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第58踊 恋愛映画を一緒に見ると意識してしまう

「秋渡くんはもしかして今帰り?」


「…ああ、そうだよ」


駅近くの交差点。


向かい側に立っていた宮本いづみが、僕に気づいて手を振る。


彼女の手にはスーパーの袋がぶら下がっていた。


僕は信号が青になるのを待ってから、いづみのほうへと歩み寄る。


「買い物帰り?」


「うん。お母さんに頼まれてね。秋渡くんは?」


「普通に帰るところ」


すると、いづみは何か思いついたように、スーパーの袋を軽く持ち上げた。


「ねえ、どうせなら私の家で遊んでく?」


唐突な提案に、一瞬思考が止まる。


「え? いづみの家?」


「そうそう。ちょうどお菓子も買ったし、飲み物もあるし! ほら、うちの家、学校から近いしね?」


そう言われればそうだ。


彼女の家はこの交差点を曲がった先の住宅街にある。


時間もあるし、断る理由もない。


「じゃあ、少しだけお邪魔しようかな」


「やった! それじゃ、こっちこっち!」


いづみは嬉しそうに僕の手を引いて歩き出す。


スーパーの袋が軽く揺れ、彼女の髪もふわりと揺れた。


「いらっしゃーい!」


いづみの家に入ると、ほんのり甘い香りが漂っていた。


どこか落ち着く匂い。


「お邪魔します」


リビングには家族の姿はなく、静かだった。


「お母さんは?」


「急に仕事が入ったみたい」


つまり、今この家には僕といづみの二人きり…?


「な、なんか、緊張するな…」


「なに言ってるの? ほら、適当に座ってて」


僕は言われるがままにソファに腰を下ろす。


いづみはスーパーの袋をキッチンに持って行き、ほどなくしてお菓子とジュースを持って戻ってきた。


「はい、どうぞ!」


「ありがとう」


いづみは僕の隣にちょこんと座ると、ポテトチップスの袋を開けた。


「はい、秋渡くんも食べていいよ」


「うん…って、なんで僕の口元に差し出すの?」


「せっかくだから、あーんしてあげようと思って!」


悪戯っぽく笑ういづみに、思わず視線をそらす。


「いや、自分で食べるから…」


「えー、つまんないの」


いづみは口を尖らせながらも、ポテチを自分でぱくりと食べる。


「……まあ、いづみの家に来るのって、久しぶりだな」


「そうだっけ? 私は秋渡くんとこうしておしゃべりするの、結構好きだけどなー」


さらっとそんなことを言うから、心臓に悪い。


「…まあ、僕も嫌いじゃないけど」


「あはは、素直じゃないね」


いづみはクスクス笑いながら、テレビのリモコンを手に取った。


「せっかくだし、映画でも観る?」


そう言って、彼女は適当に恋愛映画を選ぶ。


僕は少し迷ったが、せっかくの機会だし、付き合うことにした。


映画が進むにつれて、僕たちは次第にソファのクッションにもたれかかり、自然と距離が縮まる。


気づけば、いづみの肩が僕の腕に触れるくらいの距離になっていた。


「……」


「……」


意識しないようにしても、心臓がやたらとうるさい。


いづみは気にしていないのか、映画に集中しているようだが…。


ふと、彼女がこっちを見上げた。


「秋渡くん?」


「え、な、なに?」


「…なんか、顔赤くない?」


そんなこと言われたら、余計に意識してしまうじゃないか。


「べ、別に」


「ふーん?」


にやりと笑ういづみ。


絶対にわざとだ。


ならばこっちも仕返ししてやりたい。


「俺はお前のこと大切に思ってるよ」


「えっ……」


「さっき映画のセリフだよ。ふふっ、なんか、顔赤くない?」


「……バカ」


なぜ僕はバカにされたのだろうか。


それ以降いづみはなかなか口を聞いてはくれなかった。


そんなこんなで時間が過ぎ、いづみの機嫌も治っていた。


そろそろ帰ろうと立ち上がる。


「今日は楽しかったよ」


「ふふ、私も! また遊ぼうね」


家を出て、夕焼けに染まる街を歩きながら、スマホを取り出す。


すると、グループLINEに新しいメッセージが。


『今日はありがとう秋渡くん!』


一瞬、僕の指が止まる。


……グループLINE?


気づいた瞬間、いづみから「ちょっと待って!!」というメッセージが飛んでくる。


次の瞬間、佳奈から


『あらあら2人ともこっそりやってんねー』


『私たち誘われてないよ?ねぇ咲乃?』


矢継ぎ早にメッセージが送られてくる。


咲乃からも返信が来た。


『聞いてないわよ秋渡!私がいないからって調子に乗ってないでしょうね!』


『いづみ!後でお話があります!』


咲乃は用事があったんじゃなかったか……ってそんなこと言ったら余計に怒られそうだ。


これは…しばらく、いづみはいじられることになるだろう。


ヒロキングは、ただひとこと


『青春してんな~』


お前が1番青春してるよヒロキング。


僕は、そっとスマホをポケットにしまった。


夏休みはまだ始まったばかりだ。


みんなで海へ行く予定も立てないとな。

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