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第68踊 4人で緊急クエストへ

4000PV突破ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします!

ある程度クエストをこなしていると、矢野先輩、いや、ここではユーミンと呼ぼう。


ユーミンもゲームに慣れてきたのか、回避行動やカウンター攻撃などが出来るようになってきた。


もう一人前…とまではいかないにしても、十分新米ハンターとしてやっていけるレベルにはなっていた。


キメハンでは、様々な武器があるが、ユーミンは太刀を選んでいた。


太刀は初心者向けで扱いやすいと言われているが、実はコンボやタイミングが難しい武器でもある。


ユーミンはてっきり師匠と同じく弓を使うと思っていたから意外だった。


「流れるような剣筋が好き、美しい」と言っていたが、なにか美学を感じとったのだろうか。


ちなみに僕、オータムは手堅い武器ランスだ。


ランスはガードができる武器であり、事故を防ぐことができる。


そのかわり、火力が下がってしまうのがデメリットだ。


AngelArrowは弓を使っている。


すごくスタイリッシュに戦う武器だ。


「弓道部は弓でしょ2人とも!」AngelArrowこと天使先生は仰っていたが、どこも似てない。


弓のとこだけしか似てない。


弓道では矢を強化しないし、拡散、貫通、連射もしない。


ユーミンのクエストを進めていると、必ず近くにいるプレイヤーがいた。


名前は、『Saki』。


女性キャラで武器は大きなハンマーを携えていた。


新米ハンターなのだろうか、最初に貰った装備をつけていた。


ユーミンについに、緊急クエストが出現した。


それは僕がAngelArrowに助けてもらったクエスト、『鋼龍犬アイアンドッグ』だ。


モンスターの住処へ向かっていると、やはりあのプレイヤーもついてきていた。


するとメッセージが届いた。


「すいません。私もそのクエストクリア出来ないので参加させて欲しいです」


そうメッセージを送ってきたのは、『Saki』と名乗るプレイヤーだった。


僕は一瞬迷ったけれど、ユーミンのクエスト進行を手伝う目的もあるし、新米ハンター同士協力するのは悪くない。


「どうする?」とユーミンに尋ねると、彼女は即答した。


「いいんじゃない? 一緒にやりましょ」


AngelArrow──天使先生も、「新しい仲間は大歓迎です!」と明るく言う。


僕はSakiにパーティー招待を送り、彼女が加わった。


ボイスチャットをした瞬間、ふとその名前と声に引っかかるものを感じた。


どことなく演技しているような声音だったからだ。


Saki……咲乃? いや、まさかな。


Sakiが使う武器、ハンマーは大型モンスターの頭を攻撃すればスタン(気絶)を狙える武器だけど、扱いは難しい。


コンボを決めるタイミングや位置取りが重要で、初心者にはハードルが高い武器だ。


クエスト『鋼龍犬アイアンドッグ』が始まる。


目的地は雪山の奥深く。


吹雪の中、巨大な四足歩行の鋼龍犬がゆっくりと姿を現す。


全身が鋼の鎧で覆われ、ブレスを吐けば地面が凍りつく強敵だ。


「みんな、気をつけてね!」


天使先生──AngelArrowが弓を構えながら声をかける。


「う、うん……」


Sakiもハンマーを取り出したが、声音は明らかに緊張していた。


ユーミンは太刀を構え、僕はランスを盾に構える。


「行くぞ!」


まずは僕が前線に立ち、ランスのガードでブレスを防ぎながら少しずつ距離を詰める。


ユーミンも横から斬りかかり、天使先生の矢が鋼龍犬の弱点に次々と突き刺さる。


そして──Sakiの番だった。


「ええいっ!」


彼女はハンマーを振りかぶり、思い切り鋼龍犬の頭を狙う。


だが、タイミングが少し遅かった。


モンスターが動いたせいで、ハンマーの一撃は空振りし、逆に鋼龍犬の爪がSakiを直撃する。


「きゃっ……!」


可愛らしい悲鳴がボイスチャットから聞こえてきた。


──え?


