第76踊 リレーの練習は足蹴りから始まる
二人三脚の練習が終わり、クラスへと合流する。
クラスメイトもそれぞれの種目の練習をしていたようで、人数もまばらだ。
「お疲れさん2人とも。ずいぶん仲がよろしいようで」
「お疲れ様!秋渡が私からなかなか離れてくれなくてね、困っちゃうよ」
「俺よりモテるとはやるな片桐」
「もうツッコむの諦めるわ…」
しばらく雑談してると咲乃やほかのクラスメイト達も帰ってきた。
「まだ時間あるし、クラス対抗リレーの練習するか」
ヒロキングの提案でリレーの練習をすることになった。
「まずはどの順番で走るかだが、実は俺の中では決まっている。中谷さん、高塚、片桐、俺だ。弓道部を俺たち運動部が挟み込む形だ」
「私はそれで構わないけど…いいの?秋渡にバトン渡さなくて」
珍しく咲乃がヒロキングを少し気にしていた。
たしかに種目決めの時にやたら僕にバトンを渡そうとしていた。
僕としては目立ちたくないし、アンカーはごめんだが。
「やるからには勝ちたいからな!私情を挟んでクラスに迷惑はかけれねぇよ。それに、お前たちが繋いできた想いをアンカーとして走る俺、カッコイイだろ?」
ヒロキングの王様ムーブ久々に感じたかも。
咲乃は話を聞いて納得したのかそれ以上は追求しなかった。
でもその顔はどこか寂しそうでもあった。
「私もそれでいいよ!でも秋渡のアンカー見たかったなぁ。まぁ本人があまり目立ちたくなさそうだし、仕方がないかぁ。目立つのは私との二人三脚にしとくか!」
「千穂との二人三脚ほど目立ちたくないものないわ!」
僕の返答がツボに入ったのか千穂はケラケラ笑っていた。
そのとき、ピクっと小動物もとい猛獣の咲乃が反応した。
「秋渡?千穂?2人はいつからそんなに仲良くなったの?」
あーなんか、めんどくさい事になりそうな予感がした。
案の定、千穂は待ってましたと言わんばかりの顔をしていた。
「二人三脚の練習のときにね、秋渡が私を自分の腕の中に強引に抱き寄せてきたり、密着してきたりして大変だったんだよぅ。やっぱりあの人は狼だよ咲乃」
何故かしおらしい演技をしている千穂。
そしてそんな彼女の前には、仁王立ちするレッサーパンダ、咲乃。
「あ、あんたねぇ~!私がいないからって調子に乗りすぎよ!!」
「い、いやまて、話せばわかる!事実が歪曲している!」
先程の寂しそうな顔の面影は一切なく、怒りに満ち溢れていた。
その背後では声を押えて笑っている千穂、確信犯だ。
「問答無用よッ!」
咲乃の鋭い蹴りが僕の足を襲った。
これからリレーの練習をするのでは?
しばらくして、僕の冤罪がはれ、リレーの練習をすることに。
千穂は咲乃に詰められていたが上手くかわしていた。
その技、教えてください千穂先生。
「じゃあ、リレーの練習始めるぞ!」
ヒロキングの号令で、僕たちはバトンを持ち、走る順番に並んだ。
「秋渡、大丈夫?さっきのダメージ残ってない?」
千穂が心配そうに僕を見てくる。
「まぁ、なんとか…」
正直、咲乃の蹴りの余韻がまだ足に残ってるけど、ここで弱音を吐くわけにはいかない。
「ふふっ、咲乃も手加減してあげればいいのにね」
千穂がクスクス笑うと、隣の咲乃が「うるさい!」と頬を染めながらそっぽを向いた。
原因はあなた達だよ?
「はいはい、青春してるところ悪いけど、そろそろ始めるぞ」
ヒロキングが手を叩いて、話を締める。
「まずはバトンの練習からやるぞ!」
「おう!」
各ペアに分かれて、バトンの受け渡しを確認する。
僕は咲乃と組むことになった。
「ちゃんとタイミング合わせなさいよね」
「それはこっちのセリフだろ」
咲乃は小柄だけど、動きがキビキビしているから油断すると置いていかれそうだ。
「せーのっ!」
僕が手を伸ばし、咲乃がバトンを渡す。
……が、タイミングが合わずに手元でバウンドし、地面に落ちる。
「あー!ほら、秋渡がちゃんと手を出さないから!」
「いや、今のはそっちのスピードが速すぎたんだろ!」
「はぁ!?何よそれ!」
「まぁまぁ落ち着いて、最初はみんなそんなもんだって!」
千穂が笑いながらフォローを入れてくる。
その横でヒロキングは腕を組みながら「これは俺の指導が必要だな」と偉そうに頷いていた。
「バトンは、こう持って――渡すときは、この角度だ!」
「うわ、ヒロキングがまともに指導してる…」
「お前ら普段俺をどう思ってんだよ!」
その後も何度か練習を重ねて、ようやくスムーズに受け渡しができるようになった。
「よし、じゃあ次は実際に少し走ってみるぞ!」
「オッケー!」
練習が進むにつれ、僕たちの息も少しずつ合ってきた。
バトンを繋ぐたびに、練習を見ていたクラスメイトの笑顔が増えていく。
「この調子なら本番もいけるな!」
ヒロキングの言葉に、自然と気持ちが引き締まる。
クラスのために、仲間のために
少しだけ、勝ちたいと思った。




