第41踊 大乱闘 ゆるキャラブラザーズ
前日、全力で料理対決を繰り広げた僕たち。
その結果、ほとんど勉強しなかったことに気づき、いづみの家で再び勉強会をすることになった。
……はずだったんだけど……どこで間違えた。
それは、佳奈のひとことから始まった。
「少しゲームでもして息抜きしない?」
そういいながら取り出したのはマイテンドーの人気ソフト「大乱闘 ゆるキャラブラザーズ」だ。
その名の通り、ゆるキャラたちを使ってバトルする人気ゲームだ。
ゆるキャラ同士がバトルするゲームで、佳奈の愛用ソフトらしい。
4人対戦ができるということで、リビングのテレビに繋いでゲームを始めることに。
「佳奈、コントローラー足りなくない?」
「大丈夫! 持ってきてるから!」
……最初から遊ぶ気満々だったらしい。
ヒロキングは、最初は見学するということで、佳奈、いづみ、咲乃、僕でバトルすることに。
簡単に佳奈がやり方を教えてくれてから、対戦を始めた。
佳奈はLINEのアイコンにもしている「かなまる」という忍者のゆるキャラを選択していた。
いづみは「イヌヌワン」という可愛い子犬のゆるキャラだ。
咲乃は「キャッアイ」という黒猫のゆるキャラだ。
僕は「めがねっち」というメガネをかけたゆるキャラだ。
ステージは洋風なお城を背景にしたところを選択してバトルを開始した。
ストックなしの、やられた終わりのバトルだ。
「こういうのは先手必勝だよ!」
いづみがそう告げると同時に「イヌヌワン」が「かなまる」目掛けて突貫して言った。
「甘いね、いづみ」
佳奈が余裕たっぷりに言い放つと同時に、「かなまる」は俊敏な動きでステージを駆け回り、いづみの「イヌヌワン」の攻撃を軽々とかわす。
隙を見て強烈な一撃をお見舞いすると、いづみは焦った声を上げた。
「な、なんでこんなに強いのよ!」
「こういうのはね、日々の鍛錬が大事なの。遊びでも手を抜いちゃいけないんだよ~」
佳奈が言いながら、「かなまる」を駆使してさらに追い打ちをかける。
いづみのキャラは見る見る体力を削られ、ついに画面外に吹っ飛ばされた。
「うわぁ!やられた!」
コントローラーを握るいづみは悔しそうに唇を噛むが、佳奈は余裕の笑みを浮かべるばかりだった。
「ちょっと、咲乃ちゃん、秋渡くん!仇をとってよ!」
負けた悔しさを露わにしたいづみがこちらに向かって叫ぶ。
「仕方ないな。咲乃、協力してくれる?」
僕が提案すると、咲乃は小さく溜息をつきながらも頷いた。
「いいわ。私もこのまま佳奈に好き放題されるのは気に食わないからね」
こうして、咲乃と僕のキャラは連携を取りながら、佳奈の「かなまる」に立ち向かうことになった。
僕の「めがねっち」は、慎重に距離を取りながら相手の隙を狙うタイプ。
一方、咲乃の「キャッアイ」はスピードとテクニックに優れたキャラで、佳奈の「かなまる」と同じタイプだ。
果敢に攻撃を仕掛けていく。
「おっと、やるじゃん咲乃!」
佳奈が軽口を叩きながらも、彼女の「かなまる」は段々追い詰められていく。
咲乃が一瞬の隙を突いて連続攻撃を叩き込むと、佳奈は小さく声を漏らした。
「ちょ、ちょっと本気出すからね!」
そう言いながらも、佳奈の動きに焦りが見える。
「秋渡!今だ!」
咲乃が叫ぶと同時に、僕の「めがねっち」が佳奈の後ろから攻撃を仕掛ける。
絶好のチャンスだ。
そう思った瞬間だった。
「秋渡!」
咲乃の鋭い声が響き、気づけば佳奈の「かなまる」が反撃を放っていた。
