第70踊 クラス内での種目決め
藤樹高校では、仮装行列と体育祭が連日行われる。
その2つを合わせて、『藤樹祭』という。
夏休みの後半を使って、衣装や山車の準備、応援合戦やダンス、種目の練習が行われる。
クラス内もどこか浮き足立っていた。
高校生にとっての体育祭は、青春そのものだからしかたないのである。
夏休みに体育祭の練習があると言っても授業はない。
簡単なHRを行って、あとは自由な時間となる。
しばらくして、天使先生がやってきてHRが開始した。
「みんな、お久しぶり! 夏休み楽しめたかな?」
HRで、担任の天使先生がいつもの穏やかな笑顔を浮かべる。
しかし、その目の下にはクマがあり、隠しきれていなかった。
先生、絶対寝不足だ……。
クラスメイトたちもなにか察したようで、すぐにヒソヒソ話が始まった。
「天使、お疲れのようだな」
「まさか……キメハンしてたんじゃ?」
「いやいや、天使がそんな俗世のゲームをするわけが――」
「……」
天使先生が一瞬ピクリと反応したが、すぐに目をそらした。
絶対やってたな。明日から学校始まるから徹夜辞めようっていってたの先生なのに。
そんな空気の中、HRは続く。
みんな藤樹祭が楽しみなのか、クラス内のテンションも次第に盛り上がっていた。
「私たち2組は、4組と一緒に藤朋チームになりました!みんなで優勝目指して頑張ろう!」
いづみや佳奈とは違うチームのようだ。
そして種目を決める話が始まる。
仕切るのはヒロキングと上野さん。
今回決めるのはクラスでの種目だ。
チームでの種目、リレーや二人三脚などは後日となる。
「で、個人種目のエントリーを決めるわけだが」
ヒロキングが、プリントを片手に前に立つ。
その隣には、しっかり者の委員長・上野さんが腕を組んでいた。
「適当に決めるなよー。ちゃんと勝ちを狙っていくぞ。1人3種は確定な。」
「優勝したら、何かご褒美あるの?」
「そりゃあ、あるだろ。名誉とか栄光とか、青春の思い出とか」
「そんなんじゃ腹は膨れないんだけど?」
「ならファミレスでもおごってやるよ。優勝できたらな」
「おー!やる気出てきた!」
クラスのあちこちから笑い声があがる。
祭りムードのせいか、みんな妙にテンションが高い。
「じゃあ、まずは短距離走。100メートルと200メートル、希望者いるか?」
ヒロキングがホワイトボードに種目を書き込みながら、手を挙げるよう促す。
運動部の男子たちが「まあ、やっとくか」といったノリで手を挙げ、女子もちらほら名乗りを上げた。
「次、障害物競走」
「え、障害物って何があるの?」
「網くぐり、麻袋ジャンプ、パン食い競争、ぐるぐるバットからのダッシュだな」
「最後のやつ、絶対コケるやつじゃん!」
「むしろ、コケても面白いからアリだろ」
笑いながら数人が手を挙げる。
「じゃあ、片桐、お前は?」
「……僕?」
突然ヒロキングに指名され、僕は少し考え込む。
もともと運動は嫌いではないが、得意とも言えない。
「短距離走とかどうだ?意外と速いんじゃね?」
「いや、そこまで速くないよ」
「じゃあ、障害物競走?」
「それも……うーん」
「なら玉入れとか大玉転がしは?」
「玉入れはまだしも、大玉転がしは……」
「やること自体はシンプルだぞ?」
「まぁ、そうだけど」
結局、僕は障害物競走に出場することになった。
「次、借り物競走!」
「これって、当日までお題はわからないんだっけ?」
「そうだな。『眼鏡をかけた人』とか『身長170cm以上の人』とか、いろいろあるらしい」
「去年は『好きな人』ってお題があって、リアル修羅場になったって聞いたけど……」
「それは……盛り上がるな」
「やる人、勇者だね」
「やる!」
勢いよく手を挙げたのは、咲乃だった。
「咲乃ちゃん!?大丈夫なの?」
クラスの女の子たちが、咲乃が手を挙げたことにザワついていた。
「せっかくの体育祭だし、楽しまないとね」
なぜ僕をチラッと見ながら言うのか。
「咲乃ちゃんが出るなら私も出ようかな」
上野さんはふふっと笑いながら手を挙げて参加を表明した。
「じゃあ、最後にクラスリレーを決めるぞ!俺は確定として、他は?」
「それはさすがに運動部に任せよう」
「異議なし!」
こうして、クラスでの種目が決まった。
明日はチーム団体戦、の話になるだろう。
HR後、藤樹祭の準備が本格的に始まる。
クラスの出し物の装飾や、応援合戦の振り付け練習。
そして、体育祭の練習も並行して行われていく。
「ダンスの練習始まるよー!」
そんな声が聞こえ、女子たちが集まり始めた。
ダンスは女子のみの種目で、3年生が振り付けを考え、1・2年生に指導してくれる。
「ほらほら、足の動きが違うよ!」
「もう一回やってみて!」
3年生がリズムに合わせてステップを踏み、それを見よう見まねで練習する。
「咲乃、どう?できそう?」
「……まぁ、なんとか」
咲乃は淡々と踊りながら答えるが、その表情はどこか楽しげだった。
一方、男子たちはダンスを遠巻きに見ながら、それぞれの役割の準備を進めていた。
「片桐、お前も手伝えよ」
「僕が?」
「先輩たちと一緒に応援用の旗作るんだよ。ほら、絵の具持ってこい」
「……了解」
ダンスを踊る女子たちを横目に、僕は旗作りに励むのだった。
「さて、次は応援合戦のメンバー決めだ!」
ヒロキングが手を叩きながら、グラウンドに集まったメンバーを見渡す。
「これは男女混合で、しかも1年生からも有志を募るらしい。んで、ウチのクラスからも何人か出ることになってる」
「へぇ、そうなんだ」
僕はあまり関心がなさそうに聞いていたが、ヒロキングの目がギラリと光った。
「お前も出ろ」
「え?」
「応援合戦、出ろって」
「いや、僕は別に……」
「いいから出ろ。お前、意外と動きキレイだからな。応援くらいなら余裕だろ?」
「それ、褒めてるのか?」
「もちろん。俺が目をつけたんだから、間違いない」
ヒロキングはニヤリと笑い、僕の肩をがっしり掴んだ。
「ほら、やるぞ。3年の先輩たちが振り付け教えてくれるんだから、楽勝だって!」
「……勝手に決めるなよ」
「決定事項だ!みんなもいいよな」
「異議なーし!」
僕の抗議は完全に無視され、ヒロキングの強引な勧誘によって、彼の応援合戦参加が確定したのだった。
「……やれやれ」
体育祭と仮装行列の準備が始まった。
明日の団体種目はどうなるかな。