僕は一瞬、自分の耳を疑った。


疑惑が確信へと変わった瞬間でもある。


「え?」


「……え?」


ユーミンも同じように驚いた声を漏らす。


「Sakiさん、大丈夫ですか?」


天使先生が優しく声をかけるが、僕とユーミンは違うところで引っかかっていた。


今、聞こえた声──


「……咲乃?」


「……っ!」


ボイスチャットの向こう側で、明らかに動揺する気配が伝わってくる。


「な、何言ってんのよ!?」


「いやいや、今の声、完全に咲乃だろ。演技忘れてるぞ」


「……気のせいじゃないでしょうか?」


「気のせいで済ませるには無理があるんだけど」


「……ち、違うわよ!」


必死に否定する声が、逆に確信を深める。


「それに咲乃、Sakiって……まんまじゃん」


「……うっ」


図星を突かれ、咲乃は沈黙した。


……が、ユーミンに噛み付いた。


「ゆ、ユーミンも!ユーミンもまんまじゃない!由美先輩でしょ!私だけじゃないわ!」


「ふふっ、なんだか可愛いですね」


「咲乃ちゃんはかわいいなぁ~」


天使先生と矢野先輩がくすくす笑う。


くすくす笑いながらもしっかり弱点に攻撃し続ける先生、流石です。


「べ、別に……!」


咲乃はしばらく黙ったあと、小さくぼそっと言った。


「……部活のときに聞いたのよ。『AngelArrow』って名前」


「え?」


「みんなを驚かせようと最初、一人でこのゲームを始めたんだけど、部活で天使先生が話してたその名前が、画面に出てたの。それで……つい、ついてきた」


「え、じゃあ最初から僕たちに気づいてたの?」


「……まぁね」


僕が驚いていると、ユーミンが「もしかして……」と何かを思い出したような顔をした。


「じゃあ、ずっと黙ってたの?」


「別に、黙ってたわけじゃ……! ただ、バレるのが面倒だっただけよ」


「でも、ボイスチャットでバレたね」


僕が笑うと、咲乃は「うるさい」とふてくされたように言った。


そんな彼女に、僕たちは思わず笑ってしまった。


またしても、スタンを狙いに行ったSakiのキャラクターが雪の上に転がり、体力ゲージが一気に減る。


「大丈夫!?」


ユーミンが回復の粉塵を投げるが、Sakiは動揺しているようだった。


「実況者みたいには……いかないわね……」


「Saki、ちょっとアドバイスいい?」


天使先生がやさしい声で話しかける。


「え? あ、はい……」


「ハンマーはね、相手の動きをよく見て、回避しながら溜めて……それから、一気に頭を狙うの!」


「は、はい!」


天使先生の指導を受けたSakiは、慎重に立ち回るようになった。


次に鋼龍犬が突進してきたとき、彼女はギリギリで回避し、溜めたハンマーを振り下ろした。


ガツンッ!!


「よしっ! スタンした!」


Sakiのハンマーが命中し、鋼龍犬がぐらつく。


「今よ!」


ユーミンが太刀で連続攻撃を仕掛け、天使先生の矢が鋼龍犬の弱点に突き刺さる。


僕もランスで弱点を突く。


そして、繰り返していくうちに、ついに──


『狩猟Complete!!』


画面に大きな文字が表示された。


「やったあ……!」


咲乃──Sakiが小さく呟いた。


「うん、よく頑張ったね!」


天使先生が優しく微笑む。


「結構動きがよくなってたよ」


僕が言うと、Sakiはふんっと鼻を鳴らした。


「べ、別に……ただ、言われたことをしただけよ」


こういうところが、いかにも彼女らしい。


「でも、楽しかったよSaki!もっと早くから言ってくれればよかったのに~」


ユーミンが笑顔で言う。


「……うん。楽しかったです」


Sakiは少し照れくさそうに頷いた。


子鳥のさえずりが聞こえ、ふと窓を見れば、夜が明けていた。



「え、もう朝!?」


ユーミンが驚いた声を上げる。


「徹夜……しちゃいましたね……」


天使先生も苦笑している。


「た、ただのゲームなのに……」


咲乃は信じられないという顔をしていた。


「ゲームって、こういうものさ」


僕は肩をすくめる。


「でも2人がゲームに熱中してるのって嬉しいですね先生」


「そうだね~!狩り友がいるのって素晴らしいね!これは毎日徹夜だよ~」


「毎日は無理ですよ先生!寝てください!」


咲乃と矢野先輩が笑いながら一緒に言う。


画面の中で共に戦った時間は、気づけば朝になるほど楽しいものだった。


こういうのも、青春なんだろうな。

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