第33踊 三人の視線が怖すぎて試合どころじゃない件
ソフトボールの試合を終えた僕たちは、バレーボールの応援のために体育館へと向かった。
「お前、結構やるじゃねぇか」
道中、1組の男子が肩を軽く叩きながら話しかけてきた。
試合ではヒートアップしていた彼も、今はどこか親しげだ。
「次は負けねぇからな。横のヤツにもそう言っとけよ」
「……だそうだ、ヒロキング」
「ん?俺に負けたやつの声なんか、風に流されて聞こえんなぁ」
ヒロキングがふざけた口調で言うと、彼は顔を赤くして拳を振り上げたが、まあ、本気で怒っているわけではなさそうだ。
「で、お前って誰狙いなんだ?」
「は?」
突然の直球に思わず固まる。
「宮本か?平野か?それとも……あのちっこいの?」
「誰も狙ってないよ」
僕がさらっと答えると、彼は明らかにつまらなそうな顔をした。
「面白くねぇな~。でも、ちんたらしてると、俺が先に落とすかもしれねぇぞ?」
「そりゃないな」
すかさずヒロキングが茶化し、2人はまた軽くど突き合いを始める。
いや、本当は仲良いだろ、こいつら。
「ま、いいや。俺は久保直樹ってんだ。次は負けねぇからな!」
そう言って、彼は体育館へ向かって走り去っていった。
意外と悪い奴じゃない……のかもしれない。
体育館の中は熱気で溢れていた。
2年生の試合が終わり、いよいよ1年生の試合だ。
ふと視線を感じて振り向くと、盛り上がっている場所があり矢野先輩がこちらに手を振っていた。
どうやら先輩のクラスが優勝したらしい。
僕はヒロキングに断りを入れて先輩の元へ向かった。
「先輩、呼びましたか…」
言い終わる前に、矢野先輩が僕の腕を掴み、そのままぐいっと引き寄せた。
「これが私のかわいい後輩くんだよ!」
突然抱き寄せられた僕は、場の空気に飲まれて固まるしかなかった。
この人プレー中と素でキャラ変わりすぎだろ…
周りからは「キャー!」と黄色い声が飛び交い、体育館の熱気がさらに増していく。
「ねぇ、2人ってどういう関係なの?」
矢野先輩のクラスメイトが興味津々に尋ねてくる。
「運命だよ!入学式で初めて会った時から、もう私たちの未来は決まってたの!」
「キャー!」
先輩の発言にまたしても歓声が上がる。
いやいや、勝手に未来を決めないでくださいよ。
ふと遠くを見ると、高塚さん、宮本さん、平野さんがこちらをじっと見ていた。
けれど、その表情は……あれ、なんか怒ってない?
高塚さんは鋭い目で睨んでくるし、宮本さんは頬をぷくーっと膨らませている。
平野さんは微笑んでいるけど、目が全然笑ってない……怖い。
「先輩、誤解されそうな言い方はやめてくださいよ!」
「後輩くんは照れ屋さんだね~、ういやつめ~!」
先輩は僕の頭をガシガシ撫でながら得意げに笑う。
やめてください、誤解が深まるじゃないですか……!
やっと先輩の元を離れて3人の元へ戻ると、氷点下の冷気が漂っていた。
「……片桐くん、さっきの話、詳しく聞かせて?」
宮本さんの声は静かだが、妙な迫力がある。
高塚さんも腕を組んで僕を睨み、平野さんは笑顔のまま「楽しみにしてるね」と小声で囁いた。
やばい、怖い。
その状況を見かねたのか、ヒロキングが助け舟を出してきた。
「おいおい、なにそんなに怒っでるんだ?ほら、1番輝いたやつは片桐からご褒美がもらえるらしいぞ!」
突然の発言に3人がピクッと反応した。
「ご褒美って何?」
高塚さんが真剣な目で問い詰める。
ヒロキングは僕に目で「乗れ」と合図を送ってきた。
「あ、あぁ。何でも言うこと聞くよ……たぶん」
恐る恐るそう答えると、さっきまでの冷たい空気は嘘のように消え、3人の顔がみるみるやる気に満ちたものへと変わっていった。
そこへ再び矢野先輩が現れた。
「咲乃ちゃん、試合頑張ってね!同じ仲間として応援してるから!」
「由美先輩……片桐とはどういう関係なんですか?」
おそるおそる尋ねる高塚さんに、矢野先輩は満面の笑みで答えた。
「うん!師弟関係だよ!」
その言葉に3人の表情が少し緩む。
誤解も解けたようで、場の空気も元に戻ってきた。
そして、試合開始の時間が訪れる。
「よーし、行くぞ!」
高塚さん、宮本さん、平野さん。
それぞれがやる気をみなぎらせてコートへ向かう。
いよいよ、試合開始だ!




