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第66踊 休みの日は徹夜したい

夏休み前半も終わりに近づいてきた。


もうじき、体育祭・仮装行列に向けた練習が始まる。


青春の幕開けだ。


そんなことを思いながら、僕はコントローラーを握りしめた。


楽しみにしていたゲームが発売され、夜遅くまで徹夜でやっている。


ゲームのタイトルは『キメラハンター』


通称キメハン。


悪の組織が生み出したキメラモンスターを狩るアクションゲームで、シングルでも遊べるが、マルチプレイでは連携を駆使した狩りが楽しめるオープンワールドゲームだ。


「マルチか……」


友達と遊べば盛り上がるのは間違いない。


でも、僕には一緒にやる相手がいない。


ヒロキングはゲームをしないし、他の人たちに聞いてみるほどの勇気もない。


画面には、キメラモンスター『鋼龍犬アイアンドッグ』が映し出されていた。


緊急クエストで、いわゆるボスモンスターだ。


全身が鋼のような外骨格で覆われ、巨大な腕を振り回すたびに大地が震える。


「くっ……回復が……!」


すでに回復薬のストックはゼロ。


3回やられたらクエストの最初からやり直しだ。


すでに2落ちしているため、落ちる訳にはいかない。


「あともうちょい……でも、無理か……?」


その時だった。


「AngelArrow」が参戦しました。


突如、画面の端から光の矢が飛来し、僕に迫るアイアンドッグの動きを止めた。


光の矢には閃光効果があるようだ。



「!? 誰だ!?」


画面を見ると、新たなプレイヤーが参戦していた。


AngelArrow


その名が表示されるや否や、驚異的なスピードでアイアンドッグの弱点に矢を射出し始める。


攻撃の的確さ、回避の冷静さ、まさに熟練のプレイヤーの動きだった。


「す、すごい……動きに何一つ無駄がない」


僕はすぐにチャットでメッセージを送った。


『助かりました!』


すると、すぐに返事が返ってきた。


『大丈夫? かなり追い詰められてたね』


優しい言葉だが、少しだけ呆れたようなニュアンスも感じた。


「うっ……まあ、ソロだったので……」


とはいえ、この機を逃すわけにはいかない。


僕はAngelArrowと共に戦線を立て直し、アイアンドッグに挑んだ。


僕が囮になり、AngelArrowが弱点を正確に狙う。


攻撃パターンを読んで完璧に回避しつつ、隙を見て連携攻撃を叩き込む。


そして――


『狩猟Complete!!』


「……やった、倒した……!」


放心しながら画面を見る。


『よく頑張ったね! 最後の一撃、かっこよかったよ』


AngelArrowからのメッセージが画面に表示された。


それから一緒にクエストを何個か手伝ってもらった。


「ありがとうございました!勉強になりました!」


感謝を伝えると、AngelArrowは「またね」と一言だけ残してログアウトした。


あのプレイヤー、何者だったんだろう?


そんなことを考えながら、僕は画面を閉じた。


気がつけば、朝日が窓から差し込んでいた。


……やっちまったな。


徹夜明けの部活になりそうだ。


目の下にクマを作りながら、僕は弓道場に向かった。


矢野先輩と咲乃にバレないように普通を装っていたつもりだったが――


「秋渡くん、ちょっと顔色悪いね。体調大丈夫?」


「目のクマひどすぎ。もしかして徹夜?」


――即バレした。


「えっと……まあ」


「何してたの?」


「ゲーム……」


「まさか、新作の『キメラハンター』?」


「……知ってるの?」


咲乃は腕を組みながら答えた。


「やってないけど、実況とか見てるから、ちょっとは知ってる」


その後、呆れたようにため息をついた。


「で、何時までやったの?」


「気づいたら朝だった」


「はぁ!? 馬鹿じゃないの!?」


怒られた。


でも、これは仕方ない。発売日だったんだから。


「ボス戦でかなり苦戦してて、そしたらすごく上手い人が助けてくれたんだ。そのままその人ゲームしてたら朝になってた」


矢野先輩も呆れた顔をしていた。


射場には天使先生がいた。


「おはようございます」


「……おはよう、片桐くん……」


先生の様子がいつもと違う。


目の下にはうっすらクマができていて、まぶたも少し重たそうだ。


「先生、顔色悪くないですか?」


「それ、片桐くんにも言ってたよね」


咲乃が呆れた声を上げる。


天使先生は、ふっと苦笑した。


「実はね……私も、ちょっと夜更かししちゃって……」


「先生も徹夜ですか?」


先生はこほんと咳払いして、静かに告げた。


「私も、キメラハンターをやってたの」


……は?


「え、えええ!? 先生、ゲームするんですか!?」


「うん、実は狩り歴も長いベテランハンターなの」


驚きすぎて声が出ない。


ゲームとは無縁そうなイメージだったからなおさらだ。


「昨夜、すごく頑張ってる新人ハンターがいてね……ソロで徹夜してて、最後のボス戦で倒れそうになってた人が」


ん?まさか……


先生の目が、じっと僕を見つめる。


「あれ……片桐くんだったのね」


そんな偶然ありますか。


昨夜、僕を助けてくれたプレイヤー。


『AngelArrow』の正体が、まさか天使先生だったなんて……。


「片桐くん、動きは悪くなかったわ。でも、まだ甘いところがあるわね。しっかり動きを頭の中に叩き込みなさい。咆哮で身動き出来ないなんてダメよ」


「は、はあ……」


しかもしっかりガチ勢だ。


「よし、これからは部活が終わったら狩りの指導もしてあげる」


「えっ!?」


「遠慮しなくていいのよ♪」


先生は天使のような笑顔で微笑む。


こうして僕は弓道とキメハン、二つの修行を掛け持ちすることになったのだった。


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