第62踊 夏だ!海だ!水着の女の子だ!
海水浴場はまるで、夏の魔法がかかったような場所だった。
瀬戸内海の穏やかな波が、キラキラと光る砂浜を優しく撫でる。
遠くに見えるのは、長く伸びる赤い大きな橋。
その赤いシルエットが、まるで物語の舞台装置のように夏空に映える。
海の家では、潮風に乗って焼きそばの香ばしい匂いが漂い、冷たいかき氷のシロップが陽の光を受けて宝石みたいに輝いている。
どこからか聞こえてくる楽しげな笑い声。
水しぶきを上げながら無邪気に遊ぶ子どもたち。
その光景をぼんやりと眺めていると、まるで時間がゆっくり流れているような感覚に陥る。
優しくてどこかノスタルジックな海だ。
僕たちはついに海へと到着した。
「おー! めっちゃ綺麗じゃん!」
興奮気味に声を上げたのはヒロキング。
普段は少し理屈っぽいくせに、こういうときは年相応の反応をするのが彼らしい。
一方、僕はというと――。
「……長いな」
視線を向けたのは、さっきから女性更衣室にこもっている女子たち。
着替え終わるのを、僕とヒロキングはこうして待たされている。
「まあまあ、女の子の支度には時間がかかるもんだぜ?」
「そういうものなのか……」
「そういうものなんだよ」
言いながら、ヒロキングは砂浜に腰を下ろす。
僕も隣に座り、波打ち際を眺めること数分――。
「――お待たせ!」
ぱあっと視界が開けたように、華やかな水着姿の少女たちが現れた。
まず目を引いたのは、宮本いづみの黒のビキニ。
白い肌に映える黒色は、どこか大人びた雰囲気を醸し出している。
普段の元気な印象とは違い、無駄のないシンプルなデザインが彼女のスタイルの良さを引き立てていた。
「……どう? 変じゃない?」
少し照れたように腕を組む仕草が、妙に色っぽい。
「似合ってるよ」
「へへっ、ありがと」
「おー、意外と大胆じゃん!」
「ヒロキング、うるさい」
次に目を引いたのは、平野佳奈。
ネイビー×ホワイトのツートンカラーのビキニ。
トップスはスポーツブラ風のデザインで、肩紐がクロスしている。
引き締まった腹筋がくっきりと見えて、スポーティながら女性らしさも感じさせる。
……しかし、それだけじゃない。
ボトムスはややローライズ気味で、太ももや骨盤のラインを強調するカッティング。
さらに、日焼け跡が妙に色っぽい。
ショートパンツやユニフォームのラインがくっきり残った肌のコントラストが目を引く。
「どう?エロかわいいでしょ?」
「佳奈によく似合ってるよ」
「そ、そっか!」
やたら嬉しそうな顔をするのが、なんとも佳奈らしい。
「いやエロい」
「ヒロキングには求めてないから」
ヒロキングの扱いが雑いのも佳奈らしい。
そして、高塚咲乃。
淡いピンクのワンピース水着。
胸元の小さなリボンと、スカート部分の何重にも重なったフリル。
肩紐もリボンで結ぶタイプで、細い肩と華奢な鎖骨が際立っていた。
「……咲乃も可愛いね」
「っ!」
僕の言葉に、咲乃は一瞬固まり――。
「~~っ! ちょっと見すぎ! 蹴るわよ!」
「いや、今のは褒めただけで――痛っ!」
容赦ない足蹴りが、僕の脛を襲った。
そして、先輩たちも続けて姿を現す。
上野さんの水着は、シンプルなネイビーのワンピースタイプ。
フリルや装飾は一切なく、落ち着いた色合いが彼女の知的な雰囲気にぴったりだった。
とはいえ、ウエスト部分には控えめなカットが入っていて、上品な色気を感じさせるデザインだ。
「うん、やっぱりこういうのが落ち着くわね」
さらりと髪をかき上げる仕草が、妙に大人っぽい。
「上野さん、最高です!」
ヒロキングがやたら褒めちぎってた。
天使先生は黒のワンピース水着。
シンプルながらもスリットが入り、長い脚のラインがさりげなく強調されている。
「ふふ、どうかしら?」
「先生、普通に綺麗ですね……」
「うふふ、ありがとう」
さらっと受け流すあたり、やっぱり大人だ。
そして、矢野先輩――。
……いや、ラッシュガードを羽織っているせいで、他の人に比べて水着感がまるでない。
「……矢野先輩、水着じゃないんですか?」
「き、着てるけど……その……」
目を伏せ、もじもじしている。
部活中の凛々しい姿はそこにはなく、女の子だった。
「恥ずかしい……」
「恥ずかしい?」
疑問に思ったのも束の間――。
「はい、せーの!」
「えっ!? ちょっ……先生、何を――!?」
天使先生が背後から矢野先輩のラッシュガードの裾をつかみ、一気に引き上げた。
「や、やめ……っ!」
ひらりと布が取り払われ、白のビキニが露わになる。
「…………」
「…………」
僕とヒロキング、いや周囲の視線が固まった。
シンプルなデザインのはずなのに、いや、だからこそか。
ぴったりとした生地が体のラインにフィットし、弓道部仕込みの引き締まったウエストやしなやかな曲線を存分に際立たせている。
……そして何より、そのボリューム感。
普段は着痩せするタイプなのだろう。
圧倒的な存在感を放っていた。
「…………」
「……っ!!!」
矢野先輩は顔を真っ赤に染め、慌ててラッシュガードを取り戻そうとするが、天使先生はにこにこと微笑むばかり。
「せっかくの海なんですから、日焼けしない程度には開放的にならないと♪」
「そ、それは……!」
「それに、せっかく可愛いのに隠しちゃうなんてもったいないですよ?」
「~~~~っ!!!」
矢野先輩の耳まで赤く染まり、ついには顔を伏せてしまった。
「……ヒロキング」
「……最高」
「お前、上野さんに嫌われるぞ」
ヒロキングの満面の笑みに、僕は思わずため息をついた。
もちろん上野さんに脇腹をつねられていた。
「聞いてないわよあの胸…」
「私よりある…」
「私のエロがかすむ…」
咲乃、いづみ、佳奈がボソボソと何か呟いていた。
「さーて! それじゃあ楽しもうか!」
先生の掛け声で、僕たちは波打ち際へと駆け出した。
こうして、僕たちの海での一日は始まった。
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