僕の「めがねっち」に狙いを定めたその攻撃を、咲乃の「キャッアイ」が身を挺して受け止める。
「咲乃!」
僕が叫ぶ間もなく、咲乃の「キャッアイ」は画面外に吹っ飛ばされてしまう。
その瞬間、佳奈は一気に僕の「めがねっち」に迫り、トドメを刺した。
「やっぱり私が最強だね!」
佳奈が得意げに笑いながら勝利ポーズを決める。
その余裕たっぷりの態度に、いづみと咲乃が同時に声を上げた。
「次は絶対負けない!」
「私も全力でいくわ」
「まあまあ、次は俺が佳奈を懲らしめてやろう」
ここで、ずっと見学していたヒロキングが動き出す。
彼が選んだキャラは、王冠をかぶった堂々たる王様「キングヌー」だった。
「ふむ、王者の貫禄というものを見せつけてあげよう」
彼の言葉に全員が一瞬固まるが、すぐに再び戦いが始まる。
いづみと咲乃が佳奈の「かなまる」に猛攻を仕掛けると、佳奈は徐々に防戦一方となる。
いづみの「イヌヌワン」は素早い突進攻撃を繰り返し、咲乃の「キャッアイ」は巧みに佳奈の動きを封じ込めていく。
「ちょっと、2人がかりは反則じゃない?」
佳奈が不満を口にするが、2人は容赦なく攻め続ける。
「ここでいただく!」
突然、ヒロキングの「キングヌー」が横から現れ、佳奈の「かなまる」を撃破した。
「ちょっと!私が倒すつもりだったのに!」
いづみと咲乃が声を揃えて抗議するが、ヒロキングは悠然と笑うばかりだった。
「これが王者の立ち回りというものだよ」
しかし、次の瞬間、いづみと咲乃の2人に集中攻撃を浴びて、ヒロキングはあっさりと敗北する。
最後は一騎打ち。
いづみと咲乃の激しい戦いが繰り広げられるが、ギリギリでいづみが勝利を収めた。
「やった!」
喜びの声を上げたいづみの背後で、佳奈が再び提案する。
「決めようよ、誰が本当に1番なのか!」
こうして1対1のトーナメント戦が始まった。
佳奈がシードとなり、1回戦は僕と咲乃、ヒロキングといづみの対戦だ。
「秋渡、ごめんね」
咲乃は控えめに謝りながらも、コントローラーを握る手は容赦なかった。
僕の「めがねっち」が咲乃の「キャッアイ」に一方的に攻め立てられ、身動きすらままならない。
「いやいや、咲乃、それ全然遠慮してないだろ!」
「仕方ないでしょ。これも勝つためよ」
咲乃は淡々と攻撃を重ね、僕の「めがねっち」を画面外へと吹っ飛ばした。
「……無念」
ゲームオーバーの画面を見つめながらため息をつく僕の横で、咲乃が静かに勝利を宣言する。
「これで1回戦突破ね」
続くヒロキング対いづみの対戦は、意外にも接戦となった。
「宮本、なかなかやるじゃないか」
ヒロキングの「キングヌー」はその王者らしい堂々たる動きで、いづみの「イヌヌワン」を圧倒していくかに見えた。
しかし、いづみの粘り強い戦い方に徐々に追い詰められていく。
「よし、これで決める!」
いづみが力強い声を上げながら必殺技を発動し、「キングヌー」に大ダメージを与えた。
そのまま勝負を決めるかと思われた瞬間、ヒロキングが手を止めたように見えた。
まだよけれる可能性もあるのに。
そのままヒロキングのキングヌーは倒されて、いづみが勝利した。
「さすが王様、空気を読むのも上手いな」
僕が呆れ気味に言うと、ヒロキングは肩をすくめて笑った。
「こっちの方がおもしろそうだからな」
咲乃対いづみの2人の戦いは熾烈を極めた。
「いづみ、今度は負けないわよ。私の背中にはめがねっちの思いもあるから!」
