第42踊 佳奈の魔法のドリンク
休日の勉強会は、ほとんど遊んで終わった。
でも、さすがに家に帰ってからは集中して勉強したし、テスト直前の放課後は咲乃、ヒロキングと3人でしっかり勉強した。
いづみと佳奈も一緒にやる予定だったけど、クラスの勉強会に誘われて、そっちに行くことに。
ちょっと残念そうにしていたけど、科目が違うこともあるし仕方ない。
それでも昼休みを使って、軽い勉強会を開いたりして準備を進めた。
そして迎えた中間テスト本番。
クラスの空気はピリピリしていて、誰もが最後の悪あがきに必死だ。
僕もギリギリまで教科書と参考書をにらめっこしていた。
隣のヒロキングを見ると、寝ていた。
さすが余裕の男だな。
その一方で、咲乃はクラスの女子たちに囲まれて質問攻めにされていた。
普段から頭がいいのは周知の事実だから、頼りにされるのも無理はない。
まあ、あれだけテスト前の放課後にドヤ顔で教えてくるくらいだし、さすが咲乃だな。
僕はとりあえず糖分補給をするためにラムネを1粒口に放り込んだ。
頭の働きを助けるって言うけど、効果があるのかは知らない。
たぶんプラシーボだ。
「おい、俺にも1粒くれよ」
隣からヒロキングが眠そうな目で手を伸ばしてきた。
「ほら」
僕がラムネを渡すと、彼はそれを口に放り込んだ。
次の瞬間。
「おお、すげえ! 一気に頭が冴えた!」
「は? それ本当にラムネの効果か?」
そんなくだらない会話をしているうちに、テスト開始のチャイムが鳴った。
さて、頑張るとするか。
テストがすべて終わったのは、昼過ぎだった。
「片桐、飯でも食いに行こうぜ。それから少し勉強しないか?数学が苦手でな」
「いいけど、どこ行く?」
僕とヒロキングがそんな話をしていると、咲乃が近づいてきた。
「2人ともお疲れ様。早くご飯行こ。あそこ混んじゃうから」
「あそこって?」
「決まってるじゃない。こういうときはファミレスよ」
咲乃に連れられて、僕たちは学校から少し離れたチェーン店のファミレスにやってきた。
咲乃の言うとうり、混んでいる。
学生たちが集まっているせいで、店内はほぼ満席だった。
「やっぱり混んでるわね……」
咲乃がそう呟いたそのとき、どこかで聞き覚えのある声がした。
「そこのお嬢さん、ひとりですか? よかったら……」
「佳奈ちゃん、それ絶対引かれるやつだって!」
「えー、ノリ悪いなあ」
振り返ると、いづみと佳奈がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「何やってんの、あんたたち……」
咲乃が呆れた声を漏らす。
「いや、テストの反省会でもしようかなって話してたら、2人の姿が見えたからさ」
「おっ、俺のオーラが強すぎて見えなかったか?」
「ヒロキング、いづみにスルーされてるぞ」
「無視しないで!?」
結局、混んでいることもあって、僕たちはいづみたちと相席することにした。
テストの感想を話しながら食事を待つことになった。
「思ったより簡単だったわね」
「おう。暗記でなんとかなった感じだな」
「僕は英語の長文がちょっと微妙だったけど。天使がどうのこうのってやつ」
「……は?」
咲乃が怪訝な顔をする。
いづみと佳奈はそもそも何の話?って顔をしていた。
それはそれで問題じゃないか?
「あれ、‘天使’の話だろ?」
「バカ。‘angle’よ。角度の話!」
咲乃が呆れ顔で言い放つと、ヒロキングが肩をすくめた。
「おい片桐、英語やばくないか?」
「……言うな。自覚はしてる」
いづみと佳奈はそんな僕を励ますように笑ってきた。
「大丈夫だよ、秋渡くん! 私たちがいるから!」
「そうそう、頼りなさい!」
いや、そっち側の住人になる気はないんだけど。
そんなこんなでご飯が届き、一同食事を始めた。
佳奈がドリンクバーで不気味な色の飲み物を作ってくる以外は、平和だった。
「咲乃、はいどうぞ」
「なにこれ……無理。絶対飲まない」
「じゃあ私の勝ちってことでいいかな?」
「……は?」
佳奈の挑発に咲乃の目が光る。
「飲むわよ。その言葉、後悔させてあげるわ」
言いながら咲乃は、謎のドリンクを一気に飲み干した。
次の瞬間、バタンとテーブルに突っ伏す。
「……佳奈のくせに……やるわね……」
「フッ、先手必勝、一撃必殺!私の勝ちだよ!」
「……食べ物で遊ぶなよ、バカ2人が」
ヒロキングが意外と真っ当なことを言っていた。
その後、いづみたちと別れた僕と咲乃、ヒロキングは図書館に向かった。
いづみと佳奈は明日のテストは僕たちと別科目らしく2人で勉強するらしい。
佳奈の飲み物で弱っていた咲乃も帰る頃には元気になっていた。
テストより佳奈への仕返しに燃えていた。
佳奈、咲乃の仕返しは怖そうだ。
明日でテストも終わる。
ラストスパート、頑張らないとな。




