第77驚 不思議ちゃんは突然に
午前の体育祭の練習が終わり、昼休みに入った。
お弁当を片手にいつもの中庭へと向かう。
季節的なものもあり、藤の花は咲いてはいないが、緑が生い茂り夏らしさを感じさせてくれる。
とりおり吹き抜ける風は、体育祭の練習で火照った体には気持ちいい。
しばらくすると咲乃や、いづみ、佳奈が来た。
女の子は男の子以上に汗のケアに時間がかかるのだろう。
みんなでお弁当を拡げ、各々の近況報告が始まった。
「秋渡くんが自分から率先してクラス対抗リレーに出てくれて嬉しいよ!」
いづみが唐揚げを頬張りながら言う。
なかば強制的に参加するように仕向けられてた気がするのだが…。
「私とそんなにリレー対決したかったんだね!それと咲乃ちゃんも出てくれてありがとう!本番が楽しみだね、負けないよ!」
「私は秋渡がどうしても出て欲しいって言われたから出たまでよ」
僕、そんなこといったかなぁ。
変なところでマウント取ろうとしないでよ2人とも。
マウント取りたがりはまだいるんだぞ。
案の定もう一人、佳奈が釣られていた。
「私は秋渡に着替えてるとこ見られたよ!」
「んなっ!?」
突然のカミングアウトに食べていたご飯が喉に詰まりかけた。
「えっ!?どういうことよ!」
「佳奈ちゃん詳しく聞かせて!」
佳奈はふふんっと上機嫌に答え始めた。
「夏休みの初めの頃に秋渡が私の家に来たんだよ!ちょうど親のいない日でね…」
食い気味に前のめりで話を聞く2人。
「佳奈の家に行った!?」
「しかも親のいない日に!?」
佳奈は2人の反応が良かったのか、ますます上機嫌だ。
「私の部屋に行って私が服を脱いでたら秋渡が…」
「待て待て待て!!」
僕は慌てて佳奈の話を遮った。
「そんな言い方するなって!誤解を招くような言い方!」
いづみと咲乃が僕をまじまじと見つめている。
「それで秋渡はどうしたの?」
「ふむふむ、それで?」
食い気味の二人を止めることは出来ないらしい。
佳奈は得意げに続ける。
「秋渡は恥ずかしそうに目を背けてた!そりゃそうだよね、男の子だもんね」
「あってるんだけど、ちがうんだよなぁ!」
僕は必死に弁解したが、じとーっとした目線を2人がやめることはなかった。
「ところで、2人は何番目に走る感じ?」
佳奈が先程までのことは無かったかのような顔で真面目に話し出した。
「ん?リレーなら僕は3番走者かな。ヒロキングがアンカーで、2人は知らないかもだけど、中谷千穂さんが第1走者。」
「私は2番走者の予定よ」
ヒロキングの考えで運動部で弓道部を挟み込む形だ。
僕たちの答えを聞いた2人は対照的な反応をしていた。
いづみは嬉しそうに、佳奈は残念そうにしていた。
「私も2番走者だから競走だね咲乃ちゃん!」
いづみは咲乃と同じように第2走者のようだ。
そこでバチバチしないでくれ。
「私は第1走者だよ…秋渡や咲乃とも競い合えないじゃんかー!」
一方、佳奈は第1走者。
僕たちとは競うことはないだろう。
「チームプレーだし一緒だよ」
それとなくフォローを入れてみたが、反応は芳しくない。
どうしたものかなと考えをめぐらしていると、千穂が現れた。
飲み物を片手に歩いていたから自販機の帰りだろう。
「おっ、秋渡と咲乃ちゃん!それと……宮本いづみさんと平野佳奈さん…かな?」
「うん!私がいづみで、こっちが佳奈ちゃん!はじめまして……だよね?」
軽く自己紹介をする3人。
2人は、「リレーの人だね!」と言っていた。
どうやら3人は初対面らしいが、なぜ名前がわかったんだろうか。
そんなことを考えていると、佳奈が質問してくれた。
「どうして私たちの名前わかったのー?」
アホっぽい質問をありがとう佳奈。
千穂はその質問が来ることが想定内のようだった。
「2人とも有名人だからね!1組の太陽とムードメーカー。可愛いルックスも相まってアイドル級の人気者。知らない人なんていないいない」
やっぱりこの2人は有名人なんだなぁと改めて感じさせられるひとことだった。
僕といることで悪い噂をたてられなければいいけど…。
一方、2人は褒められて有頂天というか、目に見えて上機嫌だ。
いづみは「中谷さん、いい人だね咲乃ちゃん!」と言っているし、佳奈にいたっては、鼻歌を奏でている。
2人とも簡単に騙されやすそうだな。
でもそんな雰囲気も千穂のひとことで崩壊した。
「私の秋渡と咲乃ちゃんと仲良くしてありがとう!これからは私もついでによろしく~」
そういって千穂は教室へと戻っていった。
僕たちもそろそろ戻るかと思っていたが、空気はピリついていた。何故か咲乃までピリついているからびっくりだ。
「リレーやる気出てきたよ。彼女が第1走者なら負けられないね」
リレーに関して不満げだった佳奈がやる気をだしていた。
「なんか牽制された気がする」
「仲間に敵がいたようね」
いづみと咲乃もボソッと独り言を呟いていた。
教室へ戻り、仮装行列の衣装作りに取り掛かる。
ルーズリーフのノートに衣装デザインを描き、採寸したデータを元に布に下書きを書いていく。
絵心のない僕にとってはデザインを描くことが難しい。
「片桐くん、デザイン描くの手伝おうか?」
煮詰まってたのがバレバレだったのか上野さんが話しかけてきてくれた。
「助かるけど、上野さんは自分のデザインはいいの?」
「私は吹奏楽部だから本番はマーチングしないといけないから仮装出来ないんだ。だからみんなのを手伝ってるんだ」
じゃあなんでこの前、咲乃と一緒に採寸されてたのって聞くのは野暮なことだ。
「なふほど。じゃあお願いしてもいいかな?」
上野さんと意見を出し合ってデザインを完成させていく。
「狼だし、シッポと耳は付けたいよね!フードみたいにしようか」
「手袋をつけて肉球もありだね」
そうして完成したデザインは、可愛らしくも狼としてのカッコ良さもあるものになった。
上野さんにお礼として飲み物でも買ってくるか。
そう思い教室をでて自動販売機へと向かう。
「君が片桐くんだねぇ」
呼び声に振り向くとそこには知らない女の子がいた。
茶色のミディアムボブヘアーで不思議な雰囲気があった。
靴の色から察するに、同じ1年生だろう。
突然真剣な顔をして話し出した。
「いづみちゃんと付き合ってるって本当?」
「えっ!?いやいや、付き合ってないよ!」
突然何を言い出すんだこの子は。
僕の答えに満足したのか破顔し、ふにゃりと笑った。
「ならよかったぁ~!じゃあさじゃあさ」
まるでこれから何かお願いをする子供のように見えた。
「私と付き合ってよ!いいでしょ?」
それは、無邪気な女の子からの突然の告白だった。