良いように言ってるけど、めがねっちは容赦なくボコられた気がするが気のせいだろうか。
「望むところよ!」
咲乃の「キャッアイ」が素早い動きでいづみの「イヌヌワン」に攻撃を仕掛けるが、いづみも負けじと反撃する。
一進一退の攻防が続く中、咲乃がスピードを活かした連続攻撃で一気に勝負を決めようとする。
「これで終わりよ!」
咲乃が勝利を確信し、必殺技を炸裂させた。
いづみの「イヌヌワン」は倒されて、咲乃の勝利となった。
咲乃は落ち着いた微笑みを浮かべていた。
「これでいづみとは引き分けね!」
そしてラストバトルが始まった。
「さあ、咲乃、どこまで私に食らいつけるかな?」
佳奈の「かなまる」がステージを縦横無尽に動き、咲乃の「キャッアイ」を翻弄する。
佳奈の経験値の高さが顕著に現れ、試合は佳奈のペースで進んでいた。
「まだ、終わらせないわ!」
咲乃は執念を見せ、佳奈の隙をついて何度も反撃を試みる。
時にはステージ外に叩き落とされそうになりながらも、驚異的な集中力で復帰を繰り返す。
そして迎えた終盤。2人の体力ゲージはほぼ互角となり、リビングの全員が息を呑んで見守る中、咲乃が最後の一撃を決めた。
「やった……!」
画面に「WINNER」と表示されると、咲乃は歓喜の声を上げ、思わず僕の方に飛びついた。
「秋渡! 勝ったよ!」
咲乃は歓喜の声を上げると、勢いよく僕に飛びついてきた。
小柄な彼女の身体が僕の胸に当たる。
あまりに急な出来事に、僕は反射的に支えるような形で彼女の肩に手を置いた。
「お、おい咲乃、いきなりなんだよ!」
「だって……! すごく嬉しくて……!」
咲乃は無邪気な笑顔を浮かべながら、僕を見上げる。
普段クールで落ち着いている彼女が、こんなにも感情をあらわにするのは珍しい。
僕はその笑顔があまりに眩しくて、言葉を失ってしまった。
彼女の鼓動が、僕の胸を通して伝わってくる。僕の鼓動も、きっと彼女に伝わっているだろう。
「……えっ?」
咲乃が突然、何かに気づいたように目を丸くする。
そして、はっとした顔で僕から離れると、徐々に顔を真っ赤に染めていった。
「ご、ごめん! 私、つい……!」
咲乃は慌てて視線を逸らし、両手で顔を覆った。
「いや……その、別に……」
僕もどう返せばいいのかわからず、言葉を濁す。
胸の鼓動が早すぎて、落ち着かない。
「咲乃、ずるい!」
その場にいた佳奈が突然声を上げ、腕を組んで僕たちを睨みつけた。
「勝ったからって秋渡に抱きつくなんて、そんなの私だってやりたかったし!」
「佳奈ちゃん……?」
「私だって、勝ってたら秋渡に……いや、なんでもない!」
佳奈は顔を赤くしながらぶつぶつと何か言い、いづみも苦笑いを浮かべる。
「ほんと咲乃ちゃんだけずるい……。でも、まあ勝ったから仕方ないか」
「優勝賞品ってことにしようぜ」
ヒロキングが冷静に茶化し、リビングには笑い声が広がった。
咲乃は顔を伏せたまま、小さな声で呟く。
「……嬉しさのあまり、つい……」
その声が聞こえたのは、僕だけだった。
結局、その後もゲームは続き、僕たちはその日の勉強を完全に放り出してしまった。
だけど、咲乃の笑顔がずっと頭から離れなかったのは、ここだけの話だ。
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「私がこの気持ちが名前をつけるまで、そばにいてくれますか?」という恋愛短編を1月19日AM10時頃に投稿しますのでよければよろしくお願いします。




