第31踊 体育館に響く熱と想いと、君のスパイク
ソフトボールの試合が終わり、次の試合まで時間ができた僕たちは、女子のバレーボールの初戦を応援するために体育館へと向かうことにした。
外に出ていた熱い日差しから逃れるように中に入ると、すでに2年生の試合が白熱していた。
コートから響くボールを打つ音や、観客席からの歓声が体育館全体に広がり、そこにいる全員を熱気で包み込んでいた。
ふと視線を上げると、矢野先輩が試合に出ていた。
その姿は凛々しく、誰よりも目立っていた。
先輩は正確なトスを受けると、華麗にスパイクを相手コートに叩き込む。
ボールがコートに突き刺さる音に観客から歓声が上がり、「すごい!」と驚きの声も聞こえた。
そのフォームは完璧で、まるでプロの選手のようだった。
試合は矢野先輩のチームが圧倒的な強さを見せて勝利した。
試合後、先輩がコートを出ていく際にこちらへ視線を向け、手を振ってきた。
「誰あの子?」という周囲のざわめきに、先輩は笑顔で答える。
「うちの後輩くんだよ~」
そんな先輩の軽い言葉と柔らかな笑顔に、僕は照れくさくなりながらも小さく頭を下げた。
周囲の視線がなんとなくこそばゆい。
続いて行われるのは2組対5組の試合。
観客席で僕が目を向けたのは、もちろん高塚さんだ。
小柄な体型でバレーボールに不利に思えるが、それを補って余りある俊敏さとジャンプ力が彼女にはある。
その姿を目で追っていると、彼女が一瞬こちらを振り返った。
唇を動かして「見てて」と伝えてくる。
その言葉に頷くと、次の瞬間、高塚さんはコートの中で輝きを見せた。
仲間からのトスを受け、高く跳び上がり、思い切りスパイクを相手コートに叩き込んだ。
その音の力強さと、相手チームの誰も反応できない鮮やかな一撃に観客から拍手が沸き起こる。
僕も思わず大きく拍手を送った。
その姿を確認すると、高塚さんは少し得意げに笑ってみせる。
その表情に胸が少しだけ熱くなるのを感じた。
「咲乃ちゃん、やるねぇ」
後ろから聞こえた声に振り返ると、宮本さんと平野さんが僕の隣に来ていた。
平野さんがニコニコしながら言う。
「片桐くん、次はうちの応援もしっかりして行ってよ~」
すると宮本さんが、少し口を尖らせながら上目遣いで僕に尋ねてきた。
「佳奈ちゃんだけずるい! 私のプレーも見てくれるよね?」
「え、ああ、もちろん!」
僕が答えた瞬間、コートからバシーンという音が響いた。
見ると、高塚さんが再びスパイクを決めていた。
ただ、こちらを見ている彼女の表情はどこか怒っているように見えた。
何か気に入らないことでもあったのだろうか。
次のラリーでも高塚さんは攻撃の要となり、相手を圧倒していた。
だが、どこか力が入っているようにも見える。
それが「負けたくない」という意地なのか、それとも……。
試合はその後も順調に進み、2組が5組に勝利した。
試合終了後、高塚さんがコートから降りてきて、僕に近づくと、いきなり軽く足を蹴ってきた。
「なに鼻の下伸ばしてるのよ! しっかり応援しなさい!」
突然の一撃に戸惑いつつも、「いや、ちゃんと応援してたって!」と慌てて弁解する僕をよそに、高塚さんはふいっとそっぽを向いてしまう。
その様子に、僕は思わず笑みをこぼしてしまった。
次に始まったのは1組と3組の試合。
宮本さんと平野さんが所属する1組は、試合開始直後から圧倒的な強さを見せた。
平野さんが力強いスパイクを決めてこちらを振り返り、Vサインを送ってくる。
負けじと宮本さんも華麗なスパイクを決め、親指を立ててサムズアップしてみせた。
横に立つ高塚さんも、それを見て「これはかなり手強そうね」と呟いた。
僕は「そうだな」と同意する。
試合後、高塚さんは僕の方をじっと見て、ボソリと言った。
「片桐、私、負けないから」
その言葉には強い決意が込められていた。
僕は微笑みながら「お互い頑張ろうな」と声をかけた。
高塚さんは少し驚いたような顔をしながらも、小さく頷き、拳を差し出してきた。
「んっ」
それに応えるように僕も拳を合わせる。
その瞬間、体育館の熱気や歓声が少し遠のき、ただ彼女の瞳だけが輝いて見えた。
「次も頑張ってな」
「……片桐もね」
それだけの言葉を交わして、僕たちはそれぞれの試合に向けて歩き出した。
心の中で、高塚さん、宮本さん、平野さん、それぞれの健闘を祈りながら。




