第44踊 休日の追跡劇は恋の始まり?
中間テストが終わり、久しぶりに迎えた休日。
午前中は部活動で汗を流し、午後は自由な時間を満喫するつもりだった。
弓道部では、大会を控えた先輩たちがテスト期間中も弓を自宅に持ち帰って練習を続けていたようで、全くブランクを感じさせない仕上がりを見せていた。
天使先生も来ていて、指導にもいつも以上に熱が入っていた。
「君たちも、この集中力を見習ってね!」
僕たち新入部員にそう激励する天使先生に促されながら、基礎練習に励んでいた。
もっとも、同じ動作を何度も繰り返していると、少し飽きが来るのも正直なところだった。
テスト明けで少し疲れているものの、部活を終えた後の爽快感は嫌いじゃない。
午後の自由な時間を迎え、僕は一人で電車に乗り、街へと出かけた。
目当てのゲームが発売された日だったのだ。
駅前の大きなショッピングモールのゲームショップへ向かい、念願の新作タイトルを手に入れる。
そのまま帰ろうと思ったが、ふと休憩したくなり、近くの某コーヒーチェーン店へと足を運んだ。
注文したアイスコーヒーを受け取り、適当な席を探していると、ふと窓際に見知った二人組の姿を見つけた。
佳奈といづみだ。
二人は何か話し込みながら、店の奥に向かってコソコソと視線を送っている。
僕は好奇心に駆られ、彼女たちに背後からこっそり近づいた。
「何してるんだ?」
声をかけると、二人は小さく悲鳴を上げた。
「秋渡くん!? 驚かせないでよ!」
「え、もしかして秋渡くんもここに誰かと?」
いづみが少し困った顔をして僕を見る。
「いや、僕は一人だけど」
そう答えると、彼女は安心したようにいつもの笑顔に戻った。
「私たちも遊びに来てたの! そしたらね、ちょっと気になるもの見つけちゃったんだ」
佳奈が声を潜めながら言う。
「気になるもの?」
僕が問い返すと、佳奈が目を輝かせながら「あそこ!」と指を差した。
その方向を見てみると、そこにはヒロキングと、同じ学級委員である上野さんが並んで座っていた。
「……あれ、上野さんだよな?」
「そう! あの二人、デートっぽくない?」
佳奈が口元を手で覆いながら、嬉しそうに囁く。
「確かに……ヒロキング、昔からモテるからなぁ」
僕が何気なくそう言うと、いづみがじっと僕を見つめた。
「秋渡くんも、ああいうことしてみたい?」
突然の質問に、僕の心臓は一気に跳ね上がった。
顔が熱くなるのを感じながら、「いや、それは……」と口ごもる。
「私は秋渡と一緒に楽しいことしたいな!」
佳奈が無邪気な笑顔を見せる。
その言葉に、僕はさらに言葉を失う。
隣ではいづみがほっぺを膨らませ、小さな声で「佳奈ちゃん、そうやってからかわないで」と呟いていた。
「でもさ、あの二人、絶対何か怪しいよね?」
佳奈が再び声を潜めながら言う。
ヒロキングと上野さんは楽しそうに話しながら席を立ち、店の外へ出ていった。
「追いかけてみようよ!」
佳奈がそう提案するのを聞き、僕は「いや、それはさすがに……」と言いかけたが、僕の抗議をよそに、佳奈といづみは足早に二人を追い始める。
結局、僕も彼女たちの後を追うことになった。
休日の賑やかな街中を、僕たちはひたすらヒロキングたちの後を追った。
ヒロキングたちは雑貨屋やカフェなどに立ち寄り、楽しげに過ごしていた。
ヒロキングはいつもの飄々とした態度ではなく、少し照れたような表情で上野さんに付き合っている。
その様子を、僕たちは少し距離を置いて観察する。
「ねぇ、これってやっぱりデートだよね?」
「まぁ、そんな雰囲気だな」
僕がそう答えると、佳奈が「やっぱりそうかぁ」と納得したように頷いた。
その時、いづみがふと足を止めた。
「秋渡くん、今度さ、私とも……」
言いかけた彼女の言葉を、僕は聞き取れなかった。
その瞬間、佳奈が「待って、見失いそう!」と叫び、僕たちは再び駆け出す羽目になったからだ。
いづみは少しむくれたような顔をして僕を見つめる。
「ねぇ、秋渡くんって……デートに憧れたりする?」
「そ、それは……」
正直に答えるべきか迷っていると、佳奈が横から「秋渡、誰とデートしたいの?」と追い打ちをかけてきた。
「誰とかそういう話じゃなくて!」
必死に弁解する僕を見て、佳奈はクスクスと笑う。
その横でいづみが小さく溜息をついているのが聞こえた。
日が暮れ始める頃、ヒロキングたちは駅へ向かう道を歩き始めた。
僕たちはここで追跡を終え、近くのベンチで一息つくことにした。
「なんか、ちょっといいなぁ」
佳奈がつぶやく。
「何が?」
「だってさ、好きな人と一緒にこういう場所に来られるなんて、夢みたいじゃん?」
「じゃあ佳奈ちゃんも誰かとデートにいきたいの?」
いづみがからかうように言う。
「そりゃあね! 秋渡、一緒にデートしてみる?」
突然の提案に、僕は慌てて首を横に振った。
「やめてくれよ、冗談は」
「ふふっ、冗談だってば」
その時、いづみが不意に口を開いた。
「でも、私も……秋渡くんとだったら、ちょっとデートしてみたいかな」
その言葉に、僕は完全に固まってしまった。




