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第65踊 いづみの妹はしっかり者?

それはいきなりのことだった。


いづみから送られてきたLINE。


「明日は18時に私の家に来てね!」


ん? なんのことだ?


僕は不思議に思い、いづみに聞いた。


「なんのこと? なんか約束してたっけ?」


すると、まるで待ち構えていたかのように即返信が来た。


「言ってなかったっけ? 河原でBBQする約束でしょ? お母さんも張り切ってるよ!」


……いや、そんな約束、僕は聞いた覚えがない。


「まったく聞いてないんだけど」


「えーっ!? 絶対言ったと思ってた! でも、もう決定だからね!」


どこか悪びれる様子もなく、むしろ楽しそうな感じすら伝わってくる。


「でも、お母さんも秋渡くんに会いたがってるし! 来ないとかナシだからね!」


そこまで言われたら、もう断る理由なんてない。


……というか、なんでお母さん、なつみさんが僕に会いたがってるんだ?


なんとなく不安になりながらも、僕は「わかったよ」とだけ返した。


翌日、約束の時間にいづみの家へ向かう。


インターホンを押すと、扉が開いた。


「あ、いらっしゃい、秋渡くん」


いづみのお母さん、なつみさんは笑顔で迎えてくれた。


「こんばんは、お邪魔します」


「今日はたくさん食べてね!」


思ったよりもずっと明るい雰囲気で、少しホッとする。


ふとなつみさんの隣を見ると、見慣れない女の子がいた。


「お姉ちゃんはまだ準備中だよ。私は妹のふゆみ。よろしくね!」


彼女はふゆみちゃんで、いづみの妹。


いづみに似た、柔らかい印象の顔立ち。

けれど、どこか落ち着いた雰囲気をまとっている。


肩口でふわりと揺れる明るい髪色は、姉と同じだけれど、ふゆみのほうが少しおとなしめな巻きがかかっている。


大きな瞳は好奇心に満ちていて、じっとこちらを見つめると、まるで内面まで見透かされているような気がした。


「よろしく、ふゆみちゃん」


「ちゃん付けしなくていいよ。私、お姉ちゃんよりしっかりしてるから」


「そうなの?」


「うん。お姉ちゃん、基本的に勢いだけで生きてるから。私はちゃんと計画的に動くタイプ!」


クスクスと笑うふゆみに、思わず僕も笑ってしまう。


「それに……秋渡くんのこと、ちょっと気になります!」


「え?」


「お姉ちゃんの友達って、みんな面白い人ばっかりだから。秋渡くんもどんな人なのかなーって」


「いや、僕は普通だよ」


「ふーん、普通……ほんとに?」


ふゆみはじーっと僕を見つめる。


その視線が妙に観察するような感じで、少し居心地が悪い。


すると、突然後ろから勢いよく扉が開いた。


「ちょっとー!!」


怒った顔のいづみが、バタバタと駆け寄ってくる。


「秋渡くん、なんで妹とそんなに仲良くなってるの!?」


「え、普通に話してただけだけど……」


「ダメーっ! もう行くよ!!」


そう言って、いづみは僕の腕を掴み、ぐいっと引っ張る。


「ちょ、ちょっと!」


「行くの!!」


ふゆみが小さく「ふふっ」と笑う声が聞こえた気がする。


ふゆみちゃんの笑顔にはほんの少しだけいたずらっぽさが混じっていた。


河原には、すでになつみさんが準備を進めていた。


食材がずらりと並び、炭火もいい感じに起こされている。


「さあ! 焼くよー!」


いづみはさっそく炭火の前に陣取り、大きな声をあげる。


「秋渡くん、お肉好きでしょ? どんどん食べて!」


「あ、ありがとう」


僕の皿にどんどん肉がのせられていく。


「秋渡くん、野菜も食べなきゃダメだよ」


ふゆみが僕の皿に、焼いたピーマンやナスをのせる。


「お姉ちゃんはこういうところ雑だからね」


「いいの! お肉食べてれば幸せだから!」


「……秋渡くんは?」


「え?」


「お姉ちゃんみたいに、お肉ばっかりがいい?」


「いや、野菜も好きだけど……」


「ほらね?」


ふゆみが得意げに笑う。


「じゃあ、秋渡くんには私が焼いた野菜をあげるね」


「ありがとう、ふゆみちゃん」


「ふゆみでいいですよ。秋渡くん」


「ちょ、ちょっと!?」


いづみがバッと僕の皿を見て、眉をひそめる。


「ふゆみが焼いた野菜食べるの!? ていうか、いつからそんなに仲良くなったの!?」


「いや、別に普通の会話だろ?」


「ダメー! 秋渡くんは、私が焼いたのを食べるの!」


そう言って、さらに僕の皿に肉をのせる。


「もうお皿いっぱいだけど……」


「いいから! ほら、熱いうちに!」


あまりの勢いに、仕方なく口に運ぶ。


「お姉ちゃん、嫉妬してるの?」


「し、してないし!!」


「顔真っ赤だよ?」


「してないってばー!!」


そう言いながら、いづみは僕にどんどん肉を食べさせようとする。


ふゆみはそんな様子を見て、にやりと笑う。


「秋渡くん、私も……気になります!」


「え?」


「ううん、なんでもない! でも、お姉ちゃんと同じくらい、秋渡くんのこと知りたくなってきたかも!」


「ちょっと! ふゆみ、変なこと言わないで!」


「ふふっ」


ふゆみはいたずらっぽく笑い、僕の方をじっと見つめる。


これはいづみよりずっと手強そうだ。


いづみとふゆみちゃんがわちゃわちゃしていると、なつみさんが僕の隣に座った。


「秋渡くん、いづみとは仲良くしてくれてるみたいね」


「えっと、まぁ……それなりに?」


「ふふ、いづみのこと、どう思ってるの?」


「どうって……え?」


いきなりの質問に、僕は思わず固まる。


「ほら、いづみって元気が良すぎるから、迷惑かけてないか心配でね」


「あぁ、それは大丈夫です。確かに勢いはすごいですけど、一緒にいて退屈しないというか……」


「ふふっ、それなら良かった。でもね、あの子、不器用だから……」


「不器用?」


「好きな子には素直になれないタイプなのよ」


「えっ……?」


お母さんは意味深な笑みを浮かべる。


「まぁ、あまり意地悪しないであげてね。何か困ってたら力になってあげて。あの子、困ってても表には出さないから」


そう言って、お母さんは僕の皿に追加で肉をのせた。


「それより、秋渡くん。ふゆみのことはどう?」


「え、ふゆみちゃん?」


「あの子、姉が好きなものは何でも気になっちゃう性格だから。秋渡くんのことも、気になってるんじゃないかしら?」


「……えぇ?」


ふゆみを見ると、ニコッと意味深な笑みを浮かべていた。


……なんだか、今日はずっと食べさせられてる気がする。


BBQが終わる頃には、僕はすっかり満腹になっていた。


「今日は楽しかったよ」


「えへへ、でしょ?」


いづみは無邪気に笑う。


「でも、ふゆみちゃん、しっかりしてていい妹だね」


「うっ……」


いづみの顔が一瞬、曇る。


「そ、そっちのほうがよかった?」


「え?」


「もう! なんでもない!」


ぷいっとそっぽを向いたいづみの耳が、ほんのり赤く染まっていた。


「またBBQしようね!」


そう言って僕の腕に軽くしがみつくいづみの姿は、いつも以上に無邪気で――どこか、可愛らしく見えた。



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