれはちょっと…」


「うぇ…ひっ…うぇぇぇん…」


「わかったわかった!……麻里子ーよしよしー」


泣きそうな顔から一転して、ふにゃりと蕩けた顔をしていた。


思わず僕もふにゃりと笑いそうになった時、もう一人生徒がきた。


「麻里ちゃんやっと見つけたー!うちの麻里子がすみません!」


女子生徒はこちらに一瞥してから、「やめれー」と騒ぐ井上麻里子を引きずって行った。


観念して騒ぐのを辞めた井上麻里子がこちらへサムズアップしながら呟いた。


「I"ll be back」


お前はターミネーターかよ。

いったいなんだったんだ。




そして今、井上麻里子のインパクトが強すぎて、頭の中をぐるぐる回っていた。


付き合ってって……初対面だよな? しかもあのまま連れ去られたし……。


思い出してみると、あの子――いや、井上麻里子は完全にノリで告白したというより、何か本気っぽかった。

なんというか、勢いがすごすぎて、ついていけなかったけど。


「……はぁ」


まったく作業が手につかない。


麻里子って、いったい何者なんだ?


考えても答えが出ないことは分かっているのに、気になって仕方がない。


そんなとき、ガタッと椅子を引く音がした。


「……なに難しい顔してるの」


横を見ると、咲乃がこっちをじっと見つめていた。どうやら僕がずっと手を止めていたのが気になったらしい。


「いや、ちょっと考えごとを……そっちはデザイン出来たの?」


「デザインはできたわ。それより…考えごと?」


「……まあ、些細なことだよ」


そう誤魔化そうとしたけれど、咲乃は鋭い。

じーっと僕を見つめたあと、ため息をついた。


「秋渡、どうせまた変なことに巻き込まれたんでしょ」


「え、なんで分かるの?」


「はぁ……アンタ、わかりやすすぎるのよ」


腕を組んで呆れたような顔をする咲乃。


「で、今度は何? まさか、女の子に告白でもされたとか?」


「……えっ」


ギクリとする僕。

まさにその通りのことが起きたわけで、完全に図星だった。


「ちょ、ほんとにそうなの!?」


咲乃の声が一気に大きくなる。

そのせいで周りのクラスメイトがちらっとこっちを見て、僕は慌てて手を振った。


「ち、違う! まあ、そんな感じのことはあったけど!」


「はぁ!? なにそれ、詳しく説明しなさいよ!」


机をバンッと叩いて詰め寄ってくる咲乃。

目がマジだ。


「いや、だから……たまたま自動販売機で出会った子が、いきなり僕に告白してきて……」


「……は?」


一瞬、咲乃が固まる。


そして、じわじわと顔が不機嫌に歪んでいった。


「……なにそれ。意味わかんないんだけど」


「いや、僕も意味わかんないから!」


「で、どうしたの? まさかOKしたんじゃないでしょうね?」


「してないよ! っていうか、名前も知らなかったし、さっき知ったばっかりだし!」


「ふーん……」


じとっとした視線で僕を見つめる咲乃。

なぜか妙に機嫌が悪い。


「それで、その女の子の名前は?」


「井上麻里子……1年5組らしい」


「ふーん……」


また同じ返事。

だが、その直後、咲乃はぐっと僕のほうに顔を寄せてきた。


「ねぇ、秋渡」


「な、なに?」


「その子と、もう関わらないほうがいいと思うよ」


「……え?」


その言葉に、思わず息をのんだ。


「なんで?」


「……勘。そういうの、危なっかしい気がするから」


そう言った咲乃の目は、どこかいつもより真剣だった。


そんなやり取りをしていると――


「やっほー片桐くーん♪」


軽快な声とともに、教室の扉がガラッと開いた。


そこに立っていたのは、ついさっき別れたはずの――


「え、麻里子!?」


「うふふ、I’m back♪」


まさかの再登場に、咲乃の眉がピクッと動いたのを僕は見逃さなかった。

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