第51踊 勉強会は恋の予感とともに
期末テストを一週間後に控えた放課後。
僕たちは教室に集まり、勉強会を開いていた。
メンバーはいつものヒロキングと咲乃、そして今回から上野さんも参加している。
いづみと佳奈は教科が違いすぎるため別で勉強することになった。
「えーっと、これは『係り結びの法則』だから……ほら、咲乃ちゃん、ここ『こそ』があるでしょ? だから、文末が連体形になるの」
上野さんが咲乃のノートを指しながら優しく解説する。
普段はクールで人を寄せ付けない雰囲気の咲乃だけど、勉強のときは意外と素直だった。
「へえ、そうなんだ……なんか分かった気がする」
「偉い偉い♪ ちゃんと理解してるね!」
上野さんは満面の笑みで咲乃の頭をポンポンと撫でる。
小柄な彼女は頭を撫でられるのに慣れていないのか、微妙な表情を浮かべていた。
「……子ども扱いしないで」
「えー、だって可愛いんだもん」
「……っ!」
咲乃がむすっとしながら頬を膨らませる。
その仕草が妙に可愛らしくて、思わず笑ってしまった。
「何笑ってんのよ、秋渡」
「いや、別に……」
まったく、勉強会だというのに、なんだかんだで賑やかだった。
さて、ヒロキングといえば……
「おーい、上野さん、次の問題、これ解ける?」
「あ、それね? えっとね、これは……」
いつもの調子でヒロキングが上野さんに話しかけるのだが、妙に距離が近い。
上野さんもまんざらではないのか、顔を少し赤くしながら説明している。
勉強しろよ、お前ら……
こっちは古文やら歴史やらに四苦八苦してるのに、ヒロキングはどこか余裕の表情だった。
もともと頭のいい彼は、理系科目だけでなく文系科目もそこそこできる。
だからこそ、勉強の合間にちょいちょい上野さんとイチャつく時間を挟んでいる。
「はい、ここ大事だから、ちゃんと覚えてね?」
「お、おう……サンキュー、上野さん」
「もう、そんなことで照れないでよ」
「べ、別に照れてねーし」
いや、めっちゃ照れてる。
一体僕たちは何を見せられているのだろうか。
ちらっと咲乃の方を見ると、彼女も呆れたようにため息をついていた。
「ヒロキング、勉強しなさいよ」
「いや、俺は大丈夫だって。すでに仕上がってるからな」
「……ほんとかなぁ」
そんなやり取りを横目に、僕は淡々と問題を解いていった。
そして迎えた試験本番。
対策をしっかりしていたおかげか、そこまで難しいとは感じなかった。
特に文系科目は、上野さんの助けが大きかったと思う。
試験が終わった直後、廊下に出ると、ちょうどヒロキングと鉢合わせた。
「秋渡~、終わった~!」
「お疲れ。どうだった?」
「……聞くな」
ヒロキングは頭を抱えながら、その場にしゃがみ込んだ。
「古文、やばかった……。上野さんに教えてもらったとこ、ちゃんと出たのに、試験中に別のこと考えてて飛んだ……!」
「別のこと?」
「いや、その……上野さんの横顔がさ、試験中にふっと浮かんで、それからずっと頭から離れなくなって……」
「……お前、それは自業自得だろ」
僕が呆れた声を出すと、ちょうどそのタイミングで咲乃と上野さんが合流してきた。
「お疲れ~! どうだった?」
「咲乃は?」
「まぁまぁね。たぶん、上位はいけると思う」
「私はバッチリ! ほぼ満点いけるかも!」
上野さんは自信満々に笑う。
さすが文系科目を得意としてる上野さんだ。
その一方で、ヒロキングはさっきの発言を聞かれたのか、なんとなくバツの悪そうな顔をしている。
「……上野さん、すまん。俺、試験中にお前の顔しか思い出せなかった」
「なにそれ、新手の告白?2人も見てるからやめてよ」
「違う!!!」
ヒロキングの即答に、僕と咲乃は笑いを堪えきれなかった。
「まったく、バカなんだから……」
咲乃が呆れながら肩をすくめる。
僕も苦笑しながらその様子を眺めていると、ふいに咲乃が僕の袖をちょんと引っ張った。
「な、何?」
「……別に」
「いや、何かあるでしょ?」
「だから別に」
そう言いながらも、咲乃は袖を離そうとしない。
なんとなく拗ねたような態度に、思わず苦笑してしまった。
これ、もしかして嫉妬してるのか?
いや、まさか。
咲乃がそんなことをするわけないか。
「秋渡、ちょっと付き合いなさい」
「え、どこに?」
「いいから」
そう言って、彼女は僕の腕をぐいっと引っ張る。
そのままどこかへと連れて行かれそうになり、僕は思わず上野さんに助けを求めるように視線を送ったが、彼女はくすっと笑って手を振るだけだった。
「……行ってらっしゃい」
なんか色々と釈然としないが、僕は抵抗する間もなく咲乃に引っ張られていくのだった。
……まったく、期末テスト初日が終わったと思ったら、今度は別の問題が出てきそうな予感がする。




