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第45踊 ヒロキングの恋は突然に


「でも、私も……秋渡くんとだったら、ちょっとデートしてみたいかな」


いづみの言葉に、僕は完全に固まった。


冗談っぽく言ったのではなく、本音が漏れたような感じがした。


その一言は、不意打ちのように僕の心を揺さぶる。


ドクン、と心音がひときわ大きく響き、体が熱くなるのが分かった。


いづみ自身は、まだ自分が何を言ったのか完全には理解していないようで、どこかぼんやりとした表情をしている。


「ちょっと! 私もいるんだけど! マジっぽいの禁止!」


隣に座る佳奈の声で、いづみがようやくハッと我に返った。


「…冗談だよ冗談!」


慌てた様子で手をぶんぶん振り、顔を赤く染めるいづみ。


その動揺ぶりを見て、佳奈はじとーっと僕たちを交互に見つめたあと、「そういうことにしといてあげる」と口を尖らせて言った。


僕は、内心安堵しながらも、この微妙な空気にどう対処すればいいのか分からず黙り込む。


すると佳奈がいきなり僕の足を蹴ってきた。


「咲乃がいたら、きっとこうしてたから」


理不尽な言い訳だったが、彼女が楽しそうに笑っていたので怒る気も起きない。


佳奈はそのままベンチに腰掛け直し、足をぶらぶらさせながら、ぽつりと呟いた。


「ヒロキングはやっぱりデートしてたのかな?」


「ん? 俺がどうした?」


佳奈が驚く間もなく、いきなりヒロキングが現れた。


予想外の登場に佳奈はベンチから飛び起き、転びそうになってしまう。


僕は咄嗟に彼女の腕を掴み、引き寄せた。


「よっと、危なかったな」


抱きかかえるような形になった佳奈は、目をぱちぱちさせたあと、みるみる顔を赤く染めて俯いた。


「えっと、秋渡……はずい」


その様子に僕も動揺し、慌てて佳奈を引き剥がした。


佳奈はそっぽを向きながら、小さな声で「…ありがと」と呟いた。


「悪い悪い! てか、お前たちの方が青春してんじゃん!」


ヒロキングがそんな風に茶化して笑うのを見て、佳奈は顔は赤いままだが、ふくれっ面になりながらも反論した。


「別にそんなんじゃないってば!」


しかしヒロキングはその言葉を軽く流し、おもむろに尋ねた。


「で、平野。なんで俺を付け回してたのかな?」


その言葉に、佳奈は顔を引きつらせた。


「え、えっと……その……興味本位、というか……!」


明らかに動揺している佳奈を見て、ヒロキングは肩をすくめて笑った。


「まあ、隠すほどのことでもないけどな。俺、クラスマッチの後ぐらいから上野さんと付き合うことになったんだよ」


突然の告白に、僕も佳奈もいづみも思わず「えっ!?」と声を揃えてしまった。


「上野さんって、あのメガネの?」


佳奈が驚きつつ問いかけると、ヒロキングは満面の笑みを浮かべながら頷いた。


「そう、あの上野さん。すごく優しくて素敵な子なんだよ。俺のことをちゃんと見てくれてるっていうかさ」


その言葉を聞いた佳奈は、複雑そうな表情を浮かべながらも何か納得したように頷いた。


「片桐、お前も早く見つけろよ、好きな相手」


ヒロキングの余計な一言に、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。


すると佳奈が「そういうことは本人の前で言わない!」とヒロキングを小突いて抗議する。


その日の帰り道、佳奈は「フェアじゃないから」と言って、咲乃にも今日の出来事をLINEで報告するつもりだと笑った。


そして、月曜日。


学校に行くと、ヒロキングの周りには人だかりができていた。


どうやら週末に上野さんとのデートを目撃されていたらしい。


「マジかよ、ヒロキング、上野さんと?」


「どこでデートしたんだよ?」


クラスメイトたちの質問攻めにも、ヒロキングは終始笑顔だった。


一方、上野さんも女の子たちに囲まれて、顔を真っ赤にしていた。


よく見ると、いつものメガネではなくコンタクトに変わっていて、そのギャップも相まって非常に可愛らしく見える。


「あれ、上野さん、可愛いよね?」


「なんか雰囲気変わった!」


周りの評価が急上昇している上野さんを見て、僕は「人はこうも変わるものなんだな」と感心していた。


そんな中、咲乃が僕の隣にやってきた。


「佳奈から聞いたわよ。ヒロキングが付き合うなんて、意外だけど、上野さんなら納得かな。彼女、ちゃんと人の本質を見抜けるから」


咲乃の冷静な分析に僕も頷く。


確かに、上野さんの優しい性格なら、ヒロキングをしっかり支えられるだろう。


「でも、これからヒロキングがもっと調子に乗らないといいけどね」


咲乃はそう言いながらも、どこか楽しそうに微笑んでいた。


ヒロキングと上野さんの恋が、僕たちの関係にも少なからず影響を与えていくのだろう。


そんな予感を胸に、僕たちはそれぞれの日常へと戻っていった。

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