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第75踊 中谷さんとの二人三脚

伊達にいづみや佳奈、咲乃や矢野先輩と関わってきたわけじゃない。


僕の対人スキルは上がっている。

あの頃のカタギリデスとはおさらばしたのだ。


そっちがいきなり名前呼びをしてくるならこっちだって負けられない。


コミュニケーションはバトルなんだ。


「こちらこそよろしく、千穂!」


僕の名前呼びがクリティカルヒットしたのか、中谷さんもとい千穂は面食らった顔をしていた。


「あー……片桐くんってもしかしてそっち系な人?意外だなぁ~、あといきなり女の子を呼び捨てにするのは辞めた方がいいよ。流石に、ね」


本気なトーンで話されると精神ダメージきついのだが。

これから二人三脚するんだぞ、大丈夫か。


「えっ…あー、ごめん。そういうバトル仕掛けてきたのかと思って…」


「冗談だよ冗談!千穂でいいよ!私も秋渡って呼ぶから!」


中谷さん……千穂は、そういいつつ僕の背中をバシバシ叩いた。


「相変わらずいい体してるねぇ~。後で触らせてよ~」


「いや、その発言は流石にやばいぞ」


千穂はクスクスと口元に手を添えながら笑った。


「ほら、私もヤバいやつだ!これでおあいこだね!」


「いや、それは僕がヤバいやつ認定されてるから!」


なにがおあいこなのかわからないが、3年生が二人三脚のルールについて話し始めたので、僕たちも真剣に話を聞いた。


二人三脚はリレー形式で行われ、1年生、2年生、3年生の順番で始まる。


それぞれ200mを走り、足の紐をバトンの代わりとして用いる。


2人の息が完全に揃った時に、最速のスピードが出る。


簡単なルール説明を終え、それぞれペアで練習することに。


お互いの足を紐で結ぶ。


「私の生脚に触るなんて…えっちだね」


「ブッ……結び辛くなること言うなよ!」


「いやでも逆に君の体を触りたい放題か…」


「それはそれで問題のある発言だなぁ!」


千穂はカラカラと笑いながら肩を組んできた。


彼女は女子としては少し高めの身長だ。


僕と背丈はほとんど同じくらいで肩を組んでも遜色はない。


「さぁ、始めようか2人の共同作業!」


「そうだけどそうじゃない感がするなぁ」


「せーので一緒に出すよ?せーの!」


千穂の掛け声に合わせて、僕たちは同じ足を前に出す。


——のだけれど、


「うわっ!?」


「きゃっ!」


僕たちは見事にバランスを崩し、そのまま派手に転倒した。

地面に転がる僕の腕の中に、千穂がすっぽり収まる形になる。


「……秋渡、これはまずいんじゃない?」


「いや、不可抗力だからな!?ていうか僕のせいじゃなくない!?」


あたりを見ると、すでに他のペアは順調に練習を進めている。


僕らだけ、なにやってんだって視線を浴びている気がする。


千穂は僕の腕の中からするりと抜け出し、砂埃を払いながら言った。


「うーん、なかなかのアクシデント。でも大丈夫、これでお互いの距離がグッと縮まったよ!」


「そういう問題じゃないだろ……」


とはいえ、このままだと本番で派手にやらかす未来しか見えない。

まずは足並みを揃えることに集中しなければ。


「じゃあ、次こそ成功させよう」


「そうね! せーので合わせるのは基本として……秋渡、私のほうにもっと密着して肩に手を置いてみて」


「えっ、もっと近く!?」


言われるがままに千穂の方へさらに密着し、肩へ手を置く。


思ったよりもしっかりした感触……細いようでいて、ちゃんと鍛えられてるのがわかる。

千穂はバスケ部に所属しているが、日々の鍛錬をしっかりしているのだろう。


「ふふ、なんかドキドキしちゃうね!」


「言うな! 余計なこと言うと意識するから!」


千穂は楽しそうに笑いながら、僕の腰に手を回した。


「ほら、もっと密着した方がバランスが取りやすいでしょ?」


「確かに……でも距離が近すぎる……!」


体育祭の種目でこんなに心臓に悪いものがあるとは思わなかった。


「さぁ、もう一度! 今度は成功させようね、秋渡!」


「お、おう!」


「せーの!」


今度こそと気合いを入れ、千穂の掛け声に合わせて足を出す。


「っ、っと……!」


「おっ、いい感じじゃない?」


最初の一歩は成功。二歩目もクリア。

三歩目も——って、これいけるんじゃないか?


「やればできるじゃん、秋渡!」


「僕だけじゃなくて、千穂もちゃんと合わせてくれたからだろ」


「んふふ、そう褒められると照れちゃうね〜」


そんな余裕をかましている間に、リズムが少し崩れる。


危ない、と思った瞬間——


「っととっ!」


千穂が僕の腰をぎゅっと引き寄せ、強引にバランスを立て直した。


「危なーい! ほら、ちゃんと集中しないと!」


「いや、そもそも千穂が変なこと言うから……!」


「ふふ、照れてる照れてる!」


意識を揺さぶるようなことばかり言いやがって……!

いやいや、ここで動揺していては負けだ。

冷静になれ、僕。


「よし、もう一回やるぞ!」


「はいはい、リードは任せたよ、頼れるパートナーさん!」


千穂が僕の肩に手を置き、ニッと笑う。


その表情がやけに楽しそうで、つられて僕も口元がほころぶ。


そして、再び——


「せーの!」


今度は完璧に息が合った。右、左、右、左……リズムよく足を運ぶ。


「おお、いい感じ!」


「このままいくぞ!」


息がぴったり合い、スピードも乗ってきた。

まるで二人が一つの身体になったような感覚。


「うん! 秋渡、いいねぇ!」


千穂が嬉しそうに笑う。

風を切る音、グラウンドを蹴る足音、それらすべてが心地よく響く。


「この調子で本番もいこう!」


「もちろん!」


そうして、僕たちの初めての二人三脚練習は、最高の形でフィニッシュを迎えた。

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