第39踊 これが咲乃の全力だぁぁぁ!
私、高塚咲乃は、内心焦っていた。
あれから少し経ったが、いづみの成長は本当に驚くべきものだ。
ちょっと前までじゃがいもの皮むきすらできなかった彼女が、今や堂々と料理を作っている。
しかも、なかなかの腕前で。
もちろん、まだ私には到底及ばないけど、このままうかうかしていたら、気づいた時にはウサギとカメみたいに抜かれているかもしれない。
そんな風に考えると、胸がざわざわする。
でも、負けられない。
私は常にトップでいたい。
特にこの分野では、譲れないものがある。
だって、私は昔から料理の腕には自信があったし、今もその自信に裏打ちされたレベルを持っているはずだ。
だから、今日は全力を出さなきゃいけない。
「いづみには悪いけど、私の力を思い知りなさい!」
心の中で叫びながら、私は料理を仕上げる。
今までの練習や、いろいろなレシピを試した成果が、ここに結集する。
そう、これが私の全力なのだ。
私の料理の腕前を見せつけてやろうと、念入りに仕上げた料理を、みんなの前に運び出す。
「さあ、これが私の全力よ!」
僕、片桐秋渡はいづみの生姜焼きを食べながら彼女の料理の練習風景を思い描いていた。
きっと、なつみさんに教わりながら試行錯誤して、何度も失敗して……それでも諦めずに頑張ったんだろうな。
あの料理が苦手そうないづみがここまで来るなんて、正直感動する。味もなかなか美味しかったし、努力の賜物だと思う。
するとドアが静かに開き、いづみのお母さん、なつみさんが顔を覗かせた。
「お邪魔してもいいかしら?」
その軽やかな声に、僕たちは思わず振り返った。
「お母さん、どうしたの?」
いづみが少し驚いたように尋ねると、なつみさんはにっこりと微笑んで答えた。
「ちょっとね、いづみが作った料理がうまくできたか気になって、見に来たのよ」
「えっ……あ、ううん、別にそんな……」
いづみが焦った様子で顔を真っ赤にしながら、慌てて否定した。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいわよ。私はただ、あなたがちゃんと料理を作れるかどうか心配だっただけなの」
なつみさんは笑いながら、いづみの様子を見ていて、彼女のことを心配しているのが伝わってきた。
いづみは少し身を縮めるようにしながらも、こっそりと作った料理に目を向けた。
「もう……そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「それならいいんだけど。私もいづみが頑張ってるところを見るのが楽しみでね」
なつみさんはいづみが作った料理をじっくり見つめていた。
「……あ、これ、なかなか上手くできてるわね」
なつみさんが感心したように言った。
いづみの料理がちゃんと完成しているのを確認すると、少し安心した表情を浮かべた。
「だって、お母さんに教えてもらったレシピだもん」
いづみが少し照れながら、でもどこか嬉しそうにそう答えた。
なつみさんはその言葉に頷きながら、ふっと笑顔を浮かべる。
「そうね、あの頃よりもずっと上手くなったわ。最初は本当に大変だったけど、毎日練習したおかげだね」
いづみはその言葉にまた顔を赤らめるが、今度は少し誇らしげな表情を浮かべていた。
「まだまだだよ……お母さんに教わるの、大変だったんだから」
いづみがぽつりと言うと、なつみさんは少し嬉しそうに笑った。
「それもいい経験よ。大変な分だけ、ちゃんと成長できるからね」
そう言い終わるとなつみさんは部屋を後にした。
2人のやり取りを見て、僕は改めていづみの成長を感じた。
あの生姜焼きも確かに美味しかったし、いづみがどれだけ頑張ってきたのかがわかる瞬間だった。
「いづみ、本当に頑張ったんだね」
思わずそんな言葉が口をついて出ると、いづみは少し照れくさそうに、でも嬉しそうに笑った。
「う、うん……まだまだだけどね」
そんな中、咲乃が意気揚々と料理を運んできた。
「さあ、これが私の全力よ!」
彼女が差し出したのは見た目にも美しいロールキャベツだった。
湯気が立ち上り、トマトソースの鮮やかな赤がキャベツの緑と絶妙に調和している。
「どう?ちゃんとした料理でしょ?」
自信満々に言い放ちながらも、どこか緊張した様子で僕を見つめている咲乃。
僕はフォークを手に取り、ロールキャベツにそっと刺した。
柔らかいキャベツがしっとりとフォークに絡みつき、中のひき肉の断面が現れる。
ひき肉には玉ねぎやハーブが絶妙に練り込まれていて、香りだけでも食欲をそそる。
一口食べると、キャベツの甘みと肉の旨味が口いっぱいに広がった。
トマトソースの酸味が絶妙なアクセントになっている。
「……めちゃくちゃ美味しい!」
僕が感想を言うと、咲乃はホッとしたように笑った。
「まあ、当然よね!」
なんて言いながらも、耳が赤く染まっているのを僕は見逃さなかった。
その場にいたみんなも次々とロールキャベツを口に運び、感嘆の声を上げる。
「これ、本当に咲乃ちゃんが作ったの?すごすぎだよ!」
「まさにお店の味だね!」
「さすが優勝候補だな!参りました!」
咲乃は「もっと褒めていいのよ?」と得意げに言いながらも、少し照れくさそうだった。
そんな彼女の姿を見て、みんなでからかうと「うるさい!」といつもの本領を発揮。
でも、その顔には嬉しさが滲んでいた。
「じゃあ、次は私の番ね!」
佳奈が自信たっぷりに言い放つ。
「咲乃は確かにすごいけど、次は私がその上を行くよ!」
「ふふ、言ったわね。楽しみにしてるわ」咲乃が挑発するように笑みを浮かべる。
佳奈は少し緊張しながらも宣言した。
「私の必殺技を見せてあげる!」
その言葉に、僕たちは期待と不安に胸を膨らませた。




