表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/133

第47踊 小動物とお姫様たち


燦々と輝く太陽が窓から差し込み、教室の中はじめっとした空気に包まれていた。


梅雨が明け、ようやく夏が訪れた。


季節の変わり目に胸が高鳴るのはいつものことだが、夏は特に忙しい。


期末テストを乗り越えた先には夏休み、そして体育祭が待っている。


例年、夏休みの後半から体育祭の練習が始まり、男子は応援合戦、女子は創作ダンスと、チームの団結を深めるために汗を流す。


3年生が主体となって進行するため、1.2年生はそのサポート役として動く形だ。


体育祭は2日あり、それに先立つ初日には仮装行列がある。


仮装行列は、全学年が一丸となって取り組む特別なイベントだ。


「それじゃあ、なにか意見がある人?」


教壇に立つのは学級委員のヒロキング。


隣には同じく学級委員の上野さん。


二人は学校中で知られるカップルで、司会進行の様子からも息ぴったりなのが分かる。


今日の議題は、体育祭の初日に行われる仮装行列のテーマ決めだ。


全クラスが仮装して街を練り歩くのが恒例行事で、毎年かなり盛り上がるらしい。


これに参加したいために藤樹高校を選ぶ生徒もいるとのことだ。


「じゃあ、ヒーローとかどう?」


教室後方から声が上がる。


最初の提案に、ちらほらと男子から賛同の声が上がった。


「ヒーローか……女子の衣装が難しいかもね」


上野さんの指摘に、教室中が「なるほど」とうなずく。


男子が熱くなりそうなテーマだけど、全員参加となると難しいかもしれない。


「じゃあ、動物園とかどう?」


次に挙がったのはクラスでも大人しめの中野さんの提案。


「動物園か。それなら衣装は動物をモチーフにする感じかな?」


ヒロキングが確認すると、中野さんは力強く頷いた。


「はい! 動物の耳とか尻尾をつけるだけでもそれっぽくなるし、男女問わず楽しめると思います」


彼女の意見に、少しずつ賛同の声が上がる。


「じゃあ、賛同多数ということで、動物園にしよう!」


ヒロキングがまとめ、テーマは「動物園」に決定した。


ただし、実際に動物園にいる動物限定という条件付きだ。


昼休み、中庭でいつものメンバーでお弁当を広げる。


といっても最近はヒロキングは上野さんと食べてるからいないのだけども。


いづみと佳奈たちのクラスもテーマが決まったらしい。


「ねえねえ、2組は動物園なんだって?」


いづみがニヤニヤしながら聞いてくる。


「ああ。無難に動物園になったよ。そっちは?」


「メルヘン!」


「メルヘン……って、どういう感じなんだ?」


「たとえばお姫様とか妖精とか、夢の国っぽい感じね!」


佳奈が楽しそうに答える。


隣でいづみが少し誇らしげに付け加えた。


「動物園なんて地味すぎない? メルヘンのほうが絶対可愛いよ」


「いやいや、動物園だって悪くないだろ。みんなでワイワイやれるし」


「でも、お姫様とか王子様に憧れないの? 例えば、咲乃ちゃんなら絶対お姫様やりたいタイプだと思うけど?」


いづみがからかうように言うと、隣で黙々と弁当を食べていた咲乃が箸を止めた。


「別に。私はそういうの興味ないから」


「へぇ、ほんとに?私が秋渡くんのお姫様になっちゃうよ?」


「ダメよ!それとこれとは話が別よ」


このふたりは一体何の話をしているんだろうか。


すると、突然佳奈から話を振られた。


「秋渡はなんの動物やるの?あー、えちぎりだから狼か!男はみんなケダモノだもんねぇ」


「おい!いや、まだ決めてないけど……キリンとかどうだろう?」


「キリン!? 似合わなすぎでしょ!」


佳奈が吹き出し、いづみと咲乃もつられて笑い出す。


「じゃあ咲乃は何やるんだよ?」


「私は……レッサーパンダとか?」


「小動物すぎる!それならハムスターでいいんじゃないか?」


「誰がハムスターよ!」


咲乃はムッとした顔をして俺の足を軽く蹴る。


これもいつものやり取りだ。


軽くでも普通に痛いのが咲乃クオリティ。


「でも、メルヘンと動物園って、クラス同士で個性出るよな」


俺が言うと、いづみが得意げにうなずく。


「そうだね!ほかのクラスは何をやるんだろ?秋渡くんもこっちに来ればよかったのにね」


「いや、勝手にクラス替えさせるなよ」


笑い合いながら、昼休みは過ぎていった。


部活終わり、咲乃と二人で帰っていると彼女がぼそっとつぶやいた。


「ねえ、秋渡って本当にキリンにするの?」


「いや、まだ決めてない。お前こそ、レッサーパンダ本気でやるのか?」


「……わかんない。でも、やっぱり何か動物園っぽいのがいいよね」


咲乃の横顔が少しだけ真剣そうに見えた。


「……でもさ、もしレッサーパンダの衣装、うまくできたら、ちょっと褒めてよね」


「なんで僕が?」


「だって……あんた、そういうのちゃんと評価してくれそうだから」


小さな声でつぶやく咲乃に、俺は少しだけ胸がざわついた。


「……まぁ、お前がちゃんとやるなら、褒めてやるよ」


「……へぇ。じゃあ、期待してて」


そう言って咲乃は少しだけ嬉しそうに笑った。


その笑顔を見て、俺も自然と口元が緩む。


期末テストが終われば、いよいよ衣装作りが本格化する。


メルヘンなクラスに負けないくらい、僕たちの動物園も絶対に面白いものにするぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